表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/27

転入とその騒動 Ⅴ

「なに、この茶番は……」


「なんなん? これ?」


 二人は保健室内に踏み込むと、揃って卿がそがれたような表情を浮かべていた。


「な、中川と田宮!? お前ら何で……」


 焦った立浪くんは、しかし私の震えによって、状況を悟る。


「これ……もしかしてお前らが仕組んだのか?」


 立浪くんの声に怒りが宿る。


「あんたには関係ないでしょ」


「か、関係ないって……」


 しかし、中川さんに一言で切って捨てられた。

 それに唖然とし、その隙に中川さんの矛先が私を向く。

 ギラついた、とても十代の少女が醸し出しているとは思えない、剣呑な視線が私を射抜く。


「姫ちゃんさぁ……なんかやる気だったじゃない? あれなんだったの?」


 そんな事言われたって……好きでやってた事じゃない……。

 そもそも、なんで私がそんな事しないといけないの?

 私はこれまで自分がしてきたことを振り返る。

 今、一番傷ついているのは誰?

 私はどうすべきなの?

 その時、私は軽く引き寄せられる。


「っ」


 立浪くんが、私を中川さんの視線から庇ってくれようとしているんだ。

 そうだ……そうだよね?

 私は、頭が麻痺していたんだと思う。

 慣れない環境に置かれて、混乱していた。


 ――――冷静になれ!

 

 よし!!


 頭の中で、スイッチがカチャリと切り替わる感覚。

 その感覚に、私は少しだけ身に覚えがあった。

 

 これって……『聖女』の強制力が働いてる時に似てる……。


 無論、似ているだけで同一のものではない。

 私の意思や制御は変わらずに私の物だ。

 でも、今は細かい理由はどうでもいい。

 目の前の問題に対処する事が先決だ。


 冷静になれば、どうして中川さん達に従っていたのか、不思議でしょうがない。

 立浪くんには本当に酷い事をしてしまった。

 私は、他の誰でもない彼のために立ち上がらなければならない。


「…………う、うるさい」


 私は意を決して、言った。


「は?」


 中川さんが目を細め、田宮さんが威圧的な声を上げる。

 ふ、震えるな……こ、恐がるな……。

 弱々しい主張でも、二人は確実に私の叛意に気づいたはず。

 だったら、もう後には引けない!


「う、うるさい! 私は二人の思い通りにはならないっ!」


 い、言ってしまった……。

 僅かな後悔が押し寄せてきたけれど、それはすぐに興奮に押し流されていく。

 言ってしまったから、言ってやったにシフトし、胸の内がすっきりするも、二人の鬼の形相を目にした瞬間、また後悔が押し寄せる。


「今……なんて言った?」


「私ら舐めとんのか?」


 ひぇぇ……。

 顔怖すぎるよ!

 中川さんと田宮さんは、額をピクピクと痙攣させ、鬼のような笑みを形作っていた。

 特に田宮さんは日焼けの影響からか、恐ろしさが二割増し。

 こ、これが鬼の形相……!

 

 だけど、今までの私とは違う。

 今までは悪意を見せられると、問答無用で降参だったけど、もう簡単にはやれたりしない。

 少なくとも、気持ちの面では。


「わ、私は普通に仲良くしたいだけだよ!」


 ただそれだけなんだ。

 それだけで、いいんだよ。

 だけど――――


「毎日遊んであげてるでしょ?」


 中川さんが冷笑を浮かべながら言う。

 そう。

 残念ながら、彼女たちの普通と、私の普通は違う。

 私の望む『対等な』お友達は、望めないんだろうね……。


 だったら、もう道は一つしかない。

 操り人形をやめたいのなら、私に絡まる糸から脱しないといけない。


「……もう私に関わらないで……」


 きっと、これは悪手だ。

 その証拠に――――


「うふふふふふ……」


「あははははは……」


 二人は私を心底馬鹿にしたように嘲笑っている。


「いいの? 誰もあんたに近づかないわよ?」


 操り人形は私だけではない。

 クラスメート達のほとんどが、右に倣えで中川さんの味方だ。

 きっと、中川さんにカリスマ性があるとか、そういった事じゃない。

 ただ単純に、田宮さんが恐いとか、そういう理由なんだろう。

 女社会では時に、男社会以上に単純な力や暴力が脅威になる事がある。

 中川さんと田宮さんの仲がいいのも、そういった部分に理由があるんだと思う。

 相性の問題だ。


 だけど、相性の問題だとするなら、中川さんと私の相性も、ある意味では抜群だ。


「……つかさに……中川さん達にされた事言っちゃうよ?」


「…………」


 その私の一言で、今度は中川さんが凍り付いた。

 私が中川さんと接してきた中で、真実があるとするなら、それはつかさに対する気持ちだ。

 中川さんは本気でつかさの事が好きなんだ。

 だからこそ、私は中川さんに圧倒されてしまった。

 自分のあやふやな気持ちに名前をつけられずに、言われるがままだった。


 でも――――もう違う。


 私はつかさが好きだ!

 尻軽でも、ビッチでも、美少年好きのショタコンでもなんでもいい!

 つかさが好きなんだよぉ!


 その気持ちだけは、私も確信をもって言える。

 私は睨み付ける中川さんを見つめ返した。

 ジリッと、中川さんが僅かに後退した……ように見えた。


 これも、中川さんとの、『お友達』としてのケジメ。

 そして、立浪くんへの感謝と心からの謝罪を込めて、


「中川さん……前にはっきり言えなくてごめん。でも、私もつかさくんの事が好きだから! それと、立浪くん、今日は本当にごめんなさい……」


 宣言する。


「――――っ!」


 中川さんは唇を噛みしめて。


「そっかぁ……」


 立浪くんは切なそうながらも、笑みを浮かべていた。

 立浪くん……君はすっごいカッコイイから、きっともっといい子が見つかるよ……。

 なんて、口に出しては絶対に言えないけどね……。

 

 そんな事を考えながら、私は中川さんとの睨みあいを続ける。

 横槍を入れるのは、当然田宮さん。


「さっきから何勝手な事ばっか言ってるんや? 調子に乗んなよ?」


 ドスの利いた声で田宮さんは拳を握る。

 水泳で鍛えられた二の腕の筋肉が躍動し、私は生唾を飲んだ。


「つかさに言いたいなら言えや! どうなるか分かってるんやろな?」


 田宮さんは一歩踏み込む。

 今すぐにでも、私に殴り掛かってきそうだった。


「や、やめて! 由紀子!」


 そんな田宮さんを止めたのは、やっぱり中川さん。

 

「な、なんでや! 椿はあんだけ言われて黙っとけるんかいな!?」


 当然、田宮さんは不満を露わにする。


「ゆ、許せないわよ! 許せないけど……深谷くんに言われたら……」


 中川さんは、自分のやった事を知られると、つかさの不興を買うだろうということは理解しているみたいだ。

 またしても、つかさを利用しているようで心苦しいが、状況が状況だけに、勘弁してもらいたい。

 それに、きっとつかさは私の事好きだし!

 いや、理由はないけどさ……きっと、たぶん……そんな気がするかな? みたいな……。

 と、とにかく、私のような美少女の助けになれて、光栄に思いなさいっ! ってことで!

 今だけは、そういう事にしておこう。


「チッ!」


 中川さんの弱腰な姿勢を見て、田宮さんは舌打ち一つして、私を睨む。

 そのくらいの自制ができるくらいには、二人の間に信頼関係があるようだ。

 私と、中川さんと田宮さん。

 三人は一定の距離を保ちながら、しばし無言で睨みあった。

 立浪くんは、私の下で小さくなって、存在感を必死に消していた。

 本当にごめんね……立浪くん。


「あああ! もう!」


 しかし、そんな状況も五分も続かず、田宮さんは再び気勢を上げる。


「言って分からん奴は殴ればええんやっ! つかさに何も言えんくなるようにしてやる!」


 田宮さんの実に男らしく、そして愚かな選択。


「か、顔はやめなさいよ!」


 中川さんも、そんな田宮さんを抑えるのに限界を感じたのか、忠告を一つして容認する。

 その連携の良さは、暴力に訴えるのがこれが初めてでないという証だ。

 私は胸糞の悪さを覚えつつ、覚悟を決める。

 下を見ると、立浪くんが表情を硬くしているので、軽く笑いかけておく。

 無関係の彼に、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。

 結局のところ、これまでの事は全部私自身が蒔いた種なのだから。


 田宮さんが私に向けて拳を振り上げる。

 その瞬間――――


 バンッ!!


 勢いよく、保健室のドアが開く。

 そこにいたのは――――


「ひ、広瀬さん!?」

 

 忘れるはずもない。

 つかさを刺し、私に憎悪を向けた張本人である、広瀬さんの姿だった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ