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箱庭の嘲笑  作者: 琉宇
15/21

15

 今日はいつ気絶させられるのだろう。

 身構えながらキチ女の後ろを歩く帰路。

 逢魔が時――化け物と出会ってしまう日暮れ。この世界ならありえる展開だ。というよりすでに私の目の前に化け物がいる。

 その化け物が振り返った。

 とうとう来たか。咄嗟にファイティングポーズを決め込んだ。何の意味もない体勢だが、咄嗟に出てしまったからには仕方がない。

 しかしクソ女の瞳は私を捉えていなかった。私の後ろを見て、微笑んでいる。

「話がある」

 声がして振り返ってみると、そこには同じクラスでありハンターでもある犬飼剣人が立っていた。

 私は一歩下がり対峙する二人を見つめる。

 朱色が差す日の光が二人を染め上げている。確かにここにあるはずなのに、どこかこの世のものとは思えない光景だ。

「なあに?」

「生徒会の奴らに近づくな」

 剣人が睨み付けるように言ったが、キチ女はどこ吹く風。

「近づいたらどうなるのかな?」

「命が惜しくば余計なことに首を突っ込むな」

「つまり命を亡くすってこと?」

「そうだ」

「一介の学生が何をするっていうのかしら」

「奴らは資産家の子どもだぞ。それを一介と言えるのか?」

「金持ちの道楽で人が死ぬ、と」

「端的に言えば」

「じゃあ、あなたも死ぬのね」

「は?」

 破顔した剣人に、クソ女はゆっくりと近づいていく。

「だって、首、突っ込んでるでしょ?」

「俺は平気だ」

「それはあなたが理事長の庇護下にあるから?」

「なっ」

 剣人は動揺を隠さずふらついた。

 私も動揺している。何せ、サイコ女にまだ剣人の情報を伝えていない。そのうえ、理事長と剣人の関係は学校では噂にすら上っていない。

 どうして知っている。自分で調べたのか? なんのために。いや、単純なことか。犬飼剣人も標的の候補だった。それだけか。

 皇貴のときもそうだが、この女は獲物となるもののことを調べている。おそらく、他の生徒会の奴らのことも調べているに違いない。ただ殺すのに、どうしてそんな情報が必要なのだろうか。イカレた殺人鬼の考えることはわからない。

「あなたのこと嫌いじゃないのだけど、今回は選んであげない」

「何を言って――」

「それでも首を突っ込むというのなら、切り落としてあげるわ」

 クソ女の指が剣人の首筋を撫でた。

 剣人は身体も表情も固まってしまっている。

「逃げてもいいのよ?」

 その一言で剣人は駆け出した。

 憐れに思う。剣人は優しさから忠告をしに来ただけだ。それなのに、こんな気狂いの片鱗を見せられるなんて。

 剣人はハンターである。若輩ながらも数多くの人外と相対してきた。そんな彼がキチ女に恐怖したのだ。つくづく人並み外れていると感じる。

「化け物め」

「よく言われる。それより家に寄っていくわよね?」

 ものすごい鈍痛とともに意識が飛ぶ。

 目が裏返る瞬間見えたクソ女から伸びる黒い影が、私を嘲笑っているようだった。



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