15
今日はいつ気絶させられるのだろう。
身構えながらキチ女の後ろを歩く帰路。
逢魔が時――化け物と出会ってしまう日暮れ。この世界ならありえる展開だ。というよりすでに私の目の前に化け物がいる。
その化け物が振り返った。
とうとう来たか。咄嗟にファイティングポーズを決め込んだ。何の意味もない体勢だが、咄嗟に出てしまったからには仕方がない。
しかしクソ女の瞳は私を捉えていなかった。私の後ろを見て、微笑んでいる。
「話がある」
声がして振り返ってみると、そこには同じクラスでありハンターでもある犬飼剣人が立っていた。
私は一歩下がり対峙する二人を見つめる。
朱色が差す日の光が二人を染め上げている。確かにここにあるはずなのに、どこかこの世のものとは思えない光景だ。
「なあに?」
「生徒会の奴らに近づくな」
剣人が睨み付けるように言ったが、キチ女はどこ吹く風。
「近づいたらどうなるのかな?」
「命が惜しくば余計なことに首を突っ込むな」
「つまり命を亡くすってこと?」
「そうだ」
「一介の学生が何をするっていうのかしら」
「奴らは資産家の子どもだぞ。それを一介と言えるのか?」
「金持ちの道楽で人が死ぬ、と」
「端的に言えば」
「じゃあ、あなたも死ぬのね」
「は?」
破顔した剣人に、クソ女はゆっくりと近づいていく。
「だって、首、突っ込んでるでしょ?」
「俺は平気だ」
「それはあなたが理事長の庇護下にあるから?」
「なっ」
剣人は動揺を隠さずふらついた。
私も動揺している。何せ、サイコ女にまだ剣人の情報を伝えていない。そのうえ、理事長と剣人の関係は学校では噂にすら上っていない。
どうして知っている。自分で調べたのか? なんのために。いや、単純なことか。犬飼剣人も標的の候補だった。それだけか。
皇貴のときもそうだが、この女は獲物となるもののことを調べている。おそらく、他の生徒会の奴らのことも調べているに違いない。ただ殺すのに、どうしてそんな情報が必要なのだろうか。イカレた殺人鬼の考えることはわからない。
「あなたのこと嫌いじゃないのだけど、今回は選んであげない」
「何を言って――」
「それでも首を突っ込むというのなら、切り落としてあげるわ」
クソ女の指が剣人の首筋を撫でた。
剣人は身体も表情も固まってしまっている。
「逃げてもいいのよ?」
その一言で剣人は駆け出した。
憐れに思う。剣人は優しさから忠告をしに来ただけだ。それなのに、こんな気狂いの片鱗を見せられるなんて。
剣人はハンターである。若輩ながらも数多くの人外と相対してきた。そんな彼がキチ女に恐怖したのだ。つくづく人並み外れていると感じる。
「化け物め」
「よく言われる。それより家に寄っていくわよね?」
ものすごい鈍痛とともに意識が飛ぶ。
目が裏返る瞬間見えたクソ女から伸びる黒い影が、私を嘲笑っているようだった。




