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生徒会室は学校の一室とは思えないほど立派である。素材も仕上がりもよくできたテーブルの上には、菓子や茶などが点々としている。そのテーブルを囲むようにあるソファもこれまた上質なできだ。その柔らかなクッションに身を預けている五人がいた。
「さて、皆の見解を聞こうじゃないか」
いつもの微笑みで龍は他の者たちの顔を眺めて言った。
「ボクはやっぱり、ただの人間だと思います」
「どうして?」
先陣を切ったのは翔だった。
「だってあいつらがボクたちに襲われている人間を放っておくわけないじゃないですか」
「だからあんたそれ、プレイだって思われたんでしょ?」
「お前みたいなのと一緒にするなー!」
翔は琉衣に噛みつくように、手元にあった空のコップを投げつけた。琉衣はそのコップを見つめているだけで、眼前に迫っても避ける動作をしない。
「まったく。遊びの時間ではないぞ」
そしてカップは琉衣の隣にいた皇貴によって、あっさりと回収されてしまった。
「ごめんなさーい」
「すみません」
琉衣の軽い返事とは対称的に、翔は恥じるように答えた。
「あたしはハンターだと思うわ。このあたしが首を絞められた上に、投げ飛ばされたんだから」
「お前が弱いってだけじゃない?」
「なんですって?」
馬鹿にされた琉衣は、翔に食ってかかろうとした。だが美海が身を乗り出してきたため、強制的に止められてしまった。
「はいはーい! ミューはそんなのどーでもいいでーす。とりあえず仲を深めて、なかまで探り合う関係になりたいでーす!」
「あんたにあの娘は勿体ないわ。あたしがもらうわよ」
「はい? マゾ豚は黙っててよねえ。ミューは上下関係のない、お互いに愛し合える関係になりたいの」
「あんたも大して変わんないでしょ。それに新しい性癖発展させて何が悪いのよ」
「二人とも不潔過ぎ」
琉衣と美海の不毛な戦いが始まろうとしていた。そんな様を翔は心底気持ち悪いという目つきで見ている。
翔は性的なことが嫌いではないが、それをあからさまに出し過ぎている二人を毛嫌いしていた。翔にとってそういった行為は、好きなものとするものだからだ。
「皇貴は?」
「俺は悪い奴だとは思えなかったが」
そして全員の少女に対する意見が出終えた。その意見を吟味するように龍は一瞬、黙る。実際は逡巡などしていなく、愉快で馬鹿げた言葉たちに笑い転げそうになるのを堪えているだけだが。
「そっか。じゃあ、俺が見たのは何かの間違えだったのかな?」
「そ、そんなことないですよ!」
龍は落ち込んだように見せた。それにまんまと騙された翔は慌てて否定した。
騙されたといっても、翔は龍を信奉しているものの一人であるから、落ち込んだ様子でなかったとしても否定していただろう。
龍が見たものとは、少女が閉じられた準備室に入り、男を殺したところだ。
男はグールと呼ばれる化け物であり、食人を行うものたちでもある。勿論現在では統制がとられた食人だ。
しかし、グールは理性が弱い。一時の迷いですぐに暴走する。だから強靭な精神力を持たなければ人間を喰らい、そして狩られる側になってしまう。
今回の男も一時の迷いで暴走した。だが、それを瞬時に察知した生徒会が捕縛した。
生徒会は校内の人外を管理するための組織でもある。学内の若きハンターもそれを担ってはいるものの、同じ人外同士の方がある意味ハンターより優れているのだ。
男を準備室に監禁している間、懲罰として常に苦痛を感じるように魔術を施した。準備室内には懲罰用の術と、その中では許可されたものしか人外の力が使えないように設定されている。
だが、その術式を少女は破壊したのだ。本来だったら普通の人間が準備室に入っただけで術が壊れることはない。ハンターなら別だが。
そして術がなくなったグールは自由になって少女に襲いかかり、返り討ちにされた。
その少女がハンターであればなんの問題もない。勝手に鍵のかかった準備室に入ったことは罰せられるべきだが。
だが少女がハンターだという記録はどこにもなかったのだ。
人間側が何か仕掛けてきたのか。いずれにせよ調査は必要だった。
「龍はどうなんだ? お前も会ったのだろう?」
「面白い子」
「確かにそうだな。彼女と話しているのは楽しかった」
「そうだね」
龍と皇貴の間での少女の認識は明らかに違った。それぞれ狂気の面と正常の面を評価している。その違いを理解しているのは龍だけだった。
当たり前だ。まだ龍以外のものたちは知らない。少女の秘部を。厚いようでいて薄いベールに隠された赤い果実を。
「とにかく、調査は続行ってことでいいのよね?」
「いいよ」
「あんたも動くんでしょうね?」
生徒会で調査と言いつつ、龍はいつも指示を適当に出しておくだけで動かない。だが、今回は何故か乗り気に見える。だから嫌味も込めて琉衣は聞いてみた。
しかし、龍からは微笑みしか返ってこない。
琉衣はため息を吐いた。相変わらず何を考えているかわからない男だ、と。
しかしそう考えているのは琉衣だけではない。龍と接する誰もがそう思うだろう。
そこから派生していく感情は様々なのだが。皇貴は尊敬の念を抱き、翔は盲信した。琉衣と美海は畏怖していた。二人とも下半身でしかものを考えないものたちだが、どうしてか龍だけには言い寄る気が起きなかったのだ。その根源は聖域かと見紛うほどの神々しい御身への恐怖。それに他ならない。
「皆、好きに動いていいよ」
龍の一声が響いたかと思うと、四人は立ち上がって退出していく。
このかけ声が、話がついたという合図だった。
龍の視界には、出て行く四人が赤く染まっていくように映っていた。




