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箱庭の嘲笑  作者: 琉宇
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 キチ女にやっとの思いで追いついた。だがキチ女は息を切らす私に見向きもしないし、足を止めることもしない。労いの言葉くらいかけられないのか。むしろ先ほどの不適切な発言についての謝罪がほしい。

 そんなことを考えていると、サイコ女が止まって一歩横にずれた。

「きゃあ!」

 可愛らしい悲鳴とともに、床に水が叩き付けられる音がした。その水は跳ねっ返り、私の靴下を微かに濡らす。

「大丈夫!? 水かからなかった?」

 ええ、ええ、かかりましたよ。貴女が話しかけている女にではなく、この私に。無駄な文句は考えるものではないと思う暇もない。

 ピンク色のツインテールがゆらゆらと揺さぶられている。大きな桃色に少し紫がかった瞳が忙しなく、クソ女の身体を見つめている。

 そう、彼女は攻略対象の鳴井美海。このゲームは女の子も攻略できてしまうのだ。

「あー! 水かかってるね! 保健室に行こう!」

 一言も発さない鬼畜女の腕を掴んで美海は歩き出した。キチ女はなんの抵抗も見せず言われるがままにされている。

 抵抗する理由もないのだろう。獲物が自分から懐に飛び込んできてくれたのだ。

 美海はセイレーンという種族だ。セイレーンは性衝動が強い生き物で、美海もそれに漏れない。さっきの吸血鬼と同じく、バイであり誰とでもやるような娘だ。だから美海も戦力外だといえる。セイレーンは歌で相手を魅了するという、これまた吸血鬼と似た能力を持っているが、キチ女の相手にはならない。

 だからといって簡単に美海には獲物として捕まってほしくないというのが私の本音である。最初はなんだこのアマはと思うような美海だが、攻略していくと可愛く見えてくるのだ。

 誰にでもすり寄ってしまう美海に、ヒロインが心配するようになる。そして、献身的なヒロインに美海が惚れる。だが、そんな恋心と性衝動との間に葛藤が起こる。そこでエンディングが分岐していく。

 ハッピーエンドは二人は相思相愛になり美海の性衝動も治まる。とはいってもヒロインへの衝動は止まらないらしく、二人いつまでも睦ましく暮らす。落とし穴はセイレーンの能力によりヒロインが不老不死になってしまうことだ。齢をとらないヒロインに周りは離れていき、いつしか死んでいく。絶望するヒロインのそばにそっとすり寄る美海。酷い話だ。

 ノーマルエンドは何も解決しないまま卒業。バッドエンドは二人そろって、まあ、あれだ。

 字面は酷いが、ゲームをプレイしていると切なくなる。自分の本能であり体質でもあり、それが価値観でもあるものをヒロインの為に変えようとする姿が本当に健気だった。

 だが、このクソキチガイヒロインには美海が惚れる要素が一つもない。となると、あの健気で可愛かった美海を見ることはできない。美海が死んでしまうとこよりも、そんなことの方が残念に思っているあたり、私もそうとう頭がおかしいのかもしれない。


 保健室には私もお邪魔させてもらった。だが、二人とも何も言ってこない。他の攻略対象と接触したときも考えると、私は空気にでもなっているのだろうか。その方が都合がいいから問題はないが、少しみじめな気分になる。

 最近、誰かと話すといえば家族かサイコ女だけだ。だからだろうか、私の存在が消されていく気がする。考えるのはよそう。虚しくなるだけだ。

 それにしても仮想舞台の保健室にはどうして人がいないのだろうか。いたとしても、そこには綺麗な保健の先生か、ベッドで寝ている不良か美少女か。

 学校の中で密室にしやすくてベッドがある所、というシチュエーションだからだとは思う。だが、一般に保健室を利用する生徒のことも考えろと。ファンタジーにツッコミを入れる無粋さがあの女から移ってしまった。気分が悪い。ぜひ、目の前のベッドを使わせていただきたい。

 しかしベッドはカーテンがかけられていて使用中となってしまっている。それが普通に寝ているだけなら文句はない。だがしかし、中はどうやらお楽しみ中だ。誰が、なんていうのは決まっている。クソ女と美海だ。ある意味はイベントの通りだが、ヒロインが違うため何やら変な方向にいっているのだ。

「お顔の色がとーってもよくないよお? だからね。ねよ?」

「それはわたしの上に乗りながら言うことかな?」

 本当だったら、美海がかけた水をもろに被ったヒロインは保健室で着替えることになる。そこで着替えを手伝うと言い出す美海に、あれやこれやされてしまうのだ。だがクソ女は全く濡れていない。だからか美海はかなり強引なことをしている。

「ミューがカイホウしてあげる」

 ミューとは美海の一人称だ。初めはぶりっ子かよ、と思ったが後にこの一人称も可愛く思えてくる。

 ゲームの中の可愛らしい美海の姿を思い浮かべている目先で、いかがわしい行為がなされ始めた。

 カーテンに映った二人の影がピッタリとくっついて、粘つくような水音が聞こえてくる。

 たっぷりと時間を置いてから、キチ女が美海の頭を掴んで引きはがした。

「介抱が必要なのはあなたの方みたいだけど」

 吐き捨てるように言って、カーテンが引かれた。

「覗きは犯罪よ?」

 いつもの理不尽な言葉だ。これにいちいち反応していては私の胃がもたない。だけど、どうしてもイラつかずにはいられない。

「ねえ、まってよお。ミューのことこんなにしておいて放っておくつもりい?」

 落ち着くために一息吐こうとした矢先、美海のあられもない姿が見えた。

 ちなみに美海は三つ性器がある。乙女ゲーではなくエロゲーでやれと、本当に思う。だがそんな思いも虚しく、美海の一つのものが反応しているわけである。

 クソ女はゴミを見る目で美海を見てから保健室を後にした。

あれはそんな粗末なもの見せるなよって目だ。美海のものは粗末ではなく、むしろ立派だ。だが、クソ女はそう言っているに違いない。

 殺人鬼の前世はシリアルキラーの都だと睨んでいる。だからそれくらいのものはよく見ていただろう。それに琉衣との話ぶりからすると、そういった経験は積んでいたようだった。だから物足りないのか。

 不健全だ。18禁ゲームをプレイしておいて思うことではないが、酷く不健全だ。画面越しならいいが、肌で感じる近さでそれを見せられると不快不愉快。

 両親の営みを見てしまったときと近しい感覚。でもまったく違う。なんなのだろうか、この気持ち悪さは。

「彼女としけこんでるのかと勘違いするところだったわ」

 毎度のことながら一歩遅れてキチ女に追いついた。そして開口一番の嫌味と微笑みのセット。

 ああ、そうだ。私はきっとこの女の快楽に歪む顔を見たくないのだ。自分が殺される場面が浮かぶから。いや、違う。殺人の快楽と性行の快楽が女の中で同じということが許せないから。そうか。そうなのか?

「クソビッチが」

 もう考えるのが面倒になって悪態をついた。

「久しぶりに言われたよ」

 こいつにとって悪い方向でその澄ました顔を歪ませられるなら、もうなんだっていい気がしてきた。

 ああでも、性行で快楽を得ることはこの女には無理だ。ヒロインの血筋はあらゆる人外に対処するために身体強化がなされている。その一つは快楽に強いこと。淫魔やらがいるせいでそうなったようだ。つまりヒロインは不感症。本当に愛するものとのみ快楽を得られるという但し書きがついているが。

 だからこのサイコパス女には無理なのだ。

 これで安心だ。



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