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この学校は生徒数が多い。だから休み時間、特に昼休みには至る所に人がごった返す。だというのに、キチ女はどうやって探したのだか、学校の裏側にある穴場を見つけ出したのだ。芝生が綺麗に生えそろっていて、心地いい風がそれを撫でている。しかも建物を背にすれば、まるで木々に囲まれているような感覚になれる。レジャーシートでも広げれば、ちょっとしたピクニック気分だ。こんな昼食に絶好の場所になぜ人がいないのか。少し不思議だが、考えてはいけない気がする。
クソアマは持参のシートを我が物顔で敷いて、その上で弁当を広げていた。広さが十分あるシートだ。私もお邪魔させてもらう。これくらい許されるだろう。
母ご自慢の冷凍食品弁当を広げて食べる。正直、この女の前だと食欲なんてまったく湧かない。だが、食べなければ持たない。
ちらりとサイコ女の弁当を見る。冷凍食品など一切入っていない。その上、栄養のバランスが取れたいろどり。両親はいないと言っていたし、もしかして自分で作ったのか。いや、まさか。
「食べたいの?」
「遠慮します」
少し羨ましいと思った。思っただけで食べたいなどとは一欠けらも思っていない。
そのまま無言で食べ進めていき、完食した。隣の女はまだ食べている。だけど、話し始めるとしよう。イカレ女の都合など知るか。
「多分、今日辺りに吸血鬼があんたの家に行くと思う」
「遊びにくるのかしら」
「ある意味。目的はあんたの血を吸うこと。血を吸って情報を得ようとする」
「それって感染しないの?」
感染という言い方に少し吹き出しそうになった。疫病か何かか。
「しない。けど、操られやすくなる」
「操る?」
「吸血鬼は人をある程度操れる能力がある」
「それは困るねえ」
「あんたは平気。血が特別だって言ったでしょ」
吸血鬼は血を吸わなくても、意志や自我が弱い人間は操れるらしい。しかし、これは催眠術みたいなもので本人の望んでいないことについては言うことを聞かない。だから、吸血鬼は相手を魅了する。魅了して、この吸血鬼のためならなんでもすると思わせる。
どのみちヒロインには操作も魅了も効かなくて、そこが吸血鬼に気に入られる点となっていた。
「ふうん。ちなみに血からどんな情報がわかるの?」
「強い感情が働いたときの記憶」
「どうして血からそんなことがわかるの?」
「ファンタジーにツッコミ入れないでくれない?」
「あら、ごめんなさい」
心のこもらない謝罪だ。というか、それを言うならどうして人を操れるのだ、とかあるだろう。もしかすると、人を操るのはこいつにとって造作もないことだから疑問点に上がらなかったとか。操るって言っても言動で操るのではなく、不思議な力的なもので操るのだが、字面からしたら、そう判断するのかもしれない。
「ちなみにどうやってくるのかしら? 正面から?」
「いや。夜にあんたの部屋の窓のところに現れて、入れてくれって言ってくる」
「それで? そのヒロインとやらは素直に開けてしまうのかしら」
「うん。まあ、ヒロインは好奇心が強い設定だったから」
「好奇心が身を亡ぼすことを知らないのかなあ」
「いや、あのそうしないと話進まないんで」
クソ女は馬鹿にしたように笑った。
「昔ね、わたしが楽しみ終わった後に何か気配がすると思ったら一人の少年がいてね。時間も時間だったし、人が来る場所でもなかったわ。だから気になって聞いてみたの。どうしてこんなところに来たのかって。そうしたらね、その子、ちょっと気になって、って言ったのよ。もうおかしくておかしくて。笑っちゃったわ」
「笑いどころがわからない」
「だってそのちょっと気になる、の所為で命を落としてしまうなんてあまりにも馬鹿らしいじゃない」
そうですね、としか言えない。
こいつは本当に今まで何人殺してきたのだ。殺人鬼の前では人の命なんてないに等しいのか。ふざけるな。
「あなたも気を付けた方がいいわ。と、思ったけどもう遅かったわね」
このクソアマ。
確かに私がこの女に近づいたのは、好奇心が大半だ。だからといって、面と向かってそう言われると腹が立つ。自分の愚かさなど、わかっている。本当に馬鹿なことをした。関わらなければよかった。でも、私だけが悪いわけではない。本当に悪いのは人を殺して楽しんでいるサイコ女だ。
「まあ、いいわ。サンタを待つ気分で待ち構えるとするね」
「あんた、サンタとか信じてたんだ」
そうだった。この世界ならあり得るけど、この女は化け物から生まれたわけではない。それなりに可愛い幼少期というものがあったはずだ。
「ええ。でもサンタを捕まえようとしてベッドの下で待機してたの。部屋にサンタが現れたから、足元切り裂いて、跪かせて、それから顔を見ようと思ったのよ。そしたら、サンタの正体はなんとパパだったわ。真実って残酷よね」
「だから、殺人鬼ジョークはいらねえっつってんだろっ!」
そして残酷なのは貴様だ。あまりの内容に、口が汚くなってしまった。
その後、父親はどうなったのだろうか。まさか、それで殺したのか。というより、こいつが語る過去は前世での体験かもしれない。考えるのはよそう。どうせキチ女から事実を聞いたところで、怒りしか湧いてこない。
今までこの殺人鬼に殺されてきた人たちの為にも、さっさと苦しんで死んでもらわないといけない。
攻略対象たちに殺してもらおうと思っていたが、実際殺し合う形になったら、攻略対象の三名はこのクソ女に勝てないだろうと思う。
怪物を倒せる特別な力を持ったうえに、こいつは殺しということに長けている。だからといって、軍人や殺し屋より強いかといえばわからない。だがもしアクション映画並みに動けるのだとしたら、攻略対象の一名を除いては全滅かもしれない。
それでも構わない。その大本命が一番、残酷にこの女を葬ってくれる。その為の布石はもう置かれているようだし。できるだけ早く、惨たらしく死んでくれ。
ちなみにその一名は吸血鬼ではない。彼は快楽を好み、サディスティックな一面を持ち合わせているがそれは性的な意味でだ。所謂オネエの彼は男とやるのも抵抗がない。もっといえば、年齢も関係ない。本当に誰とでもやる男だ。どのエンディングでもヒロインはそんな奴の性奴隷なって終わる。ハッピーとバッドの差といえば、誰の専用になるかということだ。ヒロインがかなり乱れた言葉で自分の価値を喋った場面は、正直悲しくなった。こんな子になんてこと言わせているのかと。しかもどう考えても、男性向けエロゲーに該当するような展開に躊躇わずにはいられなかった。ちなみに、ノーマルは調教途中といった感じでハッピーにもバッドにもなり得るといった終わりだった。
そんな男ではあるが、かなり強いらしい。吸血鬼社会では上位に位置する家系であり、その一族の中でも逸材だとされている。そういう設定だが、ゲーム内では本当やってるしか印象がない野郎なので、本当かどうか疑ってしまうが。
要するに、色ボケ野郎に狂人の相手は無理だってことだ。
あと、森野翔も戦力としては除外する。エグイ返しをする奴だし、妖精の力というものも弱いわけではない。だが、ヒロインに流れる血はそれを凌駕する。バッドエンドでヒロインが森野に殺されるのは、ヒロインが誰かを傷つけるという選択肢を持っていないからだ。
クソ女の中で生徒会のメンバーを殺すことは決まっているはず。だからせめてキチ女を殺せないものは、ただ殺されるのではなくて、足掻いて女の嗜虐心を満足させてから散ってくれ。そうして絶頂にいるキチ女を真っ逆さまに落としてやりたいから。




