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第一章 八話 懐事情が解決したと思ったらまた依頼でした

「こちらリヴァイアサンの角、鱗、そして魔石確認されましたので全て合わせまして五百万ドーラとなります」

「は、はぁ。あの、リヴァイアサンってそんなに凄いんですか?」

「・・・ええ、生息する個体数、その素材の有用性、そしてその討伐難易度からいってかなりの高値で取引されますが」


 僕とヤミナはただただ広い草原からコルキの街へと帰ってきて倒したリヴァイアサンの素材を買い取ってもらおうと言う事になった。場所はヤミナが知っているとの事なので案内してもらう。

 辿り着いたのは北の行政区にある商人ギルド。丁度冒険者ギルドとは反対側の通りに位置している。ここなら魔物の素材から何処にでもある小石、果ては死体までなんでも買い取ってくれるらしい。

 そんなところで先程の戦闘で手に入れたドロップ品を鑑定してもらい売ってしまおうと思ったんだけど思ったよりも高額になってしまった。やはりと言うかリヴァイアサンはかなりのランクじゃないと討伐さえも難しいらしく討伐の際には軍隊が出てくるほどらしい。僕はそんなに強くは感じなかったけどなぁ。


「こちら全て買取でよろしいでしょうか?」

「え、・・・ちょっと待ってください。この魔石は売りません」

「そうですか。では角と鱗であわせて三百万ドーラになります」


 なんだか妖しい、とギルドの人に見つめられる事数分、僕とヤミナの前には山のように積み上げられた銀貨と十枚の金貨、そして一枚の白金貨。白金貨のままじゃ使い道に困る(両替がめんどくさい)とのことで銀貨を出してくれたのだけどいかんせん数が多い。

 たぶん百枚はあるんじゃないだろうか。ヤミナもはじめてみる白金貨と吃驚するほど多い銀貨に目を眩ませている。

 そういえばこのドーラ、十枚の金貨で一枚の白金貨になるように十枚で一つ上の硬貨になるみたいだ。そして銀貨はおそらく一万ドーラと言う事だろう。金貨は十万、その上の白金貨が百万。


 沢山のお金は持っていても荷物になるだけなのでスキル〈無限収納〉に収める。無限収納はやはりと言うか使える人は少ないみたいでましてや僕のように文字通りの〈無限〉に仕舞えるなんていない、と思う。

 そんな事で注目されるのも何だか嫌なので店であらかじめ買っておいたポーチの中に〈無限収納〉を展開してそこにいらないもの、使わないものをどしどし入れてゆく。整理も出来てすっきりしたところで銀貨を数枚出してヤミナに渡す。


「これがヤミナの分ね」

「    !?」


 渡された銀貨を見て困惑するヤミナ。身振り手振りで必死に受け取りを拒否するような仕草をする。もしかして奴隷はお金もらっちゃいけないとかそんな決まりでもあるのか?


「いいから、いいから。遠慮しなくても君は僕の大事なパートナーなんだし」

「    」


 口をパクパクさせて尚も何かを言いたそうにしていたけど有無を言わさずにヤミナの手に銀貨を握らせる。

 正直なところはこんなにもらっても使い道なんて今はさっぱり分からないので価値観をしっているヤミナが持っていたほうが有意義な使い道が出来ると言うものだ。


「さて、それじゃ依頼主に報告に行きますか」


 無事換金も終わったところで続いて依頼主に報告に行かなくてはならない。来た道を戻り一度居住区へ。目当ての家を見つけると軽くノックして依頼主をまつ。

 草原を探索してリヴァイアサンを見つけたこと、リヴァイアサンの腹の中から一振りの剣が見つかった事を報告する。剣を見た瞬間依頼主は涙を流して喜んだ。思わずもらい泣きしてしまった。隣のヤミナなんて号泣して嗚咽してるし。くそっ、また泣けてきた。

 しかしそのままでもいかないので、泣き崩れてるヤミナを半ば強引に引きずりその場を後にする。


 冒険者ギルドで依頼の話をするとまたしてもヤミナは泣き出した。今しがたの依頼主の顔でも思い出したのだろうか。泣くのはいいけどせめてもっと人気の無い場所でこっそりと泣いて欲しいものだ。お陰で僕が変な人に見られる・・・いや、このTシャツとジーンズというこの世界では見ないような格好からして可笑しいのだから別に構わないか。


「そうなんですかぁ、ぐすッ。よがっだでずねぇ」

「なんであなたまで泣いてるんですか」

「はッ!いけませぇん!ついつい泣いてしまいましたぁ。だって女の子だもん」

「だもんって・・・それよりもランクアップの件なんですけど、リヴァイアサンの報酬は依頼の成功報酬にはいりますか?」


 リヴァイアサンと言う単語が聞こえたのかギルド中の視線を浴びてる気がする。それもかなり強く、殺気が篭ってる視線を。いやいや、みんな殺気立てすぎ。でも暫くするとその殺気も引っ込んでいった。たぶん僕みたいな者がリヴァイアサンを倒せるはず無いと彼らは考えたのだろう。それはそれで好都合だけど。


 今回の依頼はあくまで「遺品の捜索」であって「討伐」ではない。リヴァイアサンは偶然にも倒しただけのことだからランクアップの条件「依頼の成功報酬の一割をギルドに収める」には入らないのではないのか。そう思ったけど受付のそばかすが印象的な女性、エリエッテは笑顔で、


「そんな事ありませぇん。成功報酬の一割といってもぉ、割合の話でしてぇ、必ずしも依頼の報酬だけとはぁ限らなくてぇ、魔物を倒してぇ得たお金でもぉ構いませんよぉ」


 ふむ、つまり金を積めばそれだけ早くランクが上がるのか。課金か。でも金を沢山納めれるということはそれだけの実力があると言う事にもつながる。そしてギルドはたんまり儲けるのか。

 ま、なんにせよランクが上がらないと魔物討伐の依頼も出来ないし、ここは上げれるだけ上げますか。


「ランクⅤまではいくら必要なんですか?」

「そうですねぇ・・・リヴァイアサンを倒せるというのでしたら二人合わせて百万ドーラで構いませぇん」

「随分安い気がしますけど」

「だってリヴァイアサンですよぉ?並大抵の実力じゃない事くらい分かりますぅ」


 理解が早くて助かると言うか何と言うか。しかしこれで殆どの依頼を受けれるみたいだから、暫くはお金を納めてランクアップする必要も無いみたいだ。そうおもってお金を出そうとしたとき


「そうだぁ。お二人をギルドマスターがよんでましたよぉ?なんでもこのたびのリヴァイアサン討伐について話があるそうなんですけどぉ・・・」

「その通りなのであるッ!貴様らに話があるのであるッ!」


 奥から出てきたのは筋骨隆々のちょんまげの四十位のおっさん。右目には大きな引っかき傷がある。なんとなくギルドマスターだってことは分かる。一応〈鑑定〉でもしておくか。


名前 ヴァン・ファルト

状態 健康

称号 ギルドマスター

装備 水龍の斧 水龍の鎧 水龍のブーツ 水龍のペンダント 

スキル 統率Ⅳ 戦士の血Ⅳ(各能力アップ) 斧術Ⅳ  ブロックⅢ 

    危機察知Ⅲ ステップⅡ   

固有スキル 豪傑(全能力アップ〈大〉状態異常半減)


 ヴァンさんか。この人も固有スキル持ちか。豪傑って凄いな。それにスキルも高水準でまとまっているみたいだ(当社比で)。こういうスキルをもっているってことはやはり当然のごとく強いんだろうな、ということは安易に想像できる。


「うむ・・・むむッ!その面構え、そして全身に滾るその力ッ!貴様は本物なのであるッ!金とコネとでのし上がるような貴族のポンコツとは違うのであるッ!」

「は、はぁ・・・」

「そちらのお嬢さんも・・・むむッ!全身に漲る魔力はッ!今は多少くすんでいるものの磨けば磨くほど光る宝石なのであるなッ!素晴らしいッ!」


 今この人確かに「魔力」といったか?ヤミナが魔法を使える事を見抜いてる?いや、ただ単に「才能」がある事を見抜いただけかもしれない。使える事までは見抜けないはず。だと信じたい。

「さあさあッ!ここで話すのも何なのであるッ!私の部屋で話すのであるッ!」

 暑いギルドマスターにかなり強引に連れられて建物の奥、ギルドマスターの部屋に連れてこられた。


 部屋の中はかなり広く、壁には勲章やら盾やら槍やらが飾ってある。部屋は全体的に落ち着いた色の家具で揃えられておりそのどれもに高級感が漂っていた。部屋の奥の方にあるマスターの机には山ほどの書類が積み重ねられていた。僕達のほかに人がいないことを考えるとこの書類はギルドマスター一人が処理していると言う事なのだろうか。


「うむ、何処にでも腰掛けると良いのであるッ!なに、自分の家だと思ってくつろぐのであるッ!」

「はぁ・・・それよりもギルドマスターさん」

「私の名前はヴァンであるッ!ヴァン・ファルトであるッ!」

「ではヴァンさん。僕達を呼んだ理由と言うのは」


 ヴァンさんは奥のほうの椅子に腰掛けるとこほんと咳払い一つ。話してくれた。曰く最近この町で頻繁に行われている「魔道器強奪事件」の捜査に協力して欲しいとのことだった。


「すみません。魔道器ってなんなんですか?それとなんで僕達なんですか?」

「うむ。それについては一つ一つ説明するのである。まず、貴様達を選んだ理由なのであるがッ!単純に気に入ったのであるッ!貴様は荒くれで目先の事ばかりに囚われる野蛮人とは違う気がするのであるッ!」

「・・・冒険者ってそんな人ばっかりなんですか?」

「そのようなことは無いのであるッ!ただ、そういう輩が目立つのであるッ!」


 確かに初めてギルドに入った瞬間は殺気の篭った目で睨みつけられたけど・・・ってか殆ど全員から睨まれた気がする。殆ど野蛮人じゃないですか?!そらぁ、受付のエリエッテの言葉使いも変になるはずだよ!


「さて、それはさておいて・・・私が気に入ったのは本当なのであるッ。そして魔道器についてであるが・・・これは実際に見てもらうのであるッ!」


 ヴァンが奥の棚から引っ張り出してきたのは黄色の四角い石とレンズのようなものがが付いた四角い箱だった。あの石はリヴァイアサンを倒したときに出てきた青い石と似ている。その石がはめ込まれた装置を大事そうに扱いながらヴァンが説明してくれる。


「これが魔道器なのであるッ!このはめ込まれている魔石に魔力を注げば様々な事が出来るのであるッ!」

「たとえば?」

「うむ。この装置だと自らの考えを投影できるのであるッ!もっとも地図などの複雑でないものしか投影できないのであるが」


 簡易プロジェクターみたいなものなのかな?これ使って作戦会議とかするのだろうか?さながらサラリーマンの企画発表みたいに。


「なるほど、魔道器って言うのは便利な装置なんですね。しかしこれを強奪と言うのは・・・少々理解に苦しむところもありますが」

「貴様の思ってることとは違うのであるッ!犯人はこの魔石を強奪しているのであるッ。魔石がなくなればこういうものはただのガラクタとなってしまうッ!犯人は卑劣にもこの魔石のみを盗んでいるのであるッ!」

「魔石って言うのは珍しいものなんでしょうか?」

「魔石は魔物から取れるいわば魔力の搾りかすなのであるッ!奴ら魔物は私達とは違いその殆どが魔力で構成されているのであるッ。奴らを倒せば魔力が空中に戻る、そのなかでまれに残るのが魔石なのであるッ!もっとも普通に使おうと思うならば黄色魔石以上のものが必要なのであるが」


 黄色魔石よりランクが下がる黒や赤は使う際の魔力消費量が半端じゃないくらい多いらしい。効率が悪いのでもっぱら黄色以下の魔石は捨てられる。逆に黄色魔石以上の紫や青の魔石は魔石自体にも魔力が残っており高値で取引されるとの事らしい。


「大体の事情は分かりましたけど・・・どうやって捜査すればいいんですか?あまり自信は無いんですけど」

「その点なら心配要らないのであるッ!貴様達は犯人がもしも暴れたりしたときに取り押さえてくれればいいのであるッ!もちろん捜査のほうも進めてもらっても構わないのだが基本は騎士団の連絡を待つのであるッ」

「でも連絡はどうするんですか?電話もないし」

「??デンワというものがどういうものなのかは想像つかないのだが貴様達にはその〈証〉があるではないか。それは通信も出来る優れものであるッ。連絡は騎士団のほうから来るはずなのであるからそれまで身体を休めると良いのであるッ」


 リヴァイアサンを倒した時点で目の前にいるヴァンのような偉いてがでてきて何事かに巻き込まれるような事は覚悟してたけどまさか捜査しろなんて。隣でぽかんとして話を聞いていたヤミナをまたもや引きずりながら僕は考える。しかしなんだ。こんなすごい力をもった宿命と言うやつなのかな?もともとお節介焼きだとは自分でも自覚してるし、こういうのも悪くないのかもしれない。


 ギルドを出ようとしたとき後ろから受付のエリエッテが小走りにやってきた。

 手に何か握っているように見える。はて、僕は何か忘れ物でもしたっけ?思い当たらないんだけど。


「お二人ともぉ。忘れ物ですよぉ」

「す、すみません。・・・ってこれは〈証〉ですか?」


 みると、緑色の〈証〉が二組あった。形は今耳につけている黒の〈証〉とはそう違わない。すこし装飾が変わっていることくらいだ。

 

「ギルドマスターからぁ、お二人にランクⅦの〈証〉を渡すように言われてぇ・・・どうやったらこんなに大躍進できるんですかぁ?教えてくださぁい」

「いや、僕にもさっぱりだけど・・・兎に角ありがとう。これはありがたくもらうよ」

「いぃえぇ。何だかマスターと話し込んでたみたいですけどぉ。頑張ってくださいねぇ」


 もう一度エリエッテに礼をいってその場を後にする。疲れてはいないけど少し頭の整理が必要だ。それにルークのほうはもう用事は済んだのだろうか?また宿屋で落ち合うんだったかな?

 横をみるとヤミナのほうはかなり疲れてるみたいだ。そりゃそうか。一日の間に色々な事が起こりすぎた。彼女も休憩が必要なようだ。


「おう!帰ってきたか・・・ってなんだなんだ?えらく疲れてるみたいだが」

「ええ、すみませんが彼女の部屋は・・・」

「おいおい、何いってるんだよ、兄ちゃん。彼女は兄ちゃんの奴隷だろ?奴隷と主人は一緒の部屋だぜ?」


 はい?今何とおっしゃいました?この筋肉だるま。僕が彼女と一緒の部屋だって?何を馬鹿なことを言っているのかね。こんな女性との交際したことの無い人間と一緒に居たって彼女が疲れるだけだよ。

 そもそもいい年した男女が一つ屋根の下、更には同じ部屋で寝起きを共にするなんてことはあってはならないことだと僕は考えているんですがそこのところどうなんでしょう?是非とも聞いてみたいですね。


「兄ちゃん大丈夫かよ。見ての通り俺の宿屋はそこまで広くないからな、奴隷と主人が別々だととてもじゃないがやっていけないんだよ。どうしてもっていうなら彼女は別のところにでも」

「い、いえ。同じ部屋で結構です!行こうか、ヤミナ!」


 負の思考を中断してヤミナの手をとり急いで部屋に向かう。ヤミナと一緒の部屋も何だか気まずいがそれ以上にヤミナとべつべつの宿なんて世界中の人間が許しても僕が許さない。

 しかし今は休息だ。僕は別に寝なくても大丈夫だけどヤミナはそうも言ってられないようだ。ルークが帰ってきたら部屋に入れてもらおうかな?


閲覧ありがとうございます


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