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第一章 五話 ハーレムまっしぐらかと思ったら前途多難でした

今僕は非常に悪い状況に置かれている。

 目の前には魔法も使える(であろう)黒髪の超絶美少女のヤミナがいる。ルークの話では貧民区の人だというのだがそんな些細な事は僕には関係ない。僕にとって一番重要なのは、僕の好みドストライクの彼女とこのまま別れるのは少々、いや、ものすごく嫌だと言う事だ。

 そんな彼女なのだけれど何処かの貴族のボンボンから助けたとき思わず彼女の名前を知りもしないのに〈鑑定〉でみた彼女の名前を呼んでしまいものすごく怪しがられている。


 しかしピンチはチャンスとも言う。ここでもっともらしい言葉で説明する事が出来れば彼女の疑いは解消されるし、一緒に冒険者として行動できるかもしれない!


 だけどひとまず野次馬の歓声が酷く耳障りだったのでルークの勧めで一度宿屋に戻る事になった。

 黒髪の美少女のヤミナは初め遠慮気味な態度だったけれど僕の必死の要望と、ルークが何度か話すうちに渋々といった様子で付いてきた。


 先程まで居た中央区の北側を少し戻り道と道が交差するところで東に曲がる。景色は露店が所狭しと並ぶ窮屈そうな場所からゆったりと馬車が通れるような広さの道と左右に連なる趣のある店が続いている道に出る。そこを更に東へと歩いていくと日本で言うと庭付き一戸建ての建物が主になってくる。

 この中の一つが宿屋〈小鳥の囁き〉だ。

 中に入ると店主が出迎えてくれる。


「お?もうギルドの受付は済ませたのか?」

「いえ。少し用事が出来まして、すみませんがお湯をもらえませんか?」

「お湯なら三十ドーラだが・・・そこのお嬢さん、随分と汚れてるな。泥遊びも大概にしとけよ!」


 ヤミナの薄汚れた姿をみて豪快にガハハッ、と笑うのはこの宿屋〈小鳥の囀り〉の店主、バーン・クレイズだ。一般人には見えないほど鍛え上げられた肉体と鷹のような鋭い目付きに天突くようにセットされた重力無視の髪形、それらの全ての要素をぶち壊す愛らしいエプロン姿が印象的だ。そもそもエプロンってあったのね。

 バーンはヤミナのことには大して触れずにお湯を持って行くと言ってくれた。ああ見えて彼は繊細で気が利くんですよ、とルークが後で話してくた。


 ルークの部屋でヤミナが湯浴みをしている間に僕らは軽く話し合いをしておく。具体的にはヤミナのことについてだ。

 大き目のベッドが一つ置かれた他はクローゼットや椅子が数脚といった簡素な部屋の中央で僕とルークが向かい合って話し合う。


「まず初めに言っておきますが彼女は貧民区の者です。これがどういうことを示すかはお分かりですか?」


 ルークの言葉に僕は首を振って応える。この世界のものではない僕にとって貧民と言う言葉は、あの飽食の日本においてはテレビの中の話と同義なので現実味が無い。


「貧民区の者というのはここでは所謂負け組み。商人からは相手にされず最低限の生活も保障されていない、奴隷以下の存在。文字通り底辺なんです。ショウさんは自らの心に従って彼女を助け、そして彼女と行動を共にしたいとお考えでしょうがその選択は時に彼女をつらい目に合わすことになります」

 

 この世界には貴族が一番偉くその次に富裕層や商人、冒険者がいて最低ランクに奴隷がいるとのこと。さらにこの世界には奴隷よりもしたがいる。それが貧民区の人間だという。

 貧民区には貴族の落ちこぼれや権力争いに破れ、全てを失ってしまったもの、そしてこの町の貴族に背いたものなどが落とされるという。

 服装は道端に捨てられているようなぼろぼろの服しか身にまとう事しか許されず、肉や魚などの食材、酒などの嗜好品を口にすることは堅く禁止されてる。

 仕事も下水道や炭鉱といった賃金は安く環境も酷いところへと休みも無く働かされる。たとえ冒険者になったとしても貧民だけは忌諱される。

 そんな人たちのことは知識として前の世界でも習ったけど、実際にこの世界では行われてるようで驚くと同時に納得もした。


 前の世界の日本のように貧しくても一定の幸福を得る事が出来たため、上の者を羨ましく思うことはあったけどこの世界じゃその差はより明確になってる筈だ。どの家にもある電気、水道などといったライフラインはこちらでは一定以上の家じゃないと備わっていない。(電気があるかは分からないけど)

 だからこそ貧民という存在がいるのだろう、必要とされているのだろう。

 上の者にはかなわなくて羨ましい、憎い。でも自分よりまだ下の者がいる。安心して見下せる相手がいる。安心だ。上の立場の貴族達は下の者の事で頭を悩ます必要が少なくなる。

 上手くできたシステムだ。人の上に人を作り、人の下に人を作り循環させる。

 

 だけど生憎僕はそういうのが大嫌いだ。肩書きだとか、身分だとかで見下すやつは最低だと考える。

 でもルークや宿屋の主人のバーンはそんな事をしない人でよかった。もしもそんな事をしていたら大陸ごと沈めていたかも知れない。


 僕が手を顎に当てて深く考え込んでいるとルークは少し考えて、


「ですがそんな彼女でも安心してショウさんと行動できる方法があります」

「え?本当ですか?」

「ええ、ですがそれはショウさんが嫌うであろう方法ですし彼女の意思もあります。決めるのはやはり彼女でしょう」

「・・・そうですね」


 そんなことを話していると扉をノックする音がする。あけるとそこには湯浴みを終えて体中に付いた汚れが落ちて黒髪は風を受けてさらさらと流れ、年の割には細いと思える身体にも幾らかの生気が戻ってきたような気がする。意志の強そうな爛々と輝く目だけは変わってなかった。服装もぼろぼろの服から簡素だがズボンとシャツに変わっている。おお・・・シャツが少々キツイせいか彼女の一部分が強調されている。


 何処だかは想像しだいだけど、一つ言うなら「なかなかある」と言う事だろうか。


 少女、ヤミナはつかつかと大股で僕の目の前まで来てきっと僕の顔を睨んでくる。


「   !!  !?」


 なにを言ってるのかは聞こえないけど理解は出来る。たぶん僕がヤミナの名前を知ってたからだろう。さて、ここがある意味一番の正念場だ。ここで彼女の不信感が強まるか否か。全ては僕の言葉に懸かってる。

 だが安心してほしい。彼女を納得させる言葉はもう考えてある。


「落ち着いて聞いてくれ。・・・実は」

「実は?」

「神様からのお告げがあったんだ。そこに君がいた」

「な、なんだってぇぇ!?」


 うん。ルーク、素晴らしいリアクションをありがとう。でもその両手を上に上げて後ろにのけぞるような感じのポーズは少々古臭いと突っ込まなければなるまい。

 だがこの〈神様〉というキーワードにはとてつもない力が秘められているはずだ。

 なにせ神様なんだから。なんでも神の所為にしてしまえば・・・ってそれはやりすぎか。


 しかしルークよ。未だに固まってるけどちと驚きすぎじゃあないかね?

 ヤミナも同じように固まってるけど・・・はて、何があった?


「神様って・・・ショウさん。あの神ですか?」

「あ、ああ。あの神様だよ」

「姿は!姿は見えたのですか?!」


 おや?この流れはもしや特別な人の身が聴けるとか言われるあの伝説の信託と言うものを僕が聴いたとか言う展開になるんじゃあないのか?

 いかん。それだけは避けなければ。こんなところでわけも分からずに使命とかに振り回されて勇者とかにされるのは嫌だ。僕はまだまだやりたいことがあるんだ。こんなところで余計な仕事を増やしたくないな。


「い、いや姿は残念ながら。声だって途切れ途切れで・・・」

「・・・ふむ。ショウさんにはなにかあるかと思ってましたがまさか神の声をもとは」

「    !」


 ヤミナは驚きと好奇心でいっぱいの様子で僕の腕を掴んでこちらを見つめている。

 驚いている顔も格別にかわいい。ひとまずこれで彼女の疑いも晴れた、気がするが。


「神の声を聴けるものは殆どいないといっても過言ではありません。神の声を聴く能力が高ければそれだけ尊重されます。その分さまざまなしがらみが付いてきますが・・・」

「ならあまりおおっぴらに言わないほうがいいですね。僕もそんなにされるのは好きじゃないんで」

「・・・そうですね。しかし神の声を聴いたという事ならなおの事これは話さなければなりませんね」


 ルークはそう言うと姿勢を正してこほん、と咳払い一つ。


「話したように彼女、ヤミナさんは正直なところ、この町では貧民という事で不当な評価を受けてしまいます。ショウさんと行動するならなおの事です。しかし、それを一切失くすという方法が実はあります」

「一体それは・・・」

「    」


 ヤミナも興味津々という風で聴いている。手は未だに僕の腕を掴んではなさない。実にかわいらしいじゃあないか。 


「ヤミナさんがショウさんの奴隷となる事です」

「・・・え?」

「   ?!」


 奴隷って?あれか、映画とかで古代大きな建物を建てるためにいっぱい働かせていたあの人たちのことか?

 ヤミナが僕の奴隷に?僕のほうにはメリットありありだが彼女のほうはどうなんだ?

 メリットなんてこれっぽっちも見当たらないけど?


「理由は二つ。まず一つ目ですが、奴隷となればよほどの事がない限りはこの世界では真っ当に接してくれます。これは冒険者として活動するショウさんにとっても大きなメリットです。そしてもう一つですが、奴隷を持つ身としては奴隷の生活を保障するという義務があります。ショウさんはとても真面目な方ですから不当にヤミナさんを扱ったりしないでしょう。勿論奴隷に関して抵抗があるのも分かりますが現在の状況ではかなりいい案なんではないでしょうか?」


 ルークの言いたい事は分かった。それは僕にだって理解できる。確かにそれならば彼女は身を守れて生活も保障される。いいことだ。しかし問題は彼女がそれに同意してくれかどうかだ。

 女の子にいきなり「奴隷になってくれるか?」なんて何処の変態だよ。ま、この世界と前の世界じゃ価値観も違うようだし一概には言えないのかな?


「・・・という事みたいだけど、ヤミナ。君はどうしたい?僕は君の意見を最大限尊重する」

「      」


 暫くの間ヤミナは俯きになって考えてたけどやがて顔を上げてしっかりとこちらを見つめて

 小さく、しかしはっきりと頷いた。頷いてくれた。


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