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第一章 三十五話

閲覧ありがとうございます。

「また来たわよ!」

「ど、どうも~」

(ぺこり)


 次の日。何時もと同じように突撃訪問してきたアンジェラに文字通り叩き起こされて、朝食を急かされた後、巧みな話術と交渉術を用いてアンジェラの目的を教会にする事に成功した。

 今日はブライアン神父からの依頼の件もあるためヤミナも同行する。心なしか彼女が不機嫌だった気がするんだけど・・・大丈夫だろう。そう信じたい。


 ブライアンは教会の礼拝堂の掃除をしていた。神父さん自ら掃除って・・・なんだか想像しにくい部分もある。神父さんさなんていうのは、何時も礼拝堂の奥に居て、説教とか祈りを捧げているものだと、わずかばかりの僕の知識から引っ張り出してみるけれど半端な知識では役に立たないことは分かり切っているのだけれど。


「やあ、皆さん。アンジェラ様もようこそいらっしゃいました。何も無いところですがどうぞごゆっくり」

「今回はショウがどうしても、って泣き付くから来てやったのよ。全く私だって忙しいのに・・・」


 アンジェラは口では文句を言ってるものの、顔はほころんでいたので彼女自身もここに来るのが楽しいのだろう。そんな彼女の様子を見て微笑んだ。


「それはそれは・・・おや、初めてみる顔ですかな?」


 ブライアンの声にヤミナは僕の半歩ほど後ろでコートの裾を掴んだままもう一度お辞儀をする。ブライアンは彼女の首元にある「奴隷の紋様」を見ると僕と彼女の間を二、三度視線を行き来する。


「あの・・・一つ言わせてもらっても?」

「どうぞ」


 失礼ながらヤミナはもともと貧民の身分という事で汚れていたし、痩せてやつれていたのだけれど今では旺盛な食欲によってその体型は一般人くらいまでは取り戻している。それもあるし元ががいいのだろう。なんたって美人だから。

 彼女に対しては最大限に配慮しているつもりなのだけれど、今のブライアンの目には僕がヤミナに対して「そういうこと」を日常的に、一方的に行っている変態野郎に映っているに違いない、という事だ。彼の目を見れば一目瞭然だ。

 汚物を見るような彼の表情は名状しがたいものがある。

 ヤバイ。身の潔白を証明するためにもここはきちんと説明をしておかなくては。


「彼女・・・ヤミナは確かに奴隷という身分ですが、ブライアンさんの考えている『そういうこと』は今まで一度も強制した事もありませんし、した事もありません。彼女には事情があったので」

(じーっ)


 うっ・・・教会関係者の二人の視線が痛い。しかしここでひいては駄目だ。頑張って目をそらさずに身の潔白を証明する。するとブライアンの後ろで同じく掃除をしていたオリヴァがため息一つついて、


「・・・別に、いいんじゃない?この人の言ってる事にうそは無いみたいだし」

「そうか。オリヴァがそう言うのなら・・・」


 何と言う天の助け・・・いや、シスターの助け!感謝します!


「そ、それでこの子はヤミナと言って・・・今回教会の仕事を体験してみたいと希望したので良かったら、と思ったんですけど」

「ふむ・・・そうでしたか。それではオリヴァ、お願いしますよ?」


 ブライアンがそう言うとオリヴァはあからさまに嫌そうな顔をした。


「・・・なんで私なわけ?神父がすればいいじゃない」

「私は生憎と用事があってね・・・午後からは騎士団の人達も来るんだよ。それに結婚式の準備もしないといけないし」

「・・・しょうがないわね。それじゃああなた、名前は?」


 名前を聞かれたヤミナはあらかじめ自分の名前を記入していた紙を取り出すとオリヴァに渡した。


「・・・何、これ?」

「いやぁ、ちょっとね。ヤミナは話すことが出来ないんだよ」

「そうなのですか?それはまたどうして?呪いですか?」

「それが良く分からないんですよね」

『いまはぜんぜんこまってないから』


 初めてこのことを知った人なら多少なりとも驚くけれどヤミナ自身はもう慣れた様で筆談で会話を行う。僕も今のところは困ったことはないし、問題はそんなにないだろうと思っていたのだけれど、


「・・・はぁ~。面倒くさいわね・・・ホント」

「オリヴァ。そういうことを言うんじゃない」


 ブライアンの頼みだから言うのもなんだけど、オリヴァって見た目は幼いのに口が悪いなっ!しかも本人目の前にしてってなかなかだな。ヤミナはあれだけ言われて大丈夫なのか?心配になって見てみるとヤミナのほうは何処吹く風でオリヴァに対してニコニコとしていた。


「ヤミナ。あれだけ言われてるけど、大丈夫なの?」

『あれくらいはわるくちにはいらない。まえのところはもっときたないことばをつかうひとがいたから』


 な、なるほど。可愛らしいが前は貧民区で暮らしていただけあってこういうことには耐性が出来ているのか。たくましいというか・・・


「どうしてあたしがこんな娘と・・・ほらっ、行くわよっ!」


 観念したのかオリヴァはぷいっ、と背を向けると教会の方へ向かって歩いていった。ヤミナは僕の方をちらりと見る。それを微笑みで返すと、ヤミナも笑顔になってオリヴァのあとを付いていくようにして教会に入っていった。

 

「さて、僕も用事があるので・・・」

「ねぇ」


 帰ろうか、と思った矢先。ここまで黙っていたアンジェラが突然口を開いた。アンジェラの青い瞳はどこまでも見抜いているようだ。


「な、何かな?」

「アンタの奴隷の事なんだけど。どうしてもわからないことがあるのよね」

「分からない事?」


 なんだ?一通りは説明したとおりだけど。それ以外のことなんて僕も分からないことが多いぞ。例えば彼女の家族の話とか。


「さっきアンタ言ってたじゃない。『そういうこと』って。それって一体何なの?なにかあの奴隷にしたの・・・?」

「へ?」

「・・・・・・」


 何か答えようとして固まってしまった。どう答えればいい?なんと説明すればいい?

 言葉だけでは伝えにくい・・・というかこの場で説明しろ、というのが僕には無理だ。そういうのは前の世界なら保健体育の授業で習う物だし、それに今僕が『行為』について説明しようとしたら確実に変態扱いされる。それだけは勘弁だ。


「え、えーっと・・・どういったらいいのかな?上手く説明できそうに無いんだけど」

「何よ。私じゃ理解できないって言うの?バカにしないでよねッ!」

「そんな、バカにしてるわけじゃないんだけど・・・神父~」


 困り果てて神父のほうを見ると神父も困ったように苦笑しながら


「アンジェラ様の父上は溺愛してましたからね。まさかとは思いましたが・・・ここまで徹底しているとは思いませんでしたよ」


 今この場はうまくごまかすしかありませんね。と小さく耳打ちしてくる。が、どうすれば誤魔化せるのかが分からない。


「ま、まだアンジェラ様には早いんじゃないのかなぁ!」

「何よ!私はレディーよ!私にだって知る権利くらいあるわよ!子ども扱いしないでよね!」

「だから!これはレディーだとか貴族だとか関係ないんだって!」


 こんなやり取りを何度か続けていると孤児院の子供達にうるさいと怒られた。ごめんなさい。

 





「今帰ったわ!」

「お帰りなさいませ、アンジェラ様」


 ヤミナにオリヴァの件は丸投げして、特にする事もなかったのでアンジェラの一度戻りましょう、という声にしたがって城へと帰ってきた。城では何時のも様に女性だけ構成された騎士団の人達が出迎えてくれる。

 そういえば男の騎士団の人達はあまり見たことが無いんだけどな。そんな疑問を口にすると騎士団の内の一人が申し訳無さそうにぽつぽつと話してくれた。


「あの・・・昨日訓練場で兵士をコテンパンにしたんですよね・・・?」

「は・・・はい、すみません」


 すると女性騎士はそんなことありません!と手をぶんぶん、と振って否定した。


「彼は何と言うか・・・偉そうで私達のことを見下してるみたいで。あの、正直に言うとスッキリしました」


 彼女に次いで周りの騎士たちも私も私も、と声が上がる。

 まあ、確かにあいつは嫌われそうだったからな。名前はもう思い出せないや。


「でも、ショウさんが倒したことで彼らの間で色々と噂があってですね・・・それで近寄ってこないというか」

「ふうん」


 その噂とやらが凄く気になるけれど多分聞かないほうがいいんだろう。なんだか言いたくなさそうな雰囲気・・・というか今にも噴出しそうな人がちらほらいるんだけど?


「あなた、全然気にしないのね」

「まあね。いちいち気にしてられないよ」


 本当はすっごく気になるんですけどね!

 そんな事を話していると修練場の方から一人の男が歩いてくるのが見えた。伸びたブロンドの髪を後ろで括って、手には一見して使い込まれたと分る剣を下げている。城の中なのか訓練後なのか、兜は脱いでいて精悍な顔つきが見える。年齢は三十くらいかな。こちらまでやってきた男は何時もの黒の軍服のようなコートに身を包んだ僕を睨みつける。


「ふ、副団長!?此方に用ですか?」


 女性騎士たちは男を確認した瞬間にビシッとそろって敬礼をする。一糸乱れぬ動きに副団長と呼ばれた男は片手を軽く挙げて対応する。その姿があまりにも似合っていて見惚れてしまうほどだ。


「・・・お前か。キリシマ・ショウというのは」

「そうですけど・・・あなたは?」

「俺はこの国の騎士団の副団長を務めているランドル・レイという者だ。部下が迷惑かけたと聞いてな。謝りに来たんだが」

「いえ…別にそんなことしなくても」


そう謝罪の言葉を話すランドルは僕の力を図ろうとするように全身を観察しているようだ。生憎と、隠蔽の魔法とスキルによって見抜くのは失敗に終わってるみたいだけど。


「・・・それで、だが。ぶしつけで悪いが俺もお前と手合わせをしてみたくてな。あいつは騎士団でも指折りの実力者だ。そいつを主席が居ない間に黙ってこてんぱんに下とあれば、俺だって興味が沸く」


 つまり更に仕事を忙しくさせやがってこの野郎って訳ですか。残念ながら僕は上の立場に立ったことが無いので良く分からないのだけれど、こういった事案で頭を悩ますのは世界が変わっても同じらしい。


「ふ、副団長!幾らなんでもそれは・・・!」

「彼は何にも悪くないじゃないですか!」


 女性騎士団の皆さんが必死にフォローしてくれるけれどランドルの耳には届いていないようだ。彼の瞳の中には燃え滾る闘志が垣間見えた。


「・・・分りました。そこまで言われて断るのも失礼でしょう」

「ショウさん!!」

「それでこ男だな。今から二時間後、訓練場に来い」


 そう告げるとランドルは踵を返して訓練場の方へと消えていった。



作者「三十五話でした~」


ヴィス「ここにははじめて来たのだけれど・・・なんだか不思議な空間ね」


作者「やあ。ヴィスさんいらっしゃい。ここは謂わば切り離された世界。何を言っても本編には関係ないことになるので大丈夫ですよ」


ヴィス「そうなのね。じゃあ一つ言いたい事があるのだけれど、いいかしら?」


作者「どうぞ」


ヴィス「この登場人物って名前が似通ってるのよね。混乱してきちゃうわ」


作者「・・・・・・申し訳ありません。自分の小さい脳みそで必死に考えた結果なんです!」


ヴィス「ま、そこまで批判する気はないんだけど、被らないように気をつけてね」


作者「分りました!・・・ヴィスさんにも質問いいですか?」


ヴィス「いいわよ」


作者「騎士団の女性団員ってどれくらい居るんですか?」


ヴィス「そうね・・・騎士団のは大まかには三つに分かれるってどこかで言った気がするんだけど、女性はそのうち一割くらいかしらね」


ヴィス「一番多いのは地法騎士団ね。人数も多いし。次に多いのは守護騎士団なのよね。これには主席の意思が関わってくるのだけど」


作者「女性の騎士団の地位向上の為に組織を作ってるんでしたよね」


ヴィス「そうそう。だから女性だけの部隊を作ってる中央騎士団では数もそれなりだし一応地位もそれなりにあるわね」


作者「なるほど」


ヴィス「ま、それが元でいざこざが起こったりするんだけどね・・・」


作者「それはまた別の機会にかきたいとおもいます」


ヴィス「あら、ちょっと先の話をしすぎたかしらね。またお楽しみってわけね」


作者「そうです。そうです・・・騎士団の貴重な話も聞けたところで、今日はここまで」


作者・ヴィス「また次回~~」

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