第一章 三十四話
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「さて、改めて自己紹介を。私はブライアン。ブライアン・タイルというものです」
「し、神父さんです・・・よね?」
ブライアンに連れてこられたのは教会の奥の方にあった個室。中には簡素な机といすが一組だけ置いてあって周囲には何も無い。ここでは色々と聞きづらい相談事や懺悔を聞くそうだ。
生憎と今日は他の部屋が一杯でここしか空いてない、という事らしいのだけれど僕としてはそこまでこだわりはない。そもそも勝手にお邪魔してそんな勝手なことは言えない。日本人の性なのだろう。
「見ての通りですよ。私達は国には縛られない立場なのですが、ここに良く来てくださるアンジェラ様の騎士、ということで私も興味を持ちまして」
「はぁ・・・そんなに珍しいものなんでしょうか?」
「珍しいというよりは、素晴らしく名誉な事ですよそれこそ威張ってもいいくらいの」
柔らかな笑みを浮かべて神父ブライアンは語りかけてくる。なんだか凄く心地が良い。神父たるものやはりこういう技術というか、なにかしらの特技があるのだろうか。分らないけどそういうもんなのだろう。自分で自分を納得させた。
「威張るだなんて・・・無理ですよ。僕には」
「ほう?どうしてですかな」
「威張ってる人って僕は嫌いなんですよね。もちろん立場上、偉そうな口を利かなくちゃならない人もいるんだと思いますよ。だけどそれを立場とか関係ない人にまでするのは違うんだと思うんです」
ブライアンは僕の目を見据えたままで片方の腕を上げた。
「それでは、あなたの言う偉い人は常に謙虚に生きるべきだと?」
「ううん・・・それはそれで違うのかな・・・?謙虚は美徳だ、って僕も教えられたんですけどそれじゃあ何も進まないんだと思うんです。偉い人って皆からある程度認められてるってことだと思うんです。だったらその人は責任を持って率先した行動をしていくのがいいんだと・・・ああ、何言ってるんでしょうかね?」
僕がうんうん唸りながら話をしていると、ブライアンはふふっ、と笑って僕から目を逸らした。
「・・・すみません。なんだか尋問しているようでしたね。不快にさせてしまったようです」
「そんな」
「それにしても不思議だ。あなたからはとてつもない力を感じる。なのにとても安らかな波動を感じます」
ブライアンの言葉にすこし引っかかった。とてつもない力?おかしい。この力は強すぎるので僕自身とスキルでかなり押さえ込んでるはずだ。それこそ僕と同等の力の持ち主じゃないと見抜けないくらい精巧に偽装してある。それなのにブライアンは見抜いた・・・?
「あの・・・とてつもない力って?」
「おっと、失礼・・・ふふっ。年寄りの考え方でしょうか?ついついこういうことをしてしまうのですよ」
ブライアンは咳払い一つした後で説明をしてくれた。説明によると、ブライアン達神に使えるもの達は本能で相手の本当の実力や嘘を言っていないかを知ることが出来るそうなのだ。ただしそれは漠然としたもので複数居るとまったく分からなくなるのでこうした部屋を使って調べたりするそうだ。
「こう説明すると大抵の方は怒るのですけれども・・・やはりあなたは違うようだ」
「い、いえ・・・ははは」
本当は僕も似たような事を散々しているから人の事を言えない、なんていえるはずも無くて苦笑いで誤魔化すだけだった。
その後ブライアンの案内で教会の隣の建物。孤児院へと案内された。孤児院は教会よりは一回り小さい建物で白い建物に広めの庭があった。庭ではここの子供達だろうか、が元気良く遊んでいた。大きな窓から見えるエントランスではアンジェラが身振り手振りで話をしているようだった。周りには子供達が集まっており、真剣な表情でアンジェラの話を聞いている。
というか僕の話をするって言ってたな。うわぁ、どうしよう。恥ずかしすぎて入れる気がしない。
「おや、オリヴァではないですか。どうしたのですか?こんな所で」
「・・・別に」
孤児院の玄関の前で体育座りをしている少女にブライアンが話しかけた。肌は褐色で煌く金髪。頭からすっぽりとフードをつけただぼだぼの修道服を着ている。動きにくそうだけどいいのだろうか。フードからちらりと見える顔や身長をみるに凄く幼い感じがする。アンジェラといい勝負なんじゃないだろうか。こんな子供でも働くんだな、とぼんやりと思っていると。
「彼女を紹介しましょう。彼女はオリヴァ。若干十三歳ながらも司祭になった優秀な人物ですよ」
「まじですか?!」
所謂飛び級とか、そんな感じなのか。天才少女、現るってやつだな。
「こんにちは。僕はショウ・キリシマって名前のごくありふれた一般人だ。よろしくね」
「・・・ぷいっ」
無視された?!なんで?完璧な挨拶のはずだったのに!それに僕が近づこうとすると離れていく。常に一定の距離を保とうとしているみたいだ。
「すみません。彼女も悪気は無いのですが・・・ただ彼女の特性がここでは悪く働いているようですね」
「特性・・・ですか?」
無視されたままでは僕の精神ポイントがマッハで削られるのでブライアンの話を聞くことにした。
「力や魔力を感覚で知ることができるということは先ほど話したばかりですが・・・彼女はその力が常人よりも遥かに優れているのです。普段ならある程度問題は無いのですが・・・」
そういって僕の方を見つめるブライアン。よせよぉ。恥ずかしいじゃないか・・・ってのは置いておいて。一体僕の何がいけないのだろうか?
「こういった事態は初めてなので私も手探りなのですが・・・おそらく彼女はショウさんの力に当てられないように、本能で避けてしまっているというところでしょうか?」
「力に当てられる・・・?」
「ええ、彼女は私たちの誰よりも探知する能力が高い故にあなたの力そのものを浴びてしまっている状態なんです。例えるなら何も装備なしで平原で巨大な竜巻に一人立ち向かうような・・・とでも言えば分かりやすいのでしょうか?」
なんてこった。無意識というか潜在的な力がそんな事を引き起こしていたなんて。しかしどうしたものか。これ以上弱くなんて出来ないぞ。強くはなれるんだけども・・・そんなに都合よくは行かないって事なんだろうね。
「おねーちゃん!もっと聞かせてよ!」
「僕も!僕も!」
「分かったわよ!それじゃあそこの木陰にでも座って・・・ってあら、あんた居たの?」
ちょうどのタイミングでアンジェラがでてきた。周りには話を聞こうと数人の子供がまとわり付いている。彼女は僕と褐色の少女オリヴァとの間に奇妙な間があるのを見ると訝しげに僕の方を見てきた。
「・・・なんだよ?」
「あんた・・・オリヴァに何したのよ?」
「へ?・・・いや別に挨拶しようとしただけ・・・」
「嫌われてるじゃないの。・・・はっ!まさかオリヴァを変な目で見たんじゃないの?!」
「ちょっと待って!話が飛躍しすぎてる!」
第一僕はそんな変態ではない!確かにオリヴァは可愛らしいと思うが・・・決してそういう性癖があるわけでもない。彼女のことは純粋に可愛らしいと思う。ただそれだけだ。
「そうやって言い訳じみてるところがまた怪しいのよね・・・」
「だから誤解なんだって!ってこれじゃあ僕が変態みたいじゃないか!決してそんなことはないんだって!あ、待って!ブライアンも微妙に距離を置こうとしないでっ!」
この後子供達にも絡まれてかなりの精神ポイントを消費してしまった。アンジェラがこんな悪乗りするなんて。でもそのお陰かオリヴァの表情もすこし和らいだ気がする。今もアンジェラの後ろに隠れているけれども。
「これからここに居る私の新しい騎士の話をするんだけど、オリヴァもどう?」
「・・・聞く」
「僕は遠慮するよ。恥ずかしくて顔から火が出そうだ」
「あら、そう?デルニーの英雄は恥ずかしがり屋なのね」
一体何時の間に英雄になったんだ、と問いただしたいところだったけれど既にアンジェラは庭にある大きな木に向かって歩き始めていた。ここで引っ張るのもどうかと思ったのでまた後で聞くことにした。
ブライアンに案内される形で孤児院を見て回る。建物は広いのだがいろいろと物資が足りないところもある、との話を聞き僕からも何か手伝えることはないかと聞いたところ、
「そうですね。私達は金銭の寄付は受け取らないという教えがあります。金銭を溜め込むと世の中の流れを止めてしまう、といった考えがあるんです」
「そんな教えがあるんですね」
「ええ。しかし金銭は受け取りませんが、それ以外なら大歓迎です。実際冒険者の方でも討伐した魔物の要らない素材なんかをこちらに寄付してくれる事もあります」
お金そのものはいけないが、それにとって変わる、若しくはそれになりうる価値を持っているものなら大丈夫(もちろんそれ以外でも可)らしい。なるほど、と納得しながら無限収納の中身を探る。
無限収納もⅠからⅡになった事でソート機能が使えるようになったので探すのが便利になった。
(ううん・・・寄付ってゴブリンの角とかじゃ・・・だめか。だとすると)
ごそごそと腰についてるポーチを漁る動作をしながら何をだそうか見てみる。
ブライアンは僕がどんなものを出すのかを楽しみしているようだ。そんなに期待されるなら・・・とさがした結果。
「これ、余ってるんですけど・・・寄付します」
「ほう・・・!まさかリヴァイアサンの牙とは」
ブライアンにリヴァイアサンを倒したときの事を簡単に説明する。もちろん僕が別世界から来たことは内緒だ。
「そういうことだったのですね。しかし話にあったリヴァイアサンといいここ最近は魔物が活性化してきているような気配があります」
「そうなんですか」
僕がこっちに来たことと関係は・・・あるんだろうなぁ。神様も直接はそういうことは言ってなかったけれど、内容を推察することは可能だ。
孤児院を一通り見て回った後不意にブライアンが声のトーンを落として話しかけてきた。
「そういえばショウさんは冒険者なんですよね?」
「ええ。僕以外にも三人一緒に行動してるんですけど」
「依頼をしたいのですが聞いてくれますか?」
驚いてブライアンの顔を見る。一体僕の何が彼の琴線に触れたのだというのだろう。兎に角、話だけでも聞いてみることにする。
「具体的にはどんな内容なんですか?」
「先ほどあった彼女・・・オリヴァと仲良くして欲しいのです。具体的には友達になってほしいのです。オリヴァは事情があってなかなか馴染めていないので」
「友達・・・でも」
僕は潜在的な力の所為で避けられてしまっている。仲良くなるったって・・・
「いや、待てよ。適任が居るかもしれません」
「本当ですか?彼女も友達がいると随分違ってくると思います」
「帰ったら声を掛けてみますね」
「宜しくお願いします」
これは個人的な依頼ということになるのだろう。本来ならギルドの方へと報告へ行くべきなんだろうけど、今回は魔物退治だとか片付けとかそういった依頼じゃないし、なにより教会の神父さんの直接の依頼なので信頼性もばっちりだろう。多分。
なので今回はギルドは間に挟まない。
「でね・・・私がショウの話をするとね皆目を輝かせて・・・って聞いてるの?」
「聞くも何も・・・僕の話はあんまり聞きたくないよ」
「・・・あなたって本当に変わってるのね。騎士団の人なんて自慢話を喜んで話をするってのに」
「僕はそんな趣味はない」
孤児院から帰る途中もアンジェラはずっと話が止まることは無かった。孤児院の子供達に対してはすごくいいお姉さんをしていたアンジェラ。面倒見はいいんだなぁ、と感心してしまった。
「「お帰りなさいませ。アンジェラ様」」
城に帰ると出迎えの騎士たちがアンジェラを迎える。男の騎士は殆ど居らずほとんどがヴィスの部下の騎士たちのようだ。・・・そういえば別の騎士たちとひと悶着起こしたんだっけ。この後怒られないといいんだけど。
騎士たちの後ろには白髪が特徴のジンやクレモンド、ヤミナにルークが手を振って待っててくれていた。ジンはニヤニヤしているけど。
「お、騎士様のお帰りじゃな。カカカッ」
「おい、その舐めた顔を止めるんだ。やめないと今すぐにボコボコに変形させてやる」
「面白い。やれるもんならやっt・・・」
『じん。だまって』
「てすみませんでした。ごめんなさい」
「・・・ヤミナ。ジンに何したんだ?」
『ひみつ』
うん。これ以上は聞かないほうがいいのだろう。きっとそうなのだろう。そう決めつけて仲間達と一緒に夕食を食べる事にした。
「そうだ、ヤミナに話があるんだけど・・・」
夕食後、部屋へと帰ってきた僕はベッドに腰掛けて、ヤミナを膝に乗せてゆったりと寛いでいた。
この町に来るまでの旅の時からヤミナはこうして僕の膝の上で過ごすことが多くなってきた。別に重たくもなんとも無いし、ヤミナの嬉しそうな顔が見れるので僕としては一石二鳥も三鳥も得した気分だ。ただ一ついえるのはこの状態を他の、例えばジンなんかに見られた日には一日中からかわれるに違いない、という事だ。
幸い、まだ彼女もみんなが居るところで甘えるのは抵抗があるのか(そりゃ勿論そうだろう。彼女には奴隷という意識がまだある)僕の膝に乗るのは二人きりの時だけだ。
僕の言葉にヤミナは読んでいた本から目を離して、振り返って僕の顔を見る。黒曜石のように輝く瞳に吸い込まれそうになるが、そこは一旦押しとどめて、今日神父から聞いた話を伝える。
「・・・という事なんだけど、一度あってみてくれないかな?無理強いはしないんだけど」
(こくっ)
僕の言葉が終わるかどうかというくらいでヤミナは頷いた。
「べ、別に直ぐに決めなくてもいいんだけど」
(ふるふる)
首を振って「私は大丈夫」とアピールする。そんなに大丈夫とアピールするのなら任せるほか無いなー。まあ、ヤミナなら上手くできるだろう。根拠は無いけれど教会のオリヴァとはいい友達になれそうだ。
その後は他愛も無い話をしながら眠くなるまでゆっくりと過ごした。
・・・この先に待ち受ける大騒動のことも知らずに、のほほんと。
ジン「どうやらまた投稿が遅れたようじゃな」
作者「仕方が無いじゃないか・・・」
ジン「仕方ないで済んだら警察も弁護士もいらんわい!いいか、この小説を楽しみにしている読者も・・・あっ(察し)」
作者「おいバカ!やめろ!自分から地雷原に目隠し状態で突っ込むな!こっちまで被害が及ぶ!」
ジン「まあ、それは置いておいて・・・いい加減話を進めるんじゃぞ。展開が遅すぎる」
作者「ああ。それに関しては頑張ってみるよ。伏線も回収しないとだしね」
ジン「あやつの事か。ずいぶんとまあ分りやすい伏線を張ったものじゃな」
作者「あんまり大きくすると回収する自信がない」
ジン「正直でよろしい」
作者・ジン「・・・・・・次回もお楽しみに~!!」




