第一章 三十一話
「全く・・・何処に行かれたのかしら」
ブレイズ共和国の首都、デルニー。この町の中心部にある貴族街と呼ばれる場所を中央騎士団の部隊長ヴィス・コードは人を探して駆けていた。この国の最高権力者であるムステイン主席の長女であるアンジェラ・ザン・ムステイン。三人兄弟なのだが父親が豪快な為本人も何処か無鉄砲な気がある。こうして今回のように本来は関係の無い話に首を突っ込み暴走する事もしばしばある。それを止めるのがヴィスたちの部隊の役割でもあるのだが今回は予想外の長旅が続いてしまったため気が逸れてしまっていた。
(言い訳にしかならないが)
苦い顔をしながらもアンジェラが行きそうな場所を隅々まで調べていく。もし彼女になにかあればヴィスたちの仕事はおろか命までも無いのかもしれない。そう考えると背中がぞくり、とするが出来るだけ今はそれを考えないようにする。
「困ったわね・・・人に聞こうにもここら辺は殆ど見かけないし」
「ヴィスさん!ここに居たんですか」
ヴィスが声のほうを振り向くとそこにはここまで護衛してきた人達の姿があった。そのなかの一人、足先までも覆うほどの長さのコートを着た青年が声を掛けてくる。
「僕達もその、アンジェラ・・・さんが心配で来たんですけれど」
「!本当ですか。しかし客人の手を煩わすわけには」
「そうじゃそうじゃ。わしらがやらんでも直ぐに見つけるじゃろう」
ヴィスの言葉に反応したのはもう一人の青年。白い髪の毛と独特の袖口を切り落とした衣装が印象の青年がうんうんと頷いている。
「そんなこと言うなよ。この国の大事な人なんだぞ」
「じゃがわしの鼻に扉をぶつけよった」
『じん。それじごうじとく』
ジンにそう書かれた白い髪を見せるのは白いローブに身を包んだ若き魔法使いのヤミナ。その言葉を見てうっ、と言葉に詰まるジン。三人とも普段は頼りなさそうに見えるのだが実のところ凄まじいくらい強い、というのをヴィスは体験しているためこの三人が手伝ってくれるのはありがたい。
「皆さんは主席から任せられた任務があるのでしょう?私たちのことは気にせずに・・・」
「ああ、いえ。アンジェラ、様はこの任務に興味があったみたいなんでならいっそのこと・・・と思ったんですけど」
「そうですか・・・すみません。これは我が部隊の失態なのに」
頭を下げるヴィスに「お気になさらずに」というショウ。彼の決して偉ぶらない姿勢にヴィスは好印象を抱いている。
「探すにあたってはジンの力を借りようと思います」
「なっ!なんでわしが・・・」
口答えするジンの口にヤミナが容赦なく果物の乾物を詰め込む。もがもがといいながらも味わうジンを余所にショウは話をすすめる。
「彼はとても鼻が利くんです。そこで、彼に匂いを辿ってもらいます。任せたジン」
「・・・たく、しょうがないのう」
任されたジンは鼻をスンスン言わしながら迷うことなく進んでいく。人間でありながらいろいろ規格外なのだな、とヴィスは自分を無理やり納得させながら付いてゆく。
「そういえばクレモンドが調べてましたけど、貴族でこの事件に絡んでそうなのって分かります?」
「そうですね。絡んでいる、とははっきりとは言えないのですが私たちの調べではストンリー・ゲイト侯爵が怪しいと見ています」
『どんなひとなの?』
ヤミナに聞かれてヴィスは頭の中で侯爵の姿を思い出す。初めに思い出されたのは醜く肥えた腹、短い手足に禿げ上がった頭。趣味の悪い香水のにおいといやらしい視線。
「・・・とにかく下品な人です。姿から行動まで全部!」
「そんな人がよく侯爵でいられるね」
「侯爵家はこの国が出来たときから基盤を支えてきた一族なのです。なのでいくら主席の軍部といえ、なかなか切り込んでいけないのが現状ですね。・・・叩けば埃どころか山ほどの黒い案件が出てくるのは分かっているのですが」
ストンリー侯爵に掛けられている罪は軽く百を超える。だがいくら追求しても金と権力という力で揉み消されてしまう。ヴィスたちも何度も煮え湯を飲まされてきたのだ。
それに侯爵についてはもう一つ、そして凄まじく今の状況でまずい事が分かっている。
「それとストンリー侯爵は好色家なのです。それに年端もいかない幼子を何人も愛でる、と聞いたことがあります。ときには無理やり平民の家から半ば連れ去るようにして酷い事をするそうです」
「・・・そいつは好かんな」
「ああ・・・まさか此処にも真性の変態が居たとは」
『さいてーだね』
話を聞いた三人が三人とも苦い顔で呟く。本当だったらヴィスも権力と言う壁が無かったら切り裂いてやりたいと思っているのだがそうは行かないのが現実なのである。今はアンジェラがその毒牙に掛からないように祈りながら早く見つける事のみである。
その時、ヴィスの甲高い声が聞こえてきた。だがそれは何時も聞きなれている鈴のような透き通った声ではなく、悲鳴であり方角を見るとそこには・・・
「あれは・・・!まさか」
「侯爵のところか!くそ!よりにもよってあんな変態の所に・・・!」
「急ぐぞ!話を聞くだけで胸糞が悪くなるようなところにおいては置けん!」
※※※※※※※※※※
「離しなさいよ!私を誰だと思ってるの?あんた達の悪巧みはお見通しなのよ!」
貴族街にある一際大きな城、といっても差し支えないほどの大きさの建物の一室。そこでは小柄なアンジェラが精一杯の力を込めて掴まれた腕を振りほどこうとしていた。だが彼女の二倍ほどある腕が痛いほど彼女の腕を締め上げる。苦痛に顔を歪めるアンジェラをねっとりとした視線で見つめるのはかねてから軍部が怪しいと睨んでいたストンリー・ゲイト侯爵。若くして禿げ上がった頭と醜いとしか形容できない顔。そして腹に乗った何重もの脂肪の塊は見るものに嫌悪感を与える。
だがそれでも侯爵。莫大な金とブレイズ共和国勃興当時からあるという権力を盾に散々好き勝手やってきていた。そして彼が好むのは成長途中の少女の身体であり今彼の目の前に居るアンジェラはそういう目で彼に見られていた。
「っ!その目!気持ち悪いわ!近寄らないで!」
「くふふ・・・いいねぇ。若くて何も知らないという事はとても良い。我輩の為にどんな声で鳴いてくれるのか楽しみだ」
言いながらアンジェラに近づいてくるストンリー侯爵。欲望まみれのその顔には醜悪な笑みが張り付いている。彼の毒牙に掛かった少女たちはその全員が死よりもひどい仕打ちと陵辱を受ける。だが彼にはたとえ貴族だとしても逆らえない権力と自らの罪を上手く隠蔽するズル賢さがある。今回も何も問題ない。彼の目は語っていた。
「小娘の手足を縛れ。ああ、口は構わない」
「はっ」
アンジェラの手を掴んでいる大男の奴隷に命令する。アンジェラも抵抗するが既に腰に差していたレイピアは取り上げられている。奴隷の男の足を蹴るもまるで大木を蹴ったかのようにびくともしない。両手両足を縄で強引に縛られる。
「あ、あんた何をしてるのか分かってるの!?私はアンジェラよ!アンジェラ・ザン・ワイルド、この国の一番偉いムステインの娘なのよ!」
「ええ、分かっているとも。いかに君の父親が強かろうと今は関係ない。今此処にその父親はいるかね?それに護衛は?」
「・・・くっ!」
答えられないのを見て下品な笑いを浮かべたストンリー侯爵はアンジェラの髪を乱暴に掴む。
「正直、君が此処に来たのは想定外だ。だがそれは素晴らしい想定外だ。なにせこの国でもっとも美しい娘の一人が護衛もつけずに我輩の所にやってきたのだ。くふふ、我輩は確信したよ。これは神が我輩に褒美をくれたのだと!ああ、なんと素晴らしい事か!」
「う、五月蝿いわね!その汚らしい顔を近づけないで」
「んん?逆らう気かね。やってみるといい・・・この状況では何も出来ないと思うがね」
ストンリー侯爵はアンジェラの髪を掴んだままぐい、と顔を引き上げる。そしておもむろに顔を近づけてべろり、と彼女の頬を舐めた。彼女の頬にはべったりと侯爵の唾液が付く。味を確かめるように舌なめずりをする侯爵に一瞬何をされたか判らなかったアンジェラは一瞬の空白の後怒りと恥辱に顔を歪ませた。
「ひっ!な・・・何するのよ!」
「くふふ。これはこれは良い味だ。何も知らない幼子のような味だ・・・このような味は久しぶりだ。君のような愛らしい子供を征服できると思うとなんとすがすがしい気分だろうか」
侯爵が奴隷に命令すると奴隷の大男はアンジェラを抱えて奥にある大きなベッドに運ぶ。ベッドはじっとりと濡れている様にアンジェラには感じられた。侯爵はこちらに近づきながら服を脱ぎ、醜い脂肪で覆われた肉体を晒す。
「何時かは君をこの手で教育してやりたいと思っていた。その機会がそちらから転がり込んでくるとは。くふふ、早く教育をしたくて疼いておる」
「いや・・・来ないで!」
アンジェラは必死に逃げようと抵抗するが両手両足を縛られているので満足に動く事もままならない。その様子を楽しそうに眺め、侯爵は彼女の着ていた服に手をかけると胸元まで一気に引き裂く。
「いやああぁぁ!!」
「・・・ほう、実に素晴らしい。やはりこうでなくては。男の味を覚えた雌の体など、我輩の目の前にある真珠の様な絹肌とは比べる事すら馬鹿らしい」
侯爵が彼女の体に覆い被さり服の破れた箇所に触れようとした瞬間、背後にあった木製の鈍重そうな扉が吹き飛ばされた。それと同時に警戒していた奴隷の大男も吹き飛ばされる。
「何奴だ!」
侯爵の問いかけに現れた人物は答える。黒いコートに長い刃物。それを侯爵に突きつけるようにして。
「正義の味方だ!!」
※※※※※※※※※※※
勢い良く扉を蹴っ飛ばして登場してみたら凄く危ない事になっていた。そこで伸びてる奴隷の男は、まあいいとしよう。彼には可哀想だが今は気にしている場合じゃない。問題は、だ!
奥にある巨大なベッド、そこで今まさに行われようとしている行為に関してだ!醜いデブが愛らしい少女(傍目から見れば)の手足を縛ってあんなことやそんな事をしようとしているではないか。なんてうらやま・・・ゲフンゲフン。なんてけしからん!
デブに対して愛刀を突きつけながら目でジンとヴィスに合図をする。二人とも直ぐにベッドを取り囲むようにしてじりじりとデブを包囲してゆく。ヤミナは僕の後ろでいつでも魔法を放てるように準備している。
「その正義の味方が我輩の所に何のようかね。見ての通り我輩は今とても忙しいのだ」
「僕の見る限りあなたは彼女の両腕、両足を縛って抵抗も出来ない彼女に対して乱暴を働こうとしているようにしか見えないんだけれど。理解したのなら今すぐ彼女から離れるんだ」
「我輩の至福のときを邪魔するというのかね」
デブは余裕の表情で未だにアンジェラから手を離そうとしない。アンジェラの方の表情は見えないけれどきっと凄く怖いに違いない。ここは直ぐにでも助けないと。
「仕方ない。相手をしてやれ」
デブが呟くと天井やら床から六人の男がぬっ、と出てきて僕達を取り囲む。男たちは皆一様に黒い服でそろえておりその手には明らかに人殺し用であろう、剣や鎌が握られていた。たぶんこのデブが雇った殺し屋かなんかなのだろう。それよりずっと待機させていた、なんてことは無いだろう。たぶん。
「久しぶりに呼ばれたと思ったらこんな餓鬼の相手かよ。しけてやがんな」
「だが見てみろ、向こうの魔法使いの小娘はなかなか良さそうだ。おい、こいつら殺したら俺はこの小娘をもらうぜ」
「なら俺はこっちの女騎士だな。へへっ、いい身体してんじゃねえか。女はここ最近抱いてないからな。溜まってたんだ」
ヤミナとヴィスの体をいやらしく見つめる黒装束達。何と言うことだ。ヴィスだけでなくヤミナをもそういった目で見るとは、許せん。僕だってまだ満足に彼女の健康的な肉体美を満足に見たことなんてない・・・いや、これは失言だな。まるで僕が黒装束と一緒みたいじゃないか。
「僕の仲間に手を出そうというなら容赦はしないぞ」
「ぬかせ。女騎士はなかなかやるようだがお前達の力じゃ俺達にキズの一つも付けられんぞ」
黒装束達は完全に僕達を舐めきっている様だ。それだけ自信があるのだろうか。だが生憎とこちらも容赦は出来ないのでさっ、とジンとヴィスに目配せで合図をする。
「どうした?やるならやってみろよ。鈍い攻撃なんぞ・・・」
悪いけれどこれ以上話を聞くとかわいそうなフラグが建ちまくるので早々に折らせてもらう。軽く、力を込めずに刀を振って目の前の男たち三人の持っている武器を一瞬で真っ二つにする。ジンも同様に蹴りを放って武器を粉々に砕く。
普段ならもっと手加減するところだけどこいつらはヤミナとヴィスに欲情したという大罪があるので、遠慮なくいかしてもらう。反応できていない殺し屋たちに肉薄し刀を持っていない左手で鳩尾に一発、ついでに顎にも一撃いれるとあっけなく男の一人が倒れた。
「なっ!てめえ何を・・・!」
「喧しいのう。喋ってる暇があったら手を動かせ」
うっとうしそうにジンは足だけで次々と制圧していく。怒りゲージは結構溜まってるんだけどここで開放すると建物ごと吹き飛ばしてアンジェラや関係の無い人達も巻き込んでしまう可能性があるので僕はなるべく武器を使わず、ジンは足だけで攻撃をする。僕だって成長している。どこかしこ構わずぶっ放したりはしないのだ、えへん。
「な、なんでだ!なんでミスリルの武器が折れてんだ?!」
「武器の心配してる場合?」
再び鳩尾に一発。悶絶した所に背後から魔力を纏った風の塊が飛んで来て男を吹き飛ばし、壁にめり込ませた。実行者はもちろんヤミナだった。何時もより小鼻に皺が寄ってちょっと怒ってるようだ。その表情も可愛い・・・はっ!見とれてる場合じゃなかった。そんなことしている間にヴィスが次々に男達を倒していく。
「あなたには我々騎士団、そしてこの国の客人に対する不敬罪及び殺害容疑、並びに主席にのご子女への暴行、監禁等の罪がかけられます。言い逃れは出来ません!」
「・・・大人しく掴まると思うのか?」
「であればこの場で即刻あなたの首を落とします。これは命令です」
ヴィスの警告にもデブは耳を貸さない様子でゆっくりとアンジェラから離れる。僕とジンも警戒しながらゆっくりと近づく。
「大人しくせい。なあに、命までは取らん」
「くふふ・・・我輩が貴様等の様な金も権力も持たない者に屈するとでも?」
「何だと?!」
怒りで聞き返したヴィスにデブはにたにたと下品な笑いを浮かべてこちらを見下す。そしてズボンから何かを取り出す。握り拳程の大きさで、赤く怪しげな光が指の隙間から漏れている。一目見ただけでも危険と分かるそれは。
「それは!『レイデン』か!」
「そうだ。ミロ。この素晴らしいヒカリを。見ているだけで力が湧きあがる・・・そうは思わんかね」
「いいや、思わないね。さっさとそれを捨てるんだ!魔の力に飲み込まれる!」
「グキキ・・・何を言っている?我輩が?魔の力に?逆だ、我輩が飲み込んでくれよう!」
言うなりデブはレイデンを自らの胸に突き立てた。脂肪の塊がぶるり、と震えて赤い結晶が脈打つ。
「ちっ!やりよったか!」
「ジン!アンジェラを頼む!!」
魔力を刀に纏わせて刀を振るいデブの体をばらばらに切り刻む。だけどコルキの町であったのと同じ、いやそれ以上の魔の力を未だに感じる。ジンは一瞬の隙を付いてアンジェラを確保。すぐさま後ろに飛び退きヴィスに預ける。
「ここは狭い。中庭に押し込む!鶯花語舞!」
流れるように、踊るようにデブに向かって攻撃を繰り出す。一撃一撃が城の城壁を崩せるほどの攻撃を受けてデブが吹き飛ぶ。飛んでいった先は丁度この屋敷にある大きな庭。ここなら存分に戦えるだろう。
中庭に下りてみると既にデブの体は肌色から真っ黒に変わっており頭からは角が二本生えていた。目は金色。身長もデブとは違いまさに大男、といった感じだ。前の変化はレイデンが小さかったからか、元デブほどまでの変化が無かったのだろう。今回はマジで魔界の住人のおでましらしい。
「・・・やれやれ、手荒い歓迎だな。もう少し労わってくれても良いんじゃないか?」
「魔界の住人はお断りなんだけどな」
「まあ、そういわずに。折角こうやって会いに来たんだから。探してるんだろ?『レイデン』をばら撒いている犯人を」
にやり、と笑ってこちらの反応を窺っている元デブ。しかも目線は下から見つめるので居心地が悪い。
「それでは聞かせてもらおうか。お主は何者じゃ」
「僕は犯人さ。いやでも自分では善い事してるつもりなんだよ?僕のお陰で強くなった、って人も一杯居るんだし」
「善い事ならなんで使用者の姿を変えるんだ?」
「こっちの方がしっくり来るからさ。ほら、適正?適合?そんなのがこっちの世界の検体には無いんだよね。だから僕がちょっと細工してより強く出来るようにしてるんだ」
その場でくるりと一回転する犯人。まるで自分の自信作を自慢するようで、そこには一片の悪意も感じられなかった。
まるで小さな子供だ。
「だったら関係のない者を巻き込むのはよせ。自分で確かめたらいいじゃろ?」
「だめだよ。僕には効かないから。他の人じゃないといけないんだ。この人にも渡すと喜んでくれたんだよ?へへ、僕って偉いね」
埒が明かない。犯人には悪い事をしているという自覚が無い。話し合いでは何時までたっても平行線だろう。あまり情報も引き出せそうにないし、出て来たばっかりだが早々に退場願うしかないか。
「御託を並べるのは十分だ。さっさとその人の体を元に戻すんだ」
「ざんねーん。レイデン使ったらもうこの体は僕の物なんだ。前の魂は邪魔だから消えてもらったし。・・・ふんふん、君ってば面白いねぇ。よーし、分かった!君たちが勝てたら僕が何処にいるか教えてあげる!」
新しいおもちゃを見つけた子供のようにはしゃぐ犯人の手にはいつの間にか両刃の巨大な漆黒の剣が握られていた。
見るまでも無く分かる。あれは危険な物だ。チラッと鑑定で調べる。
名前 暗黒卿の剣
状態 血に飢えている
説明 魔界でも屈指の実力者である暗黒卿の魂が込められた剣。どこまでも黒い剣は魂を吸い取る。
スキル 魂斬り(魂自体を斬る事ができる。きられたものはたとえ軽傷でも死に至る)
「へぇ・・・面白い能力持ってるね。君ー」
「!・・・ちょっとね」
楽しそうに話す犯人に一瞬動揺する。というか鑑定を見破られたのは初めてだ。かなりの実力者なのだろうか。気をつけないといけないな。
刀を一度鞘に戻して腰の位置で構える。適度に力を抜いてどんな動きにも対応できるようにする。漫画で見た構えの見よう見まねだけど身体能力の高さもあってからか、一番使いやすい型になっている。
対する犯人はだらりと力を抜いてニヤニヤと笑っている。カウンターでも仕掛けてくる気なのだろうか。
一気に踏み込んで加速、相手の目の前でもう一度踏み込んで側面を取る。がら空きの体に向けて刀を抜く。
「行くぞ!斬光!」
振りぬいた刀は肉体を真っ二つにするはずだった。相手の体は前のように霧に変化して切ることが出来ない。
「ざーんねーん」
「これくらいは学習済みさ!ジン!」
「おうさ!閑花素琴!」
音も無く放たれるジンの手刀は傷つく事がないはずの犯人の霧の体にダメージを与える。犯人は驚いて距離をとり霧化を解除する。
「・・・へぇー。今度はどんなトリックなのかな?」
「ふん。どうという事はない。わしの神龍としての力をほんの少し出しただけじゃ」
「ははぁ、まいったなー。神龍か。僕とは相性が悪いんだよね。とすると君にも霧化は意味無いんだね」
頭をかいてバツの悪そうにする犯人。だが僕としてもここではいそうですか、と言う訳には行かないので
「恨まないでくれよ。これも運が悪かったって事だよ」
「まさか。しかしこれは面白いことになったなー。・・・いいねぇ、よし。レイデンをばら撒くのは止めにしよう」
「ほう、どういう風の吹き回しじゃ?」
「べつにー。だって目の前にこんなに面白そうなものがあるんだから。ばら撒かないってのは本当だよ?信じなきゃだめだよ」
無邪気な笑顔でそう話す犯人を信じるというかここで嘘つくようには見えなかったので頷いて肯定しておく。
「いいねぇ。それでこそだよ。じゃあ、最後に君の力を見せてもらおうかな?この体が何処まで持つか不安だけれど」
先程のジンの攻撃でかなりダメージを負っているようなのでそんなに持たないのだろう。向こうが全力で繰るならこっちだって全力で行かなくちゃな。魔力と僕のもともと持ってい力を練り合わせて全身に巡らせる。空間が僕の力に負けて分解し始めるので早めに決着をつけなくては。
「これはこれは・・・まったく君って奴は素晴らしい!!」
刀を抜く一瞬、僕の耳に入ってきたのは犯人の嬉しそうな声だった。
第二回「聞いてみたい、異世界のあんなことこんなことー!」今回のゲストは龍神のジンさんです。
ジン「いきなり呼ばれてみればなんじゃ。確か前回ショウがここにきたのであろう?」
そうです。前回のゲストはショウさんでした。
ジン「ん?このタイトル前と変わってるような気がするんじゃが」
気のせいでーす。
それでは質問のお手紙がきてますので読みますね。
ジンさんおはこんばんにちはー。
ジン「おう、おはこんばんにちはーじゃ」
この世界の地理がイマイチ理解できません。簡潔にズバッと教えてください。
ジン「うむ。わしも分かりにくいと思っていたところじゃ。よかろう。この世界は三国が集まる大きな大陸と海を挟んで西と東に小さいながらも大陸があるのじゃ」
大陸は三つあるんですね。
ジン「うむ。中央大陸には現在わしらが居るブレイズ共和国。その北側には亜人や妖精族が住まうガーグランド王国、南には技術の発達した人族中心のストラング帝国と魔族の土地がある」
因みにジンさんは西の大陸、通称「龍の大地」から来たそうです。
ジン「東にはあまり行った事が無いのじゃがここはここで独自の文化があるらしいの。えーと、ニホンみたいなもんかの」
ジンさん。それメタいですよ。
ジン「おまけじゃ。構うものか。それにお主もにやにやしながら書くでない、気持ちわるい」
すんません。
・・・えーとっ!疑問には答えられたかな?また疑問はどしどし応募してるからねー!
ジン「わしからは一つだけじゃ。さっさと続き書け。そしてわしの見せ場をつくるのじゃ!!」




