第一章 二十七話
「へ?今から首都へ向けて出発するんですか?」
「当たり前でしょ。わが国の最高権力者直々の依頼よ。何よりも優先して行なうべき事案よ」
「いえ、準備というものがこちらにもあるんですけど」
「あら。あなたは不思議な術を使うと聞いてるわ。準備もさほど時間が掛からないのではなくて?」
コルキの町の一角。僕は突然現れたこの国の最高権力者であるムステイン主席の使いのもの、となのる女性から一枚の公文書を受け取りそれに書かれていた謎の言葉〈レイデン〉についての依頼を受けることになった。
「まぁ、準備はさほど掛かりませんが。お世話になった人達に挨拶くらいはしておきたいですし」
「・・・そうですね。本来ならば有無を言わさずに出発と行きたい所ですが主席からも出来るだけあなたの希望に沿うようにと言いつかっていますからね。明日の朝、西の門へと来ていただけますか?」
「分かりました。明日の朝ですね」
「それでは私は首都のほうへと連絡しておきますので。依頼の処理も明日の朝までには完了するはずです」
また会いましょう、とだけ言い残して女性騎士ヴィス・コードは颯爽とその場を去っていった。残されたものたちで突然の出来事に対して情報整理をしておかなくちゃ。
「えーと・・・勢いだけで受けてしまいましたけど良かったんでしょうか?」
「構わないだろう。〈レイデン〉に関しては情報もなく行き詰まっていた状態だしな。それに国家直々の依頼ならば各方面にも顔が利く。調査もしやすくなるだろう」
とクレモンド。彼は元首都デルニーで働いていたらしく依頼を受けた際のメリットを分かりやすく説明してくれた。
「良かったではないか。これで問題も解決に向かうのだろう?それに首都といったか?人間の町がどのようなものかを見てみたいしな」
『わたしはしょうについてゆく』
ジンとヤミナはとくに文句もない様でまだ見ぬ新しい町に期待を膨らましていた。僕も楽しみにしているところはあるけれども。
「微力ながら私も協力しましょう。馬車の用意くらいはしておきますよ」
「えっ?でもルークには関係のないことですよ?」
「乗りかかった船。と言うやつですよ。それにこれくらい商人としては容易い事ですよ」
なんとルークが僕たちの旅の支度の手伝いをしてくれるといってくれた。旅慣れてるルークが協力してくれるなんてとれも心強いな!
「ふむ。そういうことなら私も協力しよう」
『ししょうもきてくれる?』
クレモンドさんものりのりでこの依頼に参加するようだ。というか冒険者でもないのに構わないのか?
「それは問題ない。ショウのパーティーとして行動するし冒険者ギルドにも登録するから大丈夫だ。それに一度冒険と言うものを経験してみたかったしな」
「でも店の方は・・・」
「あんなものはただの暇つぶしにやっていたことだ。常連客も居ない店を閉めても何も変わらないよ」
常連客居なかったのか。よくそれでいままで店をやってこれたな。クレモンドさんはヤミナの魔法の師匠でもあるし僕達と気心もしれてるから問題なさそうだ。
そういえばジンはまだ冒険者に登録してなかったんだな。いっそのこと二人登録してしまおうか、と思いジンにその事を話すと快諾してくれた。
「話はまとまったようだな。本当なら俺も協力してやりたいところなんだが主席の来訪が早まってるらしくてな・・・すまない」
「そんな、大丈夫ですよ。それより忙しい所すみません」
「お前の責任ではないのに、おかしな奴だな。お前みたいなものには会った事が無い。無事任務を終えたらこっちに戻って来い。上手い酒を馳走しよう」
「楽しみにしておきますよ」
ハンニベルはそれだけいって忙しそうに町の中心地へと向かっていった。僕たちはギルドへ登録するために移動する。
「無事登録できましたね」
「ふむ。これが証、というやつか?見た目は普通だが微量の魔力を帯びておるな」
「私とジンは登録したばかりだから色は黒だな。二人は緑だが」
「ああ、これですか?リヴァイアサンを倒したときランクアップしたんですよ。なんでもギルドマスターから直々にって言われて」
リヴァイアサンと言う単語を聞き一人の魔法使いは苦笑いを、もう一人の龍は笑顔になった。
「それは凄いな。奴を倒すには最低でも一国の軍隊が必要だと言うのに」
「懐かしい名じゃな。わしも昔はやんちゃして奴の住処を荒らしたりしたものだ」
「でも僕が戦った固体はなんだか普通より弱かった気がしたんですけどね」
「それでも災害級の魔物を倒すのだ。ギルドマスターがランクアップさせるのも頷ける」
『しょうはつよいんだよ』
ギルド登録したあと買い物するために市場へと向かう道中ジンとクレモンドさんの互いの紹介を兼ねての雑談。クレモンドさんはジンの正体が龍だと知っても大して驚かず(僕絡みだとなにが起きても不思議じゃないと言っていた)話をしてくれた。ジンもそういった態度に悪い気はしないのか笑顔で会話が弾む。
やがて市場に到着した僕たちは首都に向けて必要なものを買っていく。生活に必要なものは前回灰色の森に入ったときに揃えてあったので少量でことが足りた。後は旅先でもっとも大事であろう食べ物についてである。僕たちは分かれてそれぞれが必要だと思うもの(食べたいと思うもの)を片っ端から勝ってゆく。ジンはお金の使い方がイマイチ分からないといっていたけれど銀貨を百枚ほど-つまり十万ドーラほど-握らせておく。
一時間ほどしてから各自背中に背負っていたかなり大き目のバッグがパンパンになるほど食料を買い込んで集合した。
僕はどちらかというと日本で言うお米に近い食感、味を持つ食材とそれに合うようにすこし濃い目に味付けされた肉がのった所謂丼を沢山。ジンは以外にも野菜中心に買っておりヤミナが肉中心だった。そしてクレモンドさんは豆のスープだけというかなりというか凄く偏った食べ物を買っていた。
「さて、これらは全部僕が持っておきますね。これだけあれば当分は不自由しなくてすみそうですね」
「そうじゃな。ところでクレモンドよ。首都まではどれくらい掛かるのじゃ?」
「そうだな・・・ルークの奴がいい馬と馬車を用意してくれるとして、人数も小さな商隊ほどだからな。早く行けば二十日程で着くだろう」
「二十日かぁ・・・なあジン。龍だったら僕達を運べたりしないのか?」
リュックの中に展開している〈無限収納〉に要領よく(といっても放り込むだけだけど)食べ物を詰めながらふとジンに聞いてみる。龍、なんて言うんだから軽く僕達を運べると思うんだけど。
「できんこともないが・・・わしはあまりあの尻尾と鱗だらけの姿は好かんのだ」
「そっか。ジンがそういうのならわざわざ嫌な事をさせるわけにも行かないし。それにジンとクレモンドさんがいればどんな敵が出てきても平気そうだから大丈夫だろう」
「任せておけ。どんな魔物にも負けるつもりはない」
「はは。私としてはショウとジンがいるから出番はないと思っているんだがな」
かるい冗談を言い合ったところで時刻は早くも夕刻である事に気付く。買い物も殆ど終わったので宿屋に行こう、という事になった。
宿屋では店主のバーンに嫁のフウ、娘のララも居たので明日首都に旅発つ事になった事とお世話になった事の感謝を伝える。バーンは初め驚いていたようだけれど主席直々の任務だと聞いて凄い事じゃねえか、とまるで自分のことのように喜んでいた。
「おうおう!しかしえらく急に決まったものだな。なら今日は宴会だ!うんと食べて精をつけとかないとな。俺に任せろ!とびきり旨い物を作ってやるぜ!首都にいっても俺の料理の味が忘れられないようにしてやるぜ!」
「あらあら~でも国直々の依頼なら仕方ないわね。頑張ってね~応援してるわ~」
奥のほうではヤミナとバーンの娘のララが楽しそうに話し合っていた。そういえばヤミナはララと仲がいいって話をバーンから聞いたことがあるな。なんどか二人で遊びに出かけるのを迷子の犬を探していたときに見たことがある。ヤミナに友達が出来たのは凄く嬉しい事なんだけど首都にいくのなら二人は会うのが難しくなってしまうな。ヤミナは構わないといっていたけれど本当に大丈夫だろうか。後でさり気なく聞いてみるとしようか。
「うむ!この肉は旨いな!一体何の肉なんだ?」
「はっはっは!何の肉かだって?野暮ったい事聞くんじゃねえよ!何の肉でも旨けりゃいいじゃねえか」
「そうじゃな!うわっはっはっは!」
宴会も始まって早くも二時間ほどが経過しようとしていた。バーンが用意してくれた色とりどり、沢山の料理はあらかた食べつくされており今は酒と話が腹を満たしていた。何気ない会話や昔やってしまった馬鹿な事を自慢げに話しているバーンやクレモンド。かなり酒が回ってきているようだ。そういう僕だってかなりの酒を飲んだのでかなり視界が揺れている。ジンは全く酔う気配なんてなくどんどん呑んでいるので付き合っているバーンは意識が飛びかけているけれど。
宴会の途中で騎士団の面々やギルドの職員が来て祝いの言葉を述べて料理と酒を平らげていった。あの中には僕と接点がなく明らかに食事と酒が目的の人も何人かいたけれど、やはり大人数でわいわい言いながら食事をするのは楽しかった。前の世界では小さい頃親戚が集まって食事をした以来の大勢の食事だったけれどとても楽しかった。右から左から注がれる酒に飛び交う怒号に賞賛の声。祭り好きな日本人としてこれほどわくわくする展開があるだろうか、いやない。僕も調子に乗って酒をがんがんと飲む。結果周りでは泥酔したギルド職員やら騎士団の人が動かぬままで横たわるなかで僕は何とか意識を保っている。
「だめだ・・・み、水」
どこかの拳法家みたいな科白を吐きながら胃の中のものも吐きそうになっていると目の前に水が差し出された。おお、これは神の思し召しなのか!だが今の僕にはそんなことを考える余裕なんて微塵もなかった。出された水を飲んで胃の中を落ちつかせる。
「助かったよ。ありがとう・・・ええと、ルーク?だよな」
「そうですよ。大丈夫ですか?かなり呑んでいたようですが」
「何とか。ルークの方は大丈夫なのか?」
するとルークは少し肩をあげて困ったような嬉しいような顔をした。
「生憎こういった場所には慣れていましてね。うまく立ち回っていましたよ。そうだ。ヤミナさんは眠たそうだったので友人のララさんと少し前に休みに行かれましたよ」
「そうなのか。ヤミナも楽しめたんだろうか」
「それは存分に。終始笑顔で沢山の肉を詰め込んでいましたよ」
それは容易に想像できる場面だな。口いっぱいに頬張ってもごもごさせるヤミナ可愛い。いかんな。酒が入って思考回路と嗜好回路がごちゃ混ぜになってきてる。ちょっと風にでも当たろうかな。
「少し外に出ませんか?風に当たりたくて」
「そうしましょうか」
扉をくぐって階段をあがる。ジンは放っておいても大丈夫だろう。周りの人の翌朝が悲惨な事になってるだろうけど。
この宿の最上階、つまり屋上について体を伸ばす。息を吸って肺の空気を交換する。東京だとか大阪だとかは違った新鮮な空気が肺一杯に入ってくる。隣では同じようにルークも息を吸っている。しかしなんだか表情は優れない。
「顔色が優れないみたいですけど、大丈夫ですか?」
「ええ・・・まぁ」
歯切れ悪く返事したルークは何かを考え込むように顎に手を当ててじっと目を閉じていた。
僕ってば何か失礼な事を言ってしまったのか?
「今から話すことは全て独り言として聞いて欲しいのですが・・・私は今凄く後悔しています。私の大事な友人を危険と思われる任務に巻き込んでしまったのです。友人は本来なら任務には関係ない人物なのですが私の身勝手で友人を巻き込むような形になってしまったのです」
「・・・・・・」
「私は生まれてからずっと窮屈な生活を続けていました。もちろん一般の人から見れば驚くような贅沢な暮らしをしていたんですが私としてはとても肩身の狭い生活だったのです。それに耐え切れなくなった私は我侭を押し通して旅に出ました。そこでは本来の生活では手に入れることが出来ないような素晴らしい出会いや友人達がいました。しかし私は思うのです。私と私が出会った人達は違うのだと。生きる場所が違いすぎると。何時かは私は友人達と別れなければいけないときが来るでしょう。それが私には我慢ならない程つらいのです。ましてや今回のような事件に巻き込んでしまって・・・恨まれても仕方がないでしょう」
ルークの話に耳を傾ける。彼自身の境遇や今までの暮らしがどんなものだったのかはよく分からないけれどどうやら僕がこの任務を受けることになったのは自分に責任があるとでも言いたそうだ。でもそんなことを彼が気に病む必要なんて何処にもないはずだ。もともと僕はこの世界の人間ではないのだからこの依頼は断っても良かったし、断って向こうが不満を言ってきたとしてもこの国の人間でない僕には関係なかったはずだ。
なのに。
僕は断ろうなんて考える事もなくこの任務を受けた。それはけっしてルークや中央騎士団のヴィスに対して恩を売ってやろうとか凄い力を持ってしまった故の義務とかじゃあない。
「これは独り言なんですが。僕は別に迷惑だとか恨むだとかそんな事は一度だって考えたことは無いんです。むしろ人から物を頼まれる、頼りにされるなんて経験がなかったからとても充実してるんです。それに僕としては友達の間には損得とかそんな感情は抜きにしたいんです」
前の世界では言えなかった科白。損得抜きの友達の関係。いたるところに欲望が渦巻くあの世界では友達、と呼べる関係の人は居なかった。友達と呼んでいた人を次の日には陰湿ないじめで自殺にまで追い込んだ人を何人も見た。この世界でもそんな事がないとは言い切れないけれど少なくとも今僕が親しくしている人達はそんな事をするような人でもないし僕だってしたくない。だから。
「僕が進んでやっていることなんですから誰かが悲しんだり苦しんだり・・・そんなことはないように。最後には笑っていられるようにしたいだけなんです。友達なんだから。・・・はは、ちょっと格好つけちゃったかな?」
「・・・・・・ショウさんと居るとこんな私までもが力を分けてもらってるようで。友達として、ですか・・・」
「大層な事なんて僕はしませんけど」
互いに空を見上げながら独り言を隣の人物に伝えるように呟いているとなんだか男同士の友情みたいで素敵だな。甘酸っぱい青春もいいんだけれどこういった男同士の友情って言うのは格好いい。でもそれ以上に空を見上げるルークの姿が絵になっていてついつい見入ってしまう。男でも惚れ惚れとするその容姿。ルークじゃなかったら思わず殴り倒してるところなんだけど。
「ふう・・・すこし疲れました。私はもう少しここで休んでいきますね」
「風邪、引かないでくださいね」
僕の方も酔いがいいくらいになってきたのでそろそろ休もうかと思い屋上を後にした。階段を下りて食堂で樽から直接酒を飲んでいるジンを無理やり引っ張って部屋へと引き上げる。ヤミナの方は友達と休んでいるっていってたし大丈夫だろう。
べろんべろんに酔っているジンを風呂に放り込んで僕も服を脱ぎベッドへと横たわる。意識が頭から徐々に離れてゆく。ジンがぼたぼたになってベッドに倒れこんだ事も知ることなく夢の世界へと僕は旅立った。
翌朝。コルキの町の西の門。
そこには銀の甲冑に身を包み銀色の兜からブロンドの髪を風に遊ばせている中央騎士団の部隊長ヴィス・コードは呆れて物も言わずにため息だけついていた。
「全く・・・約束の時間に遅刻だなんて。それでも国の任務を担う栄誉ある戦士ですか?」
「わしは戦士ではない・・・この通り何処からどう見ても立派なりゅう・・・」
「どこに千鳥足で今にも戻しそうにしている龍がいるんですか。冗談も程々にしてください」
「ぐっ!わしに話しかけるなっ!大きい声をだすな・・・うえ・・・」
「自業自得なんじゃないのか?」
「うるさいわい。わしは今機嫌が悪いのじゃ。あんまり言うと容赦せん・・・ぞ」
「あんまり喋るなよ・・・ああ、景色がぐらぐらする~」
二人、正確には僕とジンは前日の酔いが悪い方向へと転がったようで非常に倫理的にも絵的にも危険な状態だった。このままではマーライオンのように口から出してはいけないものを出してしまう気がする。
「くそ・・・次亜塩素酸と新聞紙を・・・」
「何をいっておるんじゃお主は・・・ツッコミを入れる気力も無い」
「僕もボケる気力もないんだけど」
「はぁ。そのようすでは暫くは無理そうですね。私としても途中で汚い思いはしたくありませんので出発は少し遅らしましょう」
ヤミナが背中を擦ってくれていることに感謝しながら僕はヴィスを睨みつけるようとしたけれど胃の中から何かがこみ上げるように来たので無駄な抵抗も虚しく大人しく看病を受けることになった。因みにジンはクレモンドが看病してくれている。
「・・・ふぅ。なんとかなったな」
「そのようじゃな。最大の山場も無事切り抜けられたというものじゃな」
「三回も吐しゃ物をぶちまけておいてよく言えますね」
僕達が必死に隠そうとしていた黒歴史の一つを甲冑女はいともも簡単にばらしやがった!反撃してやりたいところなんだけれど激しく動くのは勘弁なので無言の抵抗だけしておく。
「全く・・・旅発つ準備は出来てるんですか?荷物は随分少ないようですけれど」
「大丈夫。必要なものは全部そろえましたよ」
「わしらをなめてもらっては困るな」
「そうですか。なら行きましょう」
「ちょっと待てい!露骨に無視をするな!」
叫んでいるジンの方を振り向きもせずヴィスは何故かヤミナの手をとって暫く前からルークが用意してあった馬車の方へと歩みを進める。僕たちはよろよろと後を追うのだった。
「大丈夫なんですか?まだ顔色が悪いようですけれど」
「いや。平気だよ。それよりもありがとう。まさかこんな立派な馬車を用意してくれるとは」
目の前にあるのは小さい家ほどある大きさの馬車、というか家といってもいいかもしれない。それを引っ張るのは筋肉が美しい馬が四頭。いずれも準備万端という風で鼻を鳴らしている。
こんな大きい馬車をよういしてもらってなんなんだけれど荷物は殆ど僕がもってるからまだまだ余裕があるな。
「一個小隊ほどで行くと聞きましたのでこれくらいの馬車が妥当かと。それと幾らショウさんが荷物を持てるといいましても多少は積んでおいた方がよいかと思いますよ。もともと馬車は荷が入る事前提に作られてますから」
「そうなんですね。だったら・・・水と天幕、それと軽く食料を乗せておこうかな」
「それがいいと思います。水は馬も必要としますし天幕も使い道があります」
ルークの指摘を受けて〈無限収納〉から物資を出していく。その様子をヴィスはとても不思議そうに眺めていた。
「普通冒険者鞄にはそれほど荷物は入らないはずなのですが・・・これが不可思議な術ということですか」
『しょうはすごいんだよ』
「・・・ええ、そのようですね」
えへん、と胸を張るヤミナに微笑みかけるヴィス。おいおい、いくらヤミナが可愛くたってやらないぞ。ってかヴィスの言葉使いが僕達と違うのは気のせいなのだろうか。僕達には棘のある言い方なのに。
「ショウ。もう準備はいいのか?」
「えっ、はい。ルーク。何から何までありがとう。これで問題なく旅が出来そうだよ」
「そんなことはないですよ。それに私も付いて行きますし」
「へぇー、そうなんですか・・・ってええぇぇぇ?!何で?てっきりルークはついてこないかと」
「何を言っておるんだお主は。ルークは馬車を用意すると言ってたではないか」
「それと旅に同行するは僕のなかでイコールで結びつかないんですけど?」
「私も丁度首都に向かって旅発とうと言う所でこの依頼の話がありまして。どうせならという事で同行させてもらうことになったんですよ」
「ショウ、聞いてなかったのか?」
そんな話は全然聞いてなかったですよ。皆して僕をのけ者にしようとして。こうなったら僕にはヤミナしかいないんだ。彼女なら僕の味方だよね?
『ごめんなさい。わたしもしってた』
そう書かれた紙を目の前に突きつけられて僕の めのまえは まっくらになった!
「こんな慌しい出発は騎士団人生のなかでありませんでしたよ?」
「すみません」
「今回は主席直々の依頼だからいいんですが。これが共同作戦だったりしたら問答無用でひっぱたいてますよ」
『そんなことしちゃだめ』
「ご、ごめんなさい・・・確かに言い過ぎたみたいね」
ヴィスさん怖い。そして僕を庇ってくれるヤミナまじ天使だ。こんな可愛くて思いやりのある娘がいて僕は幸せだなぁ。
「おー!ショウよ!この馬車という物はなかなか乗り心地が良いな」
「それはいいけれどジン。あんまりやると揺れて僕たちまで酔ってしまいそうだ」
「現在のデルニーの魔法障壁の次元的干渉数なんですが・・・」
「・・・ふうむ。魔法はいいとしても技術がだめだな。戦略的魔法にどれだけ耐えれるか少し心配のところだが」
コルキの町を出発して二時間ほど。周りは見渡せど見渡せど広がる平原で魔物の姿なんて一匹も見ない。なので場所を取り囲むようにして進んでいる中央騎士団の人達も馬車の中に居る僕達ものびのびと旅のひと時を過ごしていた。
「そういえばヴィスさん。騎士団の中央と地法ってどう違うんですか?」
「・・・そうですね。騎士団と一言に言ってもこの国ではいくつかに分けられます。一つ目は地法騎士団です。地法騎士団は主にその地を治める領主が選んだ者、若しくは首都の騎士団から選抜された者達のことです。任務としては主に街道の魔物の駆除と治安維持を行ないます。その地法騎士団をまとめているのが中央騎士団です。任務としては主に首都の守護と他国に対する防衛です。そして中央騎士団というくくりの中ですが、ムステイン主席直属の守護騎士団に分かれています。守護騎士団の任務としましては国家の重要人物の警護と内政補助を行ないます。因みに私達の部隊も守護騎士団なんですよ?」
「そ、そうなんですか・・・ところで、今はムステイン主席は地方都市に出かけているんですよね?護衛とかしなくても大丈夫なんですか?」
国の偉い手が直接選ぶのなら護衛をするのが当然なんだろうとは思う。けれど今は主席の元を離れて僕達と首都に戻っている。
「ムステイン主席は英雄です。そこ等辺りの賊に負けるはずありません。それに今回の任務に中央騎士団を選抜したのはムステイン主席なのです」
「はぁ。そんなものですかね」
ヴィスのムステイン主席に対する尊敬というか信頼というかすごく強いみたいだな。それが中央騎士団の強みなのかな。しかし地法騎士団の任務である街道の警護とか治安維持なんて滅多に見たことないんだけど。
「・・・非常に悲しい事なのですが、この国の上位貴族たちは私腹を肥やす事に集中していておりまして。それがこの国の発展、騎士団の活動を妨げている一因となっているです」
「人は何時の時代も変わらない、ということじゃな」
ヴィスの言葉にやれやれ、といった様子で肩をすくめるジン。長い間を生きてきた彼なりの言葉なのだろうがヴィスには皮肉に映ったようで苦い顔をしていた。
「今は何時貴族側から反乱が起こってもおかしくはない状態でもあるんです。それを察したムステイン主席が地方を回って貴族達が無駄な戦力を保てないように目を光らせているんです」
「しかしそれでは負の連鎖だな。貴族達を警戒して中央も腰が重くなっていると聞く。地方も満足に生活できていないもの達も居るとのことだが」
「私達としても経済の停滞、地方の民の生活の困窮は一番杞憂している事態なんです。なんとかしようと騎士団長も動いているみたいなんですけど」
話を聞く限り分かる事は貴族と騎士団は対立している事、ムステイン主席を貴族たちはあまり良く思っていないこと。そしておそらく今まで読んできた小説の流れだと少なからずこの主人公は争いに巻き込まれる事。
「はぁ・・・僕はただ平穏に暮らしたいだけなのに」
今の僕に出来る事は力なく呟く事だけだった。
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