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第一章 二十六話

「おい!どけ!そこを退けと言っているだろう!ぼさっとしてんじゃねえぞ!」

「ここは我々騎士団が預かる!無関係な者は直ぐに立ち去るんだ。さあ、早く!」


 コルキの町の通りで僕達と傭兵団〈西の風〉の幹部(もはやそんな面影もなかったけれど)との戦いが終わった直後、タイミングよく騎士団が駆けつけ野次馬達をこの場所から遠ざけていく。騎士団の指揮をしているのはもちろんこの町の騎士団長にして元首都の騎士団にも所属していた〈風斬りの兵〉のハンニベル・エイジだった。彼の近くには騎士団で僕のことをなぜか不審に思っているらしいクレイ・イングレットの姿もあった。

 僕の姿を見つけたハンニベルとクレイは抜刀した状態でこちらに近づいて来る。うわあ、クレイなんて殺気だしまくりじゃないか。そんなに怪しがらなくてもいいのに。


「チンピラが暴れているのかと思ってきてみれば・・・お前達、これはなんの騒ぎだ」

「これはですね・・・〈西の風〉の幹部が暴れていたんです」

「嘘をつくな、そいつの姿は何処にもないぞ!ハンニベルさん、こいつらの言ってくる事は出鱈目ですよ!」

「騎士団ともあろうものが、短絡的に決め付けるものではない!・・・はぁ、済まないな、お前たち」

「いえ、そんな事は・・・」


 改めてハンニベルに状況を説明する。初めに幹部のゴリラのような男が女の人を人質にしてなにやら叫んでいたとの事、そして段々様子がおかしくなって闇の住人になった事。口走った「レイデン」という単語と残された赤い水晶のような物。


「・・・ううむ、本当に男はレイデン、と言っていたのか?」

「はい。確かに言っていました」

「わしもその言葉は耳にした。ショウの言う事に間違いはなかろう」


 僕たちの話を聞いてハンニベルはううんだとかうぬぬ、とか暫くの間唸っていたけれど顔を上げて


「そうなのか・・・取りあえず詳しく話したい。どこか落ち着ける場所に行こう」

「それならば私にお任せください」

「誰だ?!」


 騎士団の二人が一斉に振り向く。その視線の先にいたのは誰であろうか、ルークだった。整った顔立ちにプラチナブロンドの髪が良く似合っている。もしも彼のことを何も知らないのなら嫉妬で殺意が芽生えるほどの爽やかさを持つイケメンだ。しかし何でルークがこんなところに?騎士団をどうやって巻いてきたんだ?


「ああ、失礼しました。私はショウの友人で旅商人のルークと言うものです。荷降ろしをしている最中に私の親友が得体の知れない物と戦っていると話を聞きまして、飛んで来たんです」

「得体の知れない、ね・・・確かにそうらしいが」

「何か腑に落ちないことでも?」

「いや・・・それよりも何処か話が出来る場所があるのか?」


 ハンニベルはイマイチ不服そうな顔だがよほど大事な話があるのか深くは追求せずにルークに尋ねる。

 

「ええ、私のちょっとした知り合いの所に行きましょう。そこなら誰にも邪魔される事なく話しをすることが出来ます・・・ああ、その水晶は触らない方がいいですよ」

「えっ!?」


 ルークに声を掛けられた若い騎士団の一人は驚いて凄い速さでこちらを振り向いた。目には少し殺気が混じっている。ってこの騎士団血の気が多いな。だからこそハンニベルのような人が必要なのかもしれないけれど。

 ハンニベルは若い騎士団員を手で制して水晶の回収方法についてルークに尋ねた。


「魔力を纏わせておけばひとまずは安心かと。ショウさん。すみませんがその水晶を仕舞っていてもらえますか?」

「分かりました」


 赤い水晶に近づいて魔力を手に纏わせる。そのまま水晶を持ち上げようとすると指先に電流が走った。うおお!この感触は・・・冬の魔物、静電気!?


「な、何なんだ・・・?」

「恐らくは魔の者の力が働いておるのだろう。人が放つ魔力に反発しておるようじゃがそのままにしておくのは少々危険かもしれんな。ショウ、お主の収納で何とかなるじゃろ」

「わ、分かった」


 もう一度魔力を纏わせて水晶を掴む。今度は何ともなかったけれど透き通るような赤色をしていた水晶が僕の手に触れた途端赤黒く変色した。水晶自体も小さく振動している。なんだか嫌だったので直ぐに〈無限収納〉に放り込む。

 食べ物とかに影響ないよね?


「さ、それでは行きましょう。待っている人もいますので」

「分かった。クレイ、ここは任せた。団のものを三班に分けて物品の破損状況の把握、交通の整理、先程の戦いの前後の情報収集を行なえ」

「はっ!!」


 ハンニベルはクレイに的確な指示をしてから僕達と一緒にルークの案内する場所へと向かう。後ろの方ではクレイがまた僕の方を睨んでいた。・・・そこまで嫌わなくてもいいのに。



「こちらです」


 案内された場所は居住区の更に東、殆ど貴族区に指しかかろうという場所の一軒の普通の家。ただし貴族区の近くなのでそれなりの大きさを誇っている。ルークに案内されるまま中に入る一行。

 家の中は何もなく、人が住んでいる状況、様子は全くもって見当たらない。全ての窓にはカーテンが引かれて部屋の中はかなり暗くなっている。その奥に一人の男性がいるのが見えた。灰色のローブを着ていて身長はかなり高くがっしりしている。この人って真逆・・・


「ほう、お主は・・・」

「クレモンド?!どうして此処に」

「はは、私の仕事は魔法道具マジックアイテムが主なんだがね、今回のような色物も扱うのだよ」

「彼は私の友人で魔界に関しての知識や経験は右に出るものはいません」


 ルークから紹介されたクレモンドは礼をしてから杖を構えたままで僕の方に近づいて来た。


「いろいろと君には言いたい事もあるのだが、今はそれは置いておこう。さ、お前が戦った男が残していったという水晶を見せてくれ」

「は、はい。これですけど」


 言われたとおりに〈無限収納〉から赤い水晶を取り出して傍にあったテーブルの上に乗せる。クレモンドは「ほう、これほどとは・・・」と興奮気味に穴が開くかと思うほどその水晶を見続けていた。


「私は生憎とそういった世界には疎いので聞かせて欲しいのだがこれは一体どういったものなんだ?」

「分かりやすく説明すると魔界とこちらの中継地点、と言ったところでしょうか。通常魔界と言うのはこちらに出て来れませんが、闇の魔法や契約を交わした際こちらに進出しようとします。その結果副産物として生まれるのがこの水晶です」

「副産物??」


 ハンニベルの言葉にクレモンドは「こちらで説明しましょう」とおくから一枚の黒板のような板を持ってきた。黒板にすらすらと図や文字を書いてゆく。しかし字も図も上手だ。どうやったらあんな綺麗な円が描けるんだろう。


「まず初めに言っておきますが魔界と言うのは私たちのごく身近に存在しています。魔界は地底深くにあるという学者もいますがそんなのはろくすっぽ検証していない者の戯言です」

「なんだと?!今此処にも魔界は存在しているというのか?!」


 声を荒げるハンニベルさんをクレモンドは片手を挙げて制する。


「落ち着いてください。魔界は〈存在している〉。だがしかしそれだけです。存在しているだけでこちらに影響を加えることは出来ない。そう私は考えています。しかしまれに居るんですよ、欲望に飲まれた愚かな者たちが更なる欲を飲み込もうと魔界に手を出してしまう事が」


 その結果が先程の事件であり、残滓がここにある水晶なのです。とクレモンドは指さして答える。と言う事はあの水晶の名前が〈レイデン〉なのか?


「クレモンド。この水晶の名前って?」

「ん?・・・いや、それが私も聞いたことがなくてな。そもそも魔界の力の残滓がこういった水晶の形で残るのは稀なんだ。そして仮に残ったとしても砂粒のように小さいから研究材料としても使えないんだ。だから私達はただ魔界の残滓、と呼んでいる。・・・それがどうかしたか?」

「いえ、先程の事件で男が〈レイデン〉と叫んでいたのでもしかしてこのことなのかな、と思ったんですけれど」


 男が言っていたレイデンの特徴を簡単に説明するとクレモンドは首をかしげて暫く考えていたようだけれども「やはり聞き覚えはないですね。資料をあされば、あるいは・・・」とぶつぶつ呟いていた。


「わしも長年生きてはいるが〈レイデン〉と言うものは見たことも聞いたこともないぞ」


ジンも分からないらしく腕を組んで考えているようだ。


「皆さん、お困りの様子ですね」

「誰だ?」


 振り向くと扉の前に一人の女性が立っていた。ブロンドの髪を伸ばし銀色に輝く甲冑と兜を被っていて腰には一振りの剣と盾を持っていた。目じりの方があがっていて初めて見たときはきつい印象があるけれど顔立ちも整っていてどちらかと言うと美人って感想が先行する。そんな女性は僕の前にまで歩いてきて僕の全身をじっくりと観察するように見ている。ヤミナは突然現れたナゾの美人騎士に驚いたのか僕の後ろに隠れている。


「な、なんでしょう・・・?」

「ふむ・・・あなたがあの〈巨人〉を倒したのですね?想像し難いですが」


 なんでそんなに落胆しているのですか?僕とあなたは初対面のはずなんですけど。そんな僕の心境を読んだのか女性はふっ、と笑う。


「あなたの噂は首都デルニーまで届いていますよ?あなたが知らないだけであってなかなかの有名人なんですよ?もっとも、あなたは自覚ないみたいですが」


 ばればれですもんね、とすこし小ばかにした様子の女性。しかし僕としては小馬鹿にされたと言うよりは後半の事の方が気に掛かっていた。


「僕が・・・有名人・・・だと?!」

「ええ、ショウさんにとっては不本意ながら、あなたの事はこの国の首都まで伝わっていますよ。黒き衣を纏いし勇者だ、とも一部では噂しているようですよ?」

「ええ?!僕が勇者とか・・・ありえない!あってはならん事ですよ!」


 次々と明かされていく衝撃の事実に僕は狼狽してばかりだった。なぜだ、ここの世界でのんびり暮らそうと思っていたのにこれじゃ厄介ごとに巻き込まれる準備万端じゃないか!


「まあ、でも仕方ないよな・・・僕が悪いんだもんね」

『しょうはゆうめいになるの、いや?』

「ん?いや、嫌と言うか・・・苦手なんだよね。人前にでたりましてや勇者だとか・・・そんな器じゃないのにさ」


 自分で言っててなんて我侭な、と思われずにはいられなかったけれど。前に読んだ小説では異世界に迷い込んだ人がチート級の力で勇者になり最後には世界を手中に収める、なんて展開があったけれど僕には世界どころか村一つさえ満足に経営できる自信がない。ので贅沢だと思うんだけれどこういった展開は嫌なんだ。

 ヤミナはそんな僕をみて不思議そうに首を傾げていた。まあ、普通の人にはない感覚だからな。分からないのが普通なんだろう。


「ま、まあ。それは一旦置いておこう。それよりもあなたは誰なんですか?まだ紹介されてないんでが」

「・・・これは失礼しました。私としたことが興味の方が先行してしまったようです・・・改めまして、私は首都デルニーに席を置き、主席を守る中央騎士団。その部隊長であるヴィス・コードです。よろしくお願いします」

「はあ・・・ショウ・キリシマです・・・こっちがパートナーのヤミナとジンです。」


 言われてヤミナは慌てて僕の影から出てきて頭を下げる。部屋の中なので帽子を脱いでおり長く絹のように煌く黒髪が上下に揺れる。瞬間、ヴィスの目が変わった、気がする。すぐにもどったから分からないんだけども。そのあとでジンもよろしくと言いながら手を差し出した。握手のつもりだったんだけれどヴィスはどうも、と言葉だけで挨拶を行なう。ジンはすこし悲しそうだった。


「ほう・・・主席直属の精鋭ぞろいの中央騎士団か。首都から遠く離れたこの地でその名を聞くとは、な」

「ふむ、主席の警護でこちらにまで来ているという噂は耳にするが何故その部隊長がこんな所に?」


 クレモンドとハンニベルが唸りながら首を傾げていた。二人の様子を見るにこのヴィスという女性は騎士団のなかでもなかなかえらい立場の人なのだろう。早速〈鑑定〉を使用してステータスを調べてみる。


名前 ヴィス・コード(22)

状態 健康

装備 光のブロードソード 騎士団式甲冑(一式) 皇紀の盾

称号 中央騎士団部隊長〈海〉

スキル 統率Ⅲ 片手剣術Ⅲ 魔法(火・召喚・風)Ⅱ 団結Ⅲ

    料理Ⅳ

固有スキル 部隊操作(指揮している部隊の能力上昇〈中〉)


 二十二歳か。この年で部隊長なんてたぶんと言うか確実にかなりのエリートなんだろうな。剣に魔法も使える万能剣士って所か。しかしクレモンドたちの言うように何故中央騎士団がこの地へ来たのだろう。


「あなた宛に我が主にして英雄であるムステイン主席より書を届けにきました」


 そういってヴィスは一枚の丸めた卒業証書大の紙を取り出した。


「あれは主席が直々に書いたものですね。公文書であると同時に余程のことがない限りは見ることはない物ですね」

「・・・つまり、それだけ僕の力の事が向こうに知れ渡っているってことですね」


 公文書なんてものを出してきたのだ。僕の力の事についてはある程度この国の偉い人達に知れ渡っていると見たほうがよさそうだ。本音を言うと凄くめんどくさいんだけども。

 ヴィスから文書を受け取り中を開く。後ろからジンが興味深そうに覗き込んでくる。ヤミナも興味ありげにこちらを見つめていたので声に出して書いてあることを読むことにした。


「えーと・・・〈巨人〉を倒すほどの力の持ち主に最大の敬意を評し現在わが国で急激に増えつつある〈レイデン〉問題への解決協力の依頼を願うものである。って書いてありますね」

「国の偉い手からの直々の依頼というわけじゃな」

「そうみたいんだけど。依頼というより命令じゃない?願うって書いてはあるんだけど文書自体は公文書っていうすごく重要な物みたいだし」

「おや、意外と頭は回るようですね。すこし感心しましたよ」


 ヴィスは不思議そうな顔で僕を見つめる。確かに僕は頭は良くない方だけれどもそこまで、しかも初対面の人に思われる程なのか。いったい彼女達には僕の噂はどういう風に聞こえているのだろう。この話が終わったら帰る前に問いただしてやろうか。


「どうしますか?ショウさん」

「どうしますかって言われても・・・受けなきゃいけない感じですし。それに僕の方も気になってますからね〈レイデン〉って一体なんなのか。と言う事で依頼を受けるけれど二人は構わないかい?」


 ヤミナとジンは首を縦にふって肯定する。二人とも不満も無いようだし構わないだろう。ヴィスの方に向き直り依頼を受けることの意志を示す。


「依頼を受けることにしますよ。これってギルドで処理してもらわなくても良いんですか?」

「この場合は国家直々の依頼ということで少し特殊になっています。処理はこちらの方で行いますのであなた達は準備を行ってください」

「へ?準備ってなんなんですか?」


 するとヴィスはやれやれ、といった風に肩をすくめてから笑顔でこういったのだった。


「決まってるじゃないですか。今から首都デルニーに向けていくんですよ」


閲覧ありがとうございます。

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