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外伝 ヤミナの一日-2

閲覧ありがとうございます。

「いらっしゃい・・・っと、ヤミナか」

「ああ、ヤミナさん。こんにちは」


 覚悟を決めて重そうな扉を開いた先には何時もと変わらない光景、少し薄暗く日が当たらない部屋の中で私の背の三倍は積まれた革表紙の本のタワーや何に使うか分からない機械が乱雑に置かれている。その奥で二人の男性が一冊の本を挟んで話し合っていた。一人はクレモンド・ネイビーさん。この店(確かコッパー&コフィン)のオーナーで私の魔法のお師匠さん。もう一人はルークさん。ショウの友人で商人だ。

 二人とも私の姿を見て暫く固まっていたけれどすぐに慌てて走ってきた。


「大丈夫ですか?!どこも怪我はしていないですか?!」

「くそ、どこのどいつがやりやがったんだ!とりあえずヤミナは上がりなさい。さ、早く」


 二人とも凄く心配している様子で私をおくの部屋へと上がるように言ってくる。クレモンドさんは店を早くも閉めてしまった。


「これを飲みなさい。すこし落ち着くといい」


 渡されたのは一杯のお茶。私はお茶じゃなくて話を聞いてもらいに来たんだけど・・・

 そうだ、話をしないと。胸の奥にちくりと刺さるような感覚が再び私を襲う。ショウのことは信じてるし、大好きなのにさっきの女性の奴隷の言葉が私の中で再生される。



   奴隷は捨てられるのよ。



(そんなことない・・・そんなことショウがするはずない。私は要らない子なんかじゃない。迷惑は何度もかけちゃってるし、言葉も話せないけれどショウは私が大事な人だって言ってくれた!)


    

   奴隷は使い捨てなのよ



   あんたより綺麗で従順な奴隷   

  

 

   何時かはあんたも捨てられる


 

   捨てられない、なんて幻想



(嫌・・・それだけは嫌。捨てられるなんて・・・そんなことしないで、何でもするから!)


「・・・さん!ヤミナさん!?しっかりしてください!」


 ・・・えっ?

 私の目に映っているのは金色の髪と整った顔のショウの友達のルークさん。それと、天井だ。なんで?さっきまで私は座っていたはずなのに。


「まったく心配したぞ。いきなり倒れるもんだからな。どれ、体調は・・・ふむ。外傷はないが酷く疲れてるようだな」

「良かった。怪我はないのですね。あなたの身に何かあったら私はどうしていいか・・・」

「男がそんなことでうろたえるもんじゃない」

「そう、ですね。すみませんヤミナさん。私がしっかりしないといけないのに」


 ルークさんはそう言って私に頭を下げてくれた。奴隷なのに、私は本来この人達から話をしてもらう、ましてや頭を下げられるなんてあってはならない事のはずなのに。そう思うとまた何かが胸の奥をちくりと刺した。


「もしよろしければ、何があったか話していただけませんか」

「話すだけでも楽になる事はある。なあに、この老骨、話くらいなら幾らでも聞くぞ」


 そうだ。私はこの人達に話すために此処に来たんだ。すごく逃げたい、誰にも話をしたくないけれど、此処で話をしなくちゃずっと胸の奥が痛いままだ。そんなのは嫌だ。


『さっきどれいのおんなのひととあって・・・』


 話すのはとてもつらかったけれど、手が震えていたけれど、私は女の人とであった事や言われた事。ショウのことが大好きなのに心のどこかで不安があることを伝えた。

 クレモンドさんとルークさんはその間何も話さず、急かすこともなく待っていてくれた。


「そうでしたか・・・そんな事が。つらかったでしょう」

「だが良く話してくれた。私達でよければ喜んで力になろう。なにも心配することはない」


 二人とも凄く私の心配をしてくれてとても嬉しかった。

 ルークさんは咳払いをしてから話し始めた。


「こほん。・・・ええとですね、誤解を恐れずに言うならば、確かに人というものは新しいものがあればそれを手に入れたくなるものです。それがましてや金銭的に余裕があり且つ自分の自由に出来る〈奴隷〉というものがあればよりいい者、いい商品を手に入れたくなるものです」


(やっぱり・・・じゃあショウも何時かは私を捨てるってことなのかな)


「ただし、そこで誤解してはいけないよ、ヤミナ。確かに大半の人はそういうものだが全員がそうじゃない」

「そうです。ショウさんの事を思い出すんです。彼が一度でもヤミナさんにきつく当たったりしたことはありますか?食事を取る事を禁じたり床で寝るのを強制したり、無理やり夜の相手を迫ったりしたことはありますか?」

「!!」


 ルークさんの言葉に私は首を横に振って応える。今まで一度だってショウは私に対して〈奴隷〉として、〈物〉として扱ったことなんてなかった。そんなのとは逆でとてもやさしくしてくれたし、何時だって我侭を聞いてくれた。


「私は今まで生きてきた中で普通の人以上に人の闇の部分を覗いてきた。なかには奴隷を物以下として扱う屑野郎もいた。だがショウは違う。彼はヤミナを一人の人として扱っている。これは普通はしたくても出来ない立派な事だ」

「そうです。現在の私たちの暮らし、奴隷がいる暮らしの中での価値観とは全く反対の事をショウさんはしています。本来なら皆がそうあるべきなんですが・・・すみません」

『なんであやまるの?』


 私は別にルークさんに謝ってもらうことなんてないのに。でもルークさんは目に涙を浮かべたままで頭を下げている。


「やめんか、ルーク。今は君の事は関係ないだろう」

「いえ、しかし・・・そう、ですね。ヤミナさん。私達はショウさんと会ってから自分たちの価値ががらりと変わりました」

「うむ。彼は誰をも見下すことなく大切にし、また自分の力を誇示する事もない。そんな人物がどうしてヤミナを捨てるなんてことをすると思うか?」

「そんなことはあり得ません。ショウさんは貴女のことをとても信頼していますし大事に思っています。それだけは忘れないでください」

『ありがとう。なんだかむねがすっきりしたみたい』


 二人の言葉を聞いて胸につかえていた物が取れたがする。そうだ、ショウは何時だって変わらなかった。私を奴隷として迎えてくれたときも主人のはずの自分と同じ立場で扱ってくれたもの。それを忘れちゃいけないんだね。


(よかった。話をして)


 安堵した私の顔を見て二人は長いため息をついた。私ってばやっぱり迷惑かけちゃったのかな?

 クレモンドさんは少しゆっくりしていくと良い、と言ってルークさんと一緒に部屋から出て行った。部屋に一人になった私は暫くの間何も考えずに天井を見上げていた。すると扉がきちんと閉まっていなかったのか隙間から小さいけれどクレモンドさんとルークさんの声が聞こえてきた。


(何を話しているんだろう)


 何となく二人は仲がいいみたいだけど何時もはどういう話をしているんだろう、とふと気になって二人の声に集中した。


「ふぅ・・・でも本当に良かった。ヤミナさんが怪我しただとかではなくてほっとしました。正直ヤミナさんの話を聞くまでは生きた心地がしませんでした」

「おいおい、彼女は今まで大変な悩み事を抱え込んでいたんだぞ」

「すみません。彼女の辛さが少しでもやわらいだ、と思うと嬉しくて・・・」

「まぁ・・・それは私も同じだが。彼女のような素晴らしい魔法の才能の持ち主はとても繊細でもある。その彼女の心を傷つけるのは断じて許さん。火あぶりの刑でも甘いくらいだ」


 二人の声には安心感と怒り(たぶんあの奴隷の人に対してだろう)が入り混じっていた。二人は暫くの間声を小さくして話をしていたけれどふとルークさんの方がすこし声を大きくして


「この話、ショウさんには伝えた方がいいんでしょうか」

「うむ。私もそれは気になっていたが・・・」


 なんだか二人の声が妙に震えている。なんでだろう。泣いている・・・訳ないよね。じゃあ、なんでだろう。


「私の考えは言うことは無い・・・いえ、言うべきではないと思うのですが」

「ほう?」

「これは非常にデリケートな問題です。私達がショウさんに話してしまうと折角ヤミナさんが立ち直ったのにまた余計な火種を作る事になりかねません。ここは彼女に任せた方がいいかと思いますが」

「ふむ、そうだな。彼女は賢い。彼女なら自分の望む結果が得られるだろう」


 二人は声は震えたままだったけど何度も納得した、大丈夫だろう、と言い合っていた。


「本音を言うと彼女からも言って欲しくはないのですが・・・」

「それを言うな。もしも彼女が聞いていたらどうするんだ」


 クレモンドさんが少しきつく言うとルークさんはすみません、と謝って長いため息をついた。


「しかしですね。彼女の事を一番思っているし好意を持っているのは他の誰でもないショウさんです。今回のように私達だけで解決できるようなら良いんですが、もしも、万が一ですよ?彼女が怪我でもして取り返しがつかなくなったら・・・」

「そこはショウの事だ、大丈夫・・・とは言えんな」

「ええ。一人で大陸最強候補の男と戦ったり、災害級の魔物を傷一つ負うことなく軽々と倒す。普段は温厚ですが彼女の事となると途端に人が変わりますからね・・・」

「今のショウの力、魔力なら一日掛からずにこの大陸から生命全てを消し去る事が出来るかもしれん」

「私達にはそうならないことを願う事しかないですね」


(え・・・うそ・・・)


 二人の会話を聞いて私は開いた口がふさがらなかった。大陸の命を消し去る?私が怪我でもしたら?そんなことしてるショウなんて普段の姿からは想像もつかなかった。

 ギルドも仕事も始めの方は討伐の依頼をこなしていたけれど、今は農家の手伝いや書類整理、それに迷子の捜索といった雑用ばっかりしていてルークたちが話しているような怖いイメージは全然沸いて来ない。


(でも・・・あの時)


 灰色の森。あたり一面が灰色で気味が悪かったあの場所で凄く強そうな大きい魔物が出た時(その魔物は言葉を話した!)ショウは武器も使わずに魔物と戦ってたっけ。思い返してみるとそういった場面は何度かあった。


(ショウってやっぱり凄いんだな)


 そう思うと自然と笑みがでてきた。もう、不安なんてものは此処の何処にもなかった。心配する事なんてこれっぽっちもなかった。

 少し休憩した後私はクレモンドさんとルークさんにお礼を言ってから店を後にした。

 心は晴れやかで足取りもなんだか今まで以上に軽かった。そのまま私の行きつけのお店に行きサンドイッチを二つ買って(何故か何時もお使いだと思われる)止まっている宿に急ぐ。これから友達のララと遊ぶんだ。何をしてあそぼうか?










---おまけ(みたいなもの)---



ショウが帰ってきた。今日の仕事は鉱山の手伝いだったみたいで体のあちこちに土埃がついていた。フウさんに呼ばれて私は読んでいた本を机に置いて主人のショウを迎えに行く。土埃を払って食堂まで手を引っ張ってゆく。ショウもお腹は減ってるかもしれないけれど私だって腹ペコなんだ。

 ショウは嫌な顔一つせずに私に手を引かれるままに食堂の席に着く。今日の夕食は私の好きなお肉だ。

 詰め込むことがないように出来るだけゆっくりと食べてゆく。ショウはお肉を食べながら今日の仕事の事を話してくれる。


「今日は鉱山の手伝いだったんだけどね。僕のほかに三人来る筈だったらしいんだけど皆ドタキャン・・・黙って休んだみたいでね。結局僕が他の三人の分まで働いたよ」

 

 全く、なんで僕一人で山の半分以上掘らなくちゃいけないんだよ。って呟いてたけど仕事はするんだね。そこもショウの良い所、なのかな?

 私のことも聞かれたけどショウには話さないことにした。だってもう終わった事だから。クレモンドさんとルークさんのお陰で私の大好きな人を嫌いにならなくて良かった。

 食事を終えて一度店から出て近くにあるお風呂屋さんで湯浴みする。寒くはないけれど動くと汗がじっとりと肌に張り付くのでお風呂はとても気持ちが良い。

 湯浴みした後はいつもなら部屋で本を読んで過ごすんだけど、今日はそんな気分じゃない。少しでも今の気持ちが本当なんだと確かめたくてショウにくっついて過ごした。ショウの方は顔を赤くしてずっと私とは反対の方を見ていた。もっとこっちを向いて欲しかったのに。


「そ、そろそろ寝ようか。明日はヤミナも一緒だし」


 そうショウは話して逃げるようにベッドへと潜り込んだ。逃がすもんですか!私もすぐに後を追いかけてベッドに入って背中に抱きつく。背中に体を預けると身体全体でショウの存在を感じる事ができて凄く幸せな気分だった。

 ショウの方はピクリとも動かない。私に気を使ってくれてるのかな?


(そうだ、あれを聞こう)


 一旦ショウの体から離れてテーブルに向かう。小さなランプの明かりを頼りに私は疑問に思っていたことをショウにぶつける事にした。もう寝る時間だけど少しくらい夜更かししても構わないよね?



 ねぇ、ショウ。聞きたいことがあるの・・・




 












『どうていってなに?』

「なっ!なな・・・なぜそれをぉぉぉぉ!?僕の最大の黒歴史がああああぁぁぁ!!」

『くろれきしって?』

「うがああああぁぁぁ!!止めてくれぇぇ!!それ以上僕の古傷を抉らないでくれぇぇ!!」


長い一日だった・・・。(真逆二話続くとは思わなかった)

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