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外伝 ヤミナの一日-1

閲覧ありがとうございます

外伝ですので基本的には本編と関係ない(はず)です。

これは、ショウが灰色の森での事件を解決してから少したってからの話。


 ・・・朝だ。木漏れ日が私の顔をやさしく照らしている。私は身を包んでいた柔らかな布団を退けて全身で朝の光を浴びる。隣で寝ていたはずのもう一人の住人にして私の主人は既にこの部屋には居ない。


 そう、私は奴隷。この部屋の主人に仕える下僕・・・だったはずなのだけれども。


(またいない。)


 部屋を見渡すと部屋の中央に置かれたテーブルの上に一枚の紙とお金が置いてある。


『ヤミナへ。僕は仕事で出かけるのでお金を置いておく。晩の鐘がなるまでには戻るから君はゆっくりしていてくれ』


 (えーと、金貨は銀貨十枚と一緒だから・・・十万ドーラ??)


 奴隷であるはずの私にくれたお金は金貨一枚。今まで生きた中で見たこともないし触った事もない価値のお金だ。でもショウはなぜかそういったお金の事にはあんまり関心がないみたい。だって奴隷の私にこんなに大金をくれるもの。

 色々と主人に対して思うことはあるけれど、とりあえずは寝るときにきているシャツを脱いで何時もの白いローブに袖を通す。このローブは私の魔法のお師匠さんが私の為に用意してくれたもので私のお気に入り。主人のショウはもっと別の服も着たらどう?って言ってくれるけど、私は別に服なんて幾つも要らない。

 そもそも奴隷に対して接し方が普通の人とは違う。私がこの町の貧民街で暮らしているときに見た奴隷達は誰も死んだような目をしているか、復讐に燃えているかで、服装もこんな凄く立派な服じゃなくてぼろぼろの布着れを纏っていた(それでも貧民の私よりはぜんぜんましだったと思う)

 お金だって奴隷が死ぬ気で働いてもほんの少し、スープ一杯分のお金しかくれない。と私は聞いていたのでショウの奴隷になる時は私もそうなるんだ、でも最低限の生活が出来るだけましかなと半ばあきらめていたところもあった。

 でも蓋を開けてみれば、安い宿(ショウ談)とはいえ最上階に住んで、毎日美味しいものを食べて(それも椅子に座って!)、夜もふかふかのベッドで眠る事が出来る。以前の私なら想像も出来ない暮らしを今はしている。


(・・・よし、ご飯を食べよう)


 あまりこういったことはなんだか私だけズルしているみたいな気持ちになるので考えたくない。ので私はいそいそと着替えを済まして下に下りることにした。


 食堂には何時ものより少し遅い時間に来たので人はまばらだった。空いている席に座るとすぐにこの店の人(髪の毛がない人の娘さんでララって名前。私の親友、いつも長い髪を三つ編みにしている)


「ヤミナー。今日は遅かったね。もうショウさんは出かけたみたいだよ」

『ゆうべはおそくまでほんをよんでたから』


 私はララに紙を渡す。なぜだか分からないけれど私は言葉が話せない。気がついたときから話せなかった。ショウは何とか私が話を出来ないかといろいろと探しているみたいだけれども今はそんなに話せる様になりたいとは思わない。

 前は私は話せないのでいろいろと苦労したけれど今はショウの買ってくれたペンと紙がある。これさえあれば困る事は殆どない。


「ほっほう。夕べはおたのしみだったと?いいねぇ、うらやましいねぇ」

『ちがう!そんなんじゃない!』


 まったく!ショウはそんな人じゃないのに!私が怒っていると見たのかララはすぐにごめん、とあやまってくれた。私より年下のララはちょっとからかってくる時もあるけれど凄くやさしくて明るくて、気がきく。

 奴隷、特に女性の奴隷は慰みものにされるって話を聞いたことがあったから私も初めは凄く心配だった。だけどもショウは無理やり私を襲うようなことはせずに、逆に私のことをとても大切にしてくれている。私は初めは凄く驚いた。これも彼のやり方なんじゃないかと、気を抜いたところで襲ってくるのじゃないかって。でも彼はそんな事は全然しなかった。

 凄く嬉しかったけど、ますますショウのことが分からなくなっていった。普通は何でもできる奴隷を手に入れたら皆偉ぶったり無理やり言う事を聞かせるものだと思ったのに。


 ララはすぐに朝食を持ってくるって言って厨房の方へと駈けていった。ララは明るいから近所の子ども達にも人気だ。私も年は上なのにララと一緒にいるとなぜだか甘えたくなるときがある。・・・私がおねえさんなのに。


 少しして朝食を持ってきたのはララのお母さんのフウさんだった。小柄で赤い髪が特徴のやさしい人だ。私のこともとても可愛がってくれる。


「あらあら、ヤミナちゃん今日は遅いわね・・・ひょっとしてゆうべはお楽しみだった?」


 私はすぐさま先程書いた紙をフウさんに突きつける。フウさんは「冗談よ、冗談。ショウさんはヤミナちゃんにそんなことするはずないしね」とにこにこ笑っていた。フウさんとララは似たもの同士なのかもしれない。そんなことを思いながら朝食を口に運ぶ。そういえばこの前ショウとフウさんが話していたけれど、ショウはあわてた様子で「ど、どどどうていちゃうわ!」って言ってた。


(なんであんなに慌ててたんだろう。・・・帰ってきたら聞いてみよう)


そんなショウの事を思い出しながらすこし遅い朝食のパンとスープを口に運ぶ。いつも詰め込んじゃう癖があるからゆっくりと食事を味わって食べる。どちらもとても美味しかった。私はフウさんに食事代を払ってララと遊ぶ約束をしてから宿屋を後にした。


(どこに行こうかな・・・)


 特にどこかに行く用事もないのでぶらぶらと街中を歩く。道中店の前に飾ってあるキラキラ光る洋服やいろんなアクセサリーを見て行く。そういえばこういうのをショウは「ういんどうしょっぴんぐ」って話してた。

 途中で見つけたお店でおいしそうなフルーツの盛り合わせを買って食べる。買うときに店の人がフルーツをおまけしてくれた。

 ういんどうしょっぴんぐをしているといつの間にか中央区を抜けて北の行政区にまで来ていた。


(ここは・・・ショウとあった場所だ)


 あの日、私は食べるものもなくて、助けてくれる人なんていなくて、ただ当てもなく町を彷徨っていた。そして貴族らしい男の人とぶつかって、向こうが怒って剣を抜いて。 

 死んでもいいと思った。ただただ生きているだけなんて飢えよりも、差別よりも私にとっては耐え難い苦痛だった。

 そんな時、ショウは助けてくれた。私とは何も関係ないはずなのに。私は差別される身分なのに、そんなこと無視して彼は私を救ってくれた。

 

(でもいきなり好き、だなんて・・・)


 思い出すとなんだか恥ずかしい。頬の辺りがすこし暑くなってくる。ショウは私と初めて会ったときの事はあんまり思い出したくないみたい。「あれは僕のくろれきしだー!」って叫んでたし。


(くろれきしってなんだろう?このことも後で聞こう)


 あの後冒険者に登録して初めての相手がすごく強い魔物(たしかリヴァイアサンっていってたっけ?)と戦って・・・。


(そういえばなんでショウは私が魔法使えるってわかったんだろう?)


 気にはなるけれどあんまり聞くとショウも困るだろうし。でもショウは私のことをあんまり聞いてこない。私が話せないのはどうして?だとか、貧民時代の事とか。興味がないんだろうか。

 そんな事を思いながら歩いていると目の端にとある人を捕らえた。奴隷だった。奴隷かどうかは体のどこかに刻まれた文様で見分けがつく。私の見た奴隷は手の甲に花の文様が刻まれていた。因みに私は首に月(ショウは三日月だって言ってた)の文様が刻まれている。

 その奴隷は女の人で首には鎖が繋がれていた。服も継ぎはぎだらけの服で痩せて歩くのが精一杯の様子路地裏の壁にもたれ掛っていた。近づいて手に持っていたフルーツを差し出す。女の人は私と差し出したフルーツを交互に見て舌打ちをした。


「私にそれを施そうってのかい?ちっ、どうせいい所のお嬢さんか何かが人気取りの為にやってんだろ」

「!!」


 私は必死に首を振る。私はいい所のお嬢さんでも何でもない。ただ、目の前で困っている人がいたから助けたくてしたのに・・・

 女の人は私の首にある奴隷の文様を見つけるとニヤリと笑い、


「あのね、ひとついいことを教えてあげる。あんたは今はいいご身分みたいだけど所詮奴隷って言うのは使い捨ての消耗品なのよ。使って壊れたら捨てられる。飽きても捨てられる、そういうもんなのよ。例外はないわ。私がそうだったから・・・主人のお気に入りだった私の地位はすぐに新しく入ってきた奴隷に取られたわ。あんたも気を付けなさいよね」

『わたしのしゅじんはそんなことしない』


 気がついたら私は紙にそう書いて女の人に突き出していた。走り書きで書いた文字を読み終えると彼女は声を上げて笑った。


「そんなことしない、ですって?よくもそう言い切れるものね!よほどあんたは主人のことを信頼してるのね。でもそれも一時だけよ。その様子じゃあんたは主人と寝た事なんてないでしょ?だったらすぐにその男は別の奴隷が欲しくなるわ。あんたより従順で、綺麗で、夜の相手をしてくれるような奴隷をね」

『ちがう。そんなこと』

「違うね。あんたの思ってることは全部幻想だよ、まやかしだ。人間ってのはそういうものさ。選り好みして、選んでも結局はすぐに目移りして捨てちまう・・・あんたも捨てられちまうかもね、キヒヒヒ・・・」


 彼女は私の手からフルーツを奪うようにして取り口に詰め込んで無我夢中で食べはじめた。暫く呆然としていた私はその人に一切目を向けずに振り返り足早に、そしてすぐに駆ける様にしてその場を離れた。通りを駆け抜けながら忘れようとしても私の頭の中を支配していたのはさっきの彼女の言葉だった。


(嘘。ショウはそんな事しない!何時だって私のことを心配してくれた!私を捨てるなんて!)

『あんたの思ってることは全部幻想だよ、まやかしだ』


 頭の中で彼女の言葉が繰り返される。私を助けたのも女の人が言ってたように体が目的だったの?違う、ショウはそんな事を望んでいない。仲間だって言ってくれたもの。

 頭の中でいくら否定しても心の中に不安が残る。それを紛らわすためにひたすら何も考えずに走り続けた。走り続けて気がつくと一軒の店の前に来ていた。


(お師匠さん・・・なら何とかしてくれるかも)


 今は誰とも会いたくない気分だったけれど、こんな気持ちじゃいけないと心が警鐘を鳴らしている。暫く店の前で自問自答してから私は心を決めて店に入った。

 

 


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