第一章 二十五話
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「ほう、これが祭りと言うものか!なかなか賑やかな催し物じゃのう!」
『みせがたくさん』
「ああ・・・賑やか過ぎて頭が痛くなるけど」
ハンニベルから開放された後、僕達は再び中央通にやってきて軒を連ねている店をみて回っていた。だけど黒いコートを着ている僕と白いローブを着用しているヤミナ・ベルマン。そして元の世界で言うところの太極拳をしている人達が来ていそうな背中の意匠がやけに凝っている服をきている龍(正式には神龍という独立した種族らしい。僕には良く分からないけれども)のジン・ハッサドの奇妙奇天烈な服装の三人が物珍しそうにあたりをきょろきょろと見回していれば必然とよからぬことに巻き込まれるだろうと言う事くらいは用意に予想できたはずなのに。
「ちょいとお客さん」
「ん?」
「私の商品をみては行かんかね?どれもこれも一級品ばかり。お客さんの心を満足させるものばかりですよ」
僕達を呼び止めたのはベレー帽のような帽子を被ったなんだかガマガエルに似ている顔の男だった。ガマガエルは横に広い顔一杯に笑顔を貼り付けながらへこへことこちらに近づいてきた。うわぁ、露骨に怪しさがにじみ出てる感じなんですが。
「ほう、おぬしはどのような物を売っておるのだ?あそこにあるような宝石か?それとも向こうにあるような精密な人型の作り物か?」
「へへ・・・野暮な事言わないでくださいよ、お客さん。私が扱っている商品はそんじゃそこらの物とは訳が違いますよ。それこそ隣町の領主様にだって気に入られるような物ばかりです」
「ふむ・・・つまりはそれほどお主は自分の商品に自信がある、と言う事じゃな?」
「それは勿論!さぁさぁ、お客さん。ここいらで話をするのもなんですからこちらにきてくだせぇ」
そういうとガマガエルは笑みを貼り付けたまま僕達を路地裏の方へと案内しようとする。あー。これは、あれだ。完全に僕達を騙そうとしているな。だけどそれに気がついていない様子のジンは目をキラキラさせながら嬉々として男の後を付いて行こうとする。
「お、おい!ジン、これは怪しくないか?」
「何を言っておる、お主、こやつの言葉を聞いていなかったのか?」
「そりゃ、聞いてたけれどもさ」
「ならば何も問題ない。そうじゃろ?安心せい。わしを誰だと思うておる?」
あなたの心配はしていないのだけれども。むしろ裏路地に入っていこうとするガマガエルのほうを心配するよ。僕が答えられないでいるとジンは肯定と受け取ったのか意気揚々と奥のほうへと向かっていった。そして数十秒後、路地の奥のほうから断末魔の叫び声が響いて来た。
「あーあ、だから言ったのに」
『しょうがない。じごうじとく』
そう書いてガマガエルの安否を形だけでも気遣うヤミナとともにジンが帰ってくるのを待つ。
予想通りにジンは怒った様子で路地から出てきた。
「なんじゃ、何もないではないか!それにちっとも美しくない男共に囲まれるわ、いいこと無しじゃな」
「ジン、さっきの人達は・・・?」
「ん?安心せい。わしはお主たち人とは違って無駄に命を奪ったりはせん」
路地裏で散っていった哀れな男達は置いておいて、僕達は再び喧騒の中へと入っていく。さまざまな露店が軒を連ねて色々な珍しいものからガラクタまで売っているのをみているとあっという間に昼の鐘が鳴り響いた。
「もうこんな時間か。なんだかあっという間だったな」
「うむ。人の作る町と言うものは何処を見ても面白いものばかりじゃな」
『おひる。おなかすいた』
三人で何を食べようか迷っていたそのとき、通りの奥のほうから甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。みるとそこには人だかりが出来ており、その中心で野蛮そうな男がサーベルを持ち、一人の女性の首筋に突きつけていた。
「てめぇら!今から俺の言う事を聞かなければこの女を殺す!聞いても殺す!ギャハハハ」
「ひ、非道い・・・」
「何だかやばそうだぞ」
「あいつって確か〈西の風〉の幹部じゃないのか?」
近づいていってみるとなにやら野次馬があれこれと話をしていた。〈西の風〉?なんだそれは。野次馬の中の一人に聞いてみることにした。
「〈西の風〉ってなんですか?」
「知らないのか?ストラング帝国を主に活動拠点にしている旅団だよ。頭首がかなりの切れ者でね、統制の取れた旅団として有名なんだ」
「の割にはあの人は随分と錯乱しているようですけれども」
「ああ、普通だったらあいつらの掟でこんな事は起こさないらしいんだけども。それに人質までとってる。俺には見守る事しか出来ないのかな」
なるほど、どうやらあの男はどうやら正気じゃないらしい。それに女性が危機に晒されている!ここで助けなくて何処が男か!僕は腰につるしてある刀に手を伸ばして一歩踏み出した。
「別に助けなくても良かろうに。あの娘が捕まったのは自業自得のようなものじゃのに」
「・・・そうなんだろうけども、僕は彼女を助けたいんだ」
「つくづく変わっておるな、人間と言うのは」
ジンの言葉を褒め言葉と受け取って僕は人ごみを掻き分けてゆく。ヤミナはジンと一緒にいるように伝えている。何かあってもジンならば大抵の事は軽く片付けてしまうだろうし安心だ。
人ごみを抜けてサーベルを持った男の目の前に立つ。
「さっさとその女の人を離すんだ、野蛮人」
「あぁ?!てめぇ、俺が誰だか知ってほざいてんのか」
「知らない。だけど人質なんて卑怯な手を使う野蛮人なら知っているけど」
僕の挑発の言葉にサーベルを持った男はゴリラのような顔を真っ赤にしていた。こめかみには青筋が浮き出ている。
あれ?これって挑発しちゃいけなかったっけ?前の世界では不良やその筋の人達とやりあうのはあったけれど人質を助けた事なんてなかったからなぁ。ま、いいか。ちゃっちゃと片をつけ・・・
(まてよ。今は確かこの国の偉い人をもてなす祭りの真っ最中だよな。これで僕が軽々倒してしまったら・・・)
たぶん一時的にだろうけで僕は英雄-ヒーローとして扱われるかもしれない。そしてそれがこの国の偉い人の耳にでも入ったなら。
(間違いなくややこしい事になる!それだけは避けなくてはっ!ここは対話での解決を)
「すまない。僕が悪かった。まずは互いに話をしようじゃないか、ほら、武器だって捨てるから」
腰の刀を抜いて地面に投げる。まずはこちらから歩み寄る事が大事だ、と以前何かの本で読んだような記憶がある。
そんな僕の姿を見たのかゴリラはふっと見下すように笑い、
「いいぜ。てめぇがレイデンを持ってこれるならこの女を離してやってもいいぜ」
「レイデン・・・?」
レイデン?何の事だ?何かの武器か何かの名前なのか?訳が分からないよ。
僕が呆然としているとゴリラは再び青筋を浮かべながら
「レイデンっつたら分かるだろ?!あれがあれば俺は・・・団長なんて敵じゃねえんだ。あの透き通るような色、力が漲る・・・さっさと寄越せ!俺の・・・俺だけのっ!」
「分かった!分かったから落ち着け!」
「こ、これがお、落ち着いていられるか!早くしないとアイツが・・・ッ!アイツが尋ねてくる!黒い鎌を持って!にたりとした笑みが俺を睨む・・・ッ!」
「くそっ!」
レイデン、その名を口にしてから男はどんどん様子がおかしくなってゆく。口角から泡を吐いて目は白目を向いている。手元もがくがく震えていて何時女性ののどを切ってしまうのか分からない。
後の事なんてどうにでもなれ、僕はそう頭の中で呟きながら地面を強く蹴った。地面が抉れてジェット機のような音を立てて男の懐に飛び込む。そのままサーベルを掴んで圧し折って後方に投げ捨てる。そのまま流れるように男の顎目掛けて掌を叩き込む。
「ぐへぇ!」
男は素っ頓狂な声を上げて後ろに吹き飛んだ。その隙に女性の手をとり男から出来るだけ放して近くにいた冒険者らしき人に保護を頼む。女性は震えてはいたものの見た限り怪我はしていないようだった。
「さて、大人しく騎士団の詰め所に来て・・・」
振り返った瞬間僕は驚きの光景を目にした。いつの間にか男は立ち上がっていた。いや、ただ立ち上がったのならそれほど驚くべきこともない。それほど力を込めたわけじゃないからある程度の腕の者なら当然立ち上がるだろうと思っていた。だけど目の前の男は様子が違っていた。
立ち上がってはいるものの首があらぬ方向へと捻じ曲がっている。目は血走っており眼球がぐるぐるとせわしなく動き回っている。男はそれでも見えているかのようにどんどん僕の方へと近づいてくる。
「寄越せ・・・黒い笑みを浮かべた鎌が襲ってくる前に、その甘い光を寄越せ・・・!」
「ぼさっとするでない!」
男が僕に襲いかかろうとした瞬間、横から鋭い蹴りが男の体に直撃して男を吹き飛ばした。みるとジンがいつの間にか人ごみを掻き分けて僕の傍まで来ていた。
「ジン!」
「全く、何を手間取っているのかと思えば・・・こんな雑魚相手とは」
「いや、何か様子が変なんだ、まるで何かに乗っ取られているかのようだ!」
少しの会話の間にも既に男は立ち上がりなにやらぶつぶつと呟いていた。その雰囲気に気がついたのか周りを取り囲んでいた野次馬は逃げるように散っていく。
「!あの呪文は・・・!いかん、早く止めるぞ」
「あ、ああ!」
二人同時に飛び出し男目掛けて手刀と蹴りを繰り出す。かなり本気で出したので一瞬で命を刈り取るような攻撃だったのだが何故か男のほうは平気そうな顔をして受け止めていた。いや、平気そうなのは顔だけで顔と胴体、下半身は別々になっていた。
「なっ!?」
「遅かったか・・・!」
体がバラバラになっても男はニヤニヤと笑みを浮かべながら呟くのを止めなかった。そして男が呟くたびにバラバラになったはずの男の体は動き、修復していく。
こいつは一体何なんだ!スキル〈鑑定〉を使い分析をする。
名前 #2キヴェ%
状態 ¥ネ?ヅ+
称号 半魔人(魔力強化〈大〉)
スキル 魔法Ⅲ(闇 火) 魔力再生Ⅳ 魔力吸収Ⅳ 命狩りの鎌
「再生スキルを持ってるぞ?!それに半魔人って」
「やはりか・・・先程男が呟いていたのは魔界の呪文の一種じゃ。あれを唱えると絶大な力と引き換えに闇の住人になってしまうものじゃ!」
「どうしてそんな呪文を!」
「分からん!じゃが今は奴を倒すことに集中するぞ!」
落としていた刀を拾い抜刀する。刀は何時もの長さに戻して臨戦態勢をとる。ジンも四肢に神龍の力を宿して敵に備える。一方の男、もとい闇の住人は完全に体もくっつき調子を確かめるようにその場で軽くジャンプをしていた。顔は変わらずにニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべていたけど手にはいつの間にか黒い鎌が握られていた。
「あれは・・・命狩りの鎌か。さっきまではあんなもの持っていなかったぞ」
「魔法でも使ったのじゃろう。気を付けろよ、いくらお主とてあの鎌に当たると無傷ではすまん」
「分かった」
闇の住人が襲い掛かるってくるのを確認して左右に分かれる。右側から僕が、左側からジンが攻撃を行なう。
「食らえッ斬光!」
「月琴!」
光をも切り裂く一撃と強烈な回し蹴りが炸裂する。だけども闇の住人は姿を霧に変えていとも容易く僕たちの攻撃を避けてみせる。
「霧か!また厄介な!」
苦々しくジンが呟く。確かにあれじゃいくら僕たちの攻撃が強くても意味が無い。無意味な空振りだ。
「 !!」
突然後方から炎の弾が飛んできた。振り返るとそこには杖を構えたヤミナがいた。瞳は強い意思が宿っているようでしっかりと闇の住人の方を捉えている。
「ヤミナ・・・よし!サポートは任せたぞ!」
強く頷いて答えるヤミナ。ヤミナのサポートを受けて再び攻勢に出る。僕達が攻撃しても霧になって逃げようとする。そこをヤミナの魔法が着実にダメージを与えてゆく。何度か攻撃するうちに闇の住人の方から霧になるのを止めて鎌を振りかざし攻撃をしてきた。鎌は闇を纏い、空気を切り裂き襲い掛かってくる。
「この時を待ってた!立待月!」
「ぬぅん!」
敵の攻撃に合わせてのカウンター攻撃で両手を切り落とす。その身が再生する前にジンの神龍の力を宿した拳が胸を貫く。最後にヤミナの雷が身を焦がす。闇の住人は最後までニヤニヤと笑いながら消滅していった。消えた後には小さな水晶のような物が数個地面に転がっているだけだった。
今回から少し技を使うときの台詞を変えてみました。
何だかこれの方が戦ってる!って感じがする(当社比)




