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第一章 二十二話

閲覧ありがとうございます。

「ただいま戻りましたー」


 宿屋「小鳥の囁き」。この三階に僕とヤミナは宿を取っている、結構長い間。いっそのこと家を借りようかどうか悩んだときもあるけれどずっとこの町にいるわけでもないと思い、取り敢えずは宿屋生活をしている。ここは料金も安くおまけに食事も美味しい。僕もヤミナも気に入っている。


「おう!坊主帰ってきたか!どうだった?畑の方は」

「慣れない仕事ですから大変でした」

「わっはっは!いい経験じゃねえか。どれ、ちょっと待ってろ、美味いもん作ってやる。お嬢ちゃんと一緒に食堂にきな」

「ありがとうございます」


 ここの店主バーン・クレイズ(筋骨隆々、髪が重力無視して上にそびえ立っている)にお礼を言って階段を上る。

 三階の最上級の部屋、といっても他の部屋と比べてベッドが大きくなり調度品が少し増えただけの部屋だがこの素朴な感じが気に入っている。部屋にはいるとまず目に飛び込んできたのは床に散らばった洋服。白いローブからズボン、それにローブの下に着る薄いシャツまで脱ぎ捨ててある。そして部屋の中央にある大きめの丸テーブルには読みかだろうと思われる本が高く積まれていた。


「・・・はぁ、またか」


 僕のパートナーのヤミナは普段は礼儀正しく振舞うのだが疲れたときなんかはこうやって服を脱ぎっぱなしにしたりと子どもじみた行動が見られる。まあ、まだ子どもだけれども。

 そして疲れたときはその場で寝てしまうかベッドの中にもぐりこんでいる。床で寝るのは彼女の奴隷としての感覚なのだろうが僕から見るとベッドと床寝るのは半々の確立なので本当にそうなのかと疑ってしまいたくもなる。

 床に散らばった洋服を回収して備え付けのロッカーに吊るす。机の上の本はスキル〈無限収納〉で仕舞う。そして部屋の奥、大人三人が寝てもまだ余裕のある大きなベッドの真ん中にあるふくらみに近づく。


「おーい、ヤミナ。そろそろ起きないと僕一人でご飯食べるぞ?」


 布団をはぐってみるとそこには寝るときの薄いゆったりしたリネンのシャツに身を包んだ長い黒髪の少女が気持ち良さそうに眠っていた。長いまつげがふるふると揺れて、小さな口からは甘い吐息が。それにあわせてけっして控えめではない胸のふくらみが上下している。暑いのか額にうっすらと汗が見られる。


「わざわざ布団を被らなくても・・・」


 だが彼女は一人で寝るときは心配なのかかならず布団や毛布に包まらないと寝られない性質らしい。これは彼女の生い立ちに関係する事なんだろうから特に深追いはしないけれどこの暑い日にそれをやられるとこっちも心配になってくる。

 一通りヤミナを観察し終えたところで彼女を起こすために額をつつく。一瞬からだがびくっと反応して目が開かれる。

 アーモンドのような瞳が僕の姿を捉える。そのまま数秒間を挟んでヤミナは体操選手もびっくりな動きで跳躍してベッドから緊急脱出する。周りの状況を確かめたあと手元にあった紙に何やら書いて僕の方に見せる。


『なにしてるんですか!』


 文字は書きなぐったような感じで若干の怒りも混じっている。見ると彼女の頬も紅が差していた。


『びっくりしました』

「ごめん。あまりに気持ち良さそうに寝てたから、つい・・・それより、バーンさんが呼んでるぞ?食事を作ってくれるらしいんだけど・・・」

『おなかすきました』


 なんとも欲望に忠実な僕のパートナーである。


僕のパートナーであるヤミナは言葉を発する事が出来ない。スキルを使ってみてものろいとかそういった類のものは見つからなかった。生まれつきなのかもしれない。でもその分体をつかった感情表現は凄く豊かだ。失礼な話ではあるんだけれども小さな彼女が一生懸命体を動かして会話する姿は見ていて微笑ましい。そんな彼女だが文字は分かる、とのことで早速紙とペンを買ってきて彼女にあげた。すると彼女も顔を赤らめながらも受け取ってくれた。それ以降会話は基本的には筆談で行なっている。

 簡単な会話であれば事前に用意したカードに会話する事を書いてあるのでそれを示すだけで会話が成立するように工夫している。


『おいしい』


 食堂でこうして食事しているときも彼女は手元のカードを机の上において感想を述べていた。あいも変わらず口いっぱいに頬張っているけれどこうして文字での表現も彼女は凄く楽しそうに行なっているように感じる。

 因みにどうしてそんなに文字が書けるのかと依然聞いたところ、


『道端に落ちた紙を見て覚えた』


 とのこと。なんだかんだいっても彼女も元貧民。この国での最下層だったのだ、さぞ暮らしも大変だったのだろう。


「・・・そう思うけれど、やっぱり食事のマナーはきちんとしなくちゃね」

「    !!」


 その言葉を聞いてヤミナは書くのも忘れて口に詰め込んでいるものを急いで飲み込み先程とは打って変わりゆっくりと食事をしだした。 

 やっぱり昔の癖なのかお腹が空いてるときは女の子らしくない食べ方になってしまうな。かなり治まってきたみたいだけれど。

 そんなこんなで食事も終わり時刻はまだ昼過ぎた頃。

 

「おう、ショウは居るのであるかっ!」

「いますけど・・・どうしました?ヴァンさん」


 僕を訪ねてきたのはこの町のギルドマスターヴァン・フォルト。身長は二メートルほどの大きな人でちょんまげと特徴的な話し方が印象的だ。あと怖いもの嫌いだな。

 そんなヴァンは僕達が座っているテーブルに来ると椅子を引きどかっと腰掛けた。腕を組んで何やら考え事をしているようだ。


「あの・・・何か困った事でも?」

「うむ・・・・・・」


 僕が聞いても彼は黙ったままだ。ヴァンは僕がどれだけ規格外の強さを持っているのかを良く知っている。そして僕があまり政治的な戦略や有名になってちやほやされるのが嫌いだという事も理解してくれる数少ない一人でありそのために色々と手を回してくれている。こうみえて結構やるのだ。そのお陰で今のところ何かと無理難題を押しかけられる事もないし、この町の実質的な支配者であるネル・ゴード公爵にも目を付けられていない。

 そんな彼が直接僕を訪ねてきたということはなにかしらある、という事なのだろう。その証拠にヴァンは腕を組みうんうん唸っている。よっぽど悩んでいるのだろう。僕も彼には助けられているしここは一つ話を聞いてみよう。もしかしたら意外と簡単に済む話かもしれないし。


「実はな・・・ここから北に行ったところに小さな村「ヨーク村」があるのであるが、そこに奇妙な男が現れた、と報告を受けたのである」

「奇妙な男、ですか?」

「男はなぜか村人が放った弓矢を胸に受けても何事も無かったそうだ。そして男は村一番の力自慢をあっという間にねじ伏せて自分が村を支配した、と言ったそうなのである」

「それはまた・・・」


 何処からか現れたものすごい力をもった人物、か。僕がこっちの世界に来たときとおんなじ状況っぽいな。もしかしたら本当に同じ境遇の人なのかもしれない。だが力で支配するとは感心しないな。村人達も心配だし。


「村人に関しては心配いらないとのことなのである。男は支配する、と言ったものの特に村に何かをするわけでもなく座って一日を過ごしているとのことなのであるッ」

「ふーむ、確かにそれは奇妙ですね。そんな支配欲がありそうな男なら普通は何かしら行動するはずなんですけども」

「そこでっ!ショウにはその男の元に向かいどういう人物なのかを見極めてもらいたいのであるっ!」


 そういうとヴァンは僕に向かって頭を下げた。ま、見極めるか・・・ん?と言う事はもしかして。


「あの・・・見極めるということは・・・戦闘もありえる、と?」

「そうなのであるッ!」


 やっぱりかー。まあ、僕が頼まれるのってほぼ戦闘が絡んでくるって思ってたし。負けるつもりは無いけれどもこの前受けた〈灰色の森〉の調査のときもろくな事がなかったからな。


『受けたらだめ』


 ヤミナの方はそんな文字を書いて僕の前に突き出してくる。ほっぺを膨らまして怒っている。前の時みたいになる事を心配してくれるのだろう。とれも嬉しい事だ。


「あの・・・因みに他のギルドの皆さんは?」

「生憎と来月に控えている国家主席来訪の準備の為に殆どが依頼を受けておりこちらまで手が回せないのである」

「そ、そうですか・・・」


 国家主席来訪。一年に一度このブレイズ共和国の一番の権力者が地方を回り政治がきちんと行なわれているのかを視察するらしい。地方を預かる貴族達にとっては自分の力を実際に見てもらう良い機会、商人や生産者にとっても町が活気つき物が売れるいい時期になっているとのこと。

 騎士団は主席が魔物に襲われない様に街道付近の魔物掃討、町の整備を急ぐためとても忙しい。とてもじゃないが人手が足りないので冒険者ギルドにも応援を要請する。ギルドも依頼が増え、臨時収入があり嬉しい、とのこと。

 逆に主席歓迎のことに忙しくなるため普段の警備や薬草確保の依頼などが怠ってしまう、といった事態もあるみたいだ。

 くそ、なんでそんな事を知っていながら僕もその波に乗らなかったのだろう。僕も畑仕事や薬草採取だけでなく街道の安全確保等の依頼を受けていたのならばこういった面倒ご・・・いや、なんでも無い。これは回るべくして回ってきた僕にぴったりの依頼なのだろう。むしろ僕にしか出来ない依頼なのだろう。そう自分に言い聞かせて僕はヴァンに答えた。


「分かりました。僕がその依頼を受けます」

「おお!受けてくれるのであるか!さすがはショウなのであるッ!」

『どうして!?』


 喜ぶヴァンと吃驚しているヤミナ。ヤミナの頭に手を乗せてわしゃわしゃする。いつもやっているのより長くした所為なのかヤミナは頬を赤く染めてそっぽを向いてしまった。むう。


「では早速準備を・・・」

「話は聞かせてもらったぞぉぉ!!少年!!」


 なんだ!?突然聞こえてきた声のほうを向くとそこには銀色の甲冑に身を包んだ口ひげが印象的なおじさんだった。

 持っている盾にはこの国の騎士団のシンボルである太陽と不死鳥の絵が描かれている。おじさんは僕達のテーブルの前に来ると大きな青い目で僕とヤミナをじろり、と確認するように見ていた。なんだか怖いな。やがて満足したのかうんうんと二度頷いて椅子にどかっと腰を下ろした。


『だれですか、あなた』


 ヤミナの無言のカード攻撃だ!あれをされるとその場の流れの主導権はヤミナに握られる!・・・わけでもなく単に早く書こうとしてこうなってるだけなんだけれども。

 おじさんはそれを見て、


「おおう、言うのを忘れていたな!俺の名前はハンニベル・エイジ!この町の騎士団の団長だ!」


 にっこりと素晴らしい笑顔を見せてくれた。手入れされた白い歯がきらん、と光っているッ!なんだ、このおじさん・・・失礼。このイケメンちょび髭のハンニベルという奴は!なんだかかっこいいぞ!


「早速だがその任務、俺も同行しよう!なに、心配する事は何も無い、俺に任せておけば万事解決だ!」

「・・・へ?」

「     」

「なんと・・・」


 突然の騎士団長の発言にその場にいた全員が言葉を失っていた。そして僕は確信していた。これは絶対になにかひと悶着あると。とても嫌な予感がしたのだった。


新しいキャラですね。

ハンニベル・エイジさん。爽やか系おっさんです。

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