第一章 二十話
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ブレイズ共和国の南に位置する周囲が高く白い壁で囲まれた町「コルキ」はただいまお祭り騒ぎ真っ最中だ。どうやらこの騒ぎは二日前から起こっていたらしい。
二日前というと丁度僕が何だか変な黒い塊から出てきたこれまた変な巨大な一つ目をボコボコに打ちのめした日でもある。倒したは良いものの、その後が大変だった。
この事件の首謀者の一人と思われるフードの男をたたき起こして大雑把に事情を聞きだしているといつの間にか召喚の儀式の衝撃で吹っ飛んだ館がなぜか復活してるし、(中には入らなかった。あれ自体も何か魔法的なものなのだろう)その中からは大量の魔物が飛び出してくるし。フードの男が騒ぐから次から次へと魔物がきて倒すのにも時間掛かったし。結局その日は前に寝た大きな木のところへいって休んだ。次の日はなんどか魔物の群れに逢ったものの無事撃退して森を脱出する事が出来た。それにしてもフードの男は事あるごとに五月蝿かった。なんだ、飯がマズイって。あなたはそれでも囚われの身なんですよ。お、なんだかこういうと悲劇のヒロインもしくは可愛そうな被害者っぽく聞こえるけど実際は全然そんな事ないしね。逆に加害者だし。
もちろん男には正義の鉄拳というか正義のカツ丼を食らわせて自分の立場というものをしっかり分かっていただいた。
灰色の森の異変については話を聞くとどうやらこいつらの所為らしかった。あの館で変な実験を繰り返したからいたから森全体にある魔力の量がおかしくなってしまったらしい、とヤミナも意見を述べてくれた。
意外とあっさりと森の異変の原因が分かってよかった。ま、これでもう異変も起こらないだろう。早く帰ってベッドでゆっくりと休みたい。
「はぁー!やっとでた!出れた!久しぶりの森の外だーっ!・・・真っ暗だけども」
「 」
「いや、慰めなくてもだいじょうぶ。むしろそれだけで十分だよ。ありがとう、ヤミナ」
「で、出られたのか・・・俺は。助かったのか?!」
そういえばこの男はどうしよう。町にある騎士団とやらに突き出すか。うん、それがいい。
夜なので騎士団も居るかどうか分からなかったし、この男のことで色々質問されても分からない、ややこしくなるといけないのでロープを使い全身ぐるぐる巻きにして騎士団の詰め所の前に置いて来た。変な目で見られるけど死にはしないだろう。
無事に首謀者らしき人物を見つけられた事だし、今回の仕事もばっちりだな。ギルドへの報告はまた日が昇ってからでもいいだろう。とりあえずまずはゆっくり休みたい、そんな事を考えながら僕とヤミナは足を東の方へと向ける。バーンの事だ、部屋はそのままにしてくれているだろう。ああ、あのふかふかのベッドが懐かしい。前の世界とはまた違った心地よさがある。
東区の宿屋「小鳥の囁き」に行くまでには幾つもの酒場があり、丁度小腹が空いたのでちょっとよっていこうかと思ったんだけどもなぜか僕達が通ったときにはその全ての店が満席だった。しかもそれだけには収まらず店の外、通りの方にも椅子と机を出して宴会をしてるではありませんか!?
「な、何だぁ~?一体どうなってるんだ?」
「 ??」
ヤミナも首を傾げている。彼女でもこんな光景を見たことは無いようだ。右を見れば背中に白い翼の生えた人とエプロンをつけた主婦らしき人が杯を酌み交わしており、左を見れば既に酔いつぶれたおっさんが陽気に歌を歌っているじゃあありませんか。
「何かの祭り・・・なのか?でも出かける前はそんな雰囲気はまったく無かったんだけれど・・・兎に角話を聞いてみよう」
とりあえず近くにあった酒場に足を踏み入れる。
中は予想どうりというか満員御礼だった。字の如く足の踏み場もないほどごった返している。カウンター席に近づきマスターらしき人に尋ねる。
「あの~、この騒ぎは一体…」
「ああ、これ?それが俺も詳しくは知らないんだけどもさ、この町を瓦礫に変えてしまうようなとてつもなく強い魔物を誰だか知らんが倒したんだとよ!」
「俺が聞いたのは騎士団の若いやつららしいぜ!」
「いや、私が耳にしたのは壮年の魔法使いだって話だよ!」
酒場のあちこちから騎士団だの魔法使いだのいろいろな声が飛び交う。どの声も共通して喜びと感謝が混じった声だった。うむ、あの一つ目の巨人はそんなに大変な奴だったのか。話を聞くにこの町を守っていたのは話に出てくる騎士団と魔法使い・・・僕の記憶の中ではクレモンドさんしか居ないのだけれど、彼らが町を守ってくれたのだろう。
感謝しなければ。いくら僕があいつを倒したからといって町に被害が出ればそれじゃあ何にもならない。
「騎士団か・・・今は居なかったし後で挨拶に行かないとな」
「 ?」
ヤミナは不思議そうに首をかしげている。口を硬く結んでいて怒っている様にも見える。ま、ヤミナにしてみれば目の前でデカイ巨人を倒した僕を知っているだけに不思議なんだろう。怒っているように見えるのは僕のことを少しは認めてくれているってことなのかな?
僕としてはこのままでもいいと思うんだけども。別に名声欲しさにあいつを倒したわけでもないし、町が平和ならこのままでもいいと思うしね。
「騎士団の人達なら被害が大きい地区の修復に行ってるよ。全く、あの働きっぷりをうちの主人にも見習ってもらいたいものだよ!」
「おいおい、今はそんな辛気臭い話をする時じゃねえだろ?今は楽しまなくちゃな!」
「・・・それもそうだね!マスター!酒を持ってきておくれ!」
「・・・あんたどれだけ呑むんだよ・・・」
騎士団は出払っていたんだな。駐屯所の前においてきた男も不憫だし早めに騎士団の人達に話をしておこうかな。
思い立ったら即行動。ヤミナの手を引いて店を後にする。もちろんチップを払うのを忘れない。前の世界日本ではチップという概念は無かったけどこちらでは割と頻繁にチップのやり取りが行なわれているようだ。
店にしても他店より少し高い品物の方が品質がよかったり・・・商売って言うのはなかなか難しいな。
僕は前の世界で鍋を買い換えようとして安いものを買ったら不良品が何度も続いて嫌な思いをしているので(料金は買い換えるたびに払わされた)安い店よりは少々高くてもいいものを買うように心がけている。
そんなことを回想しているうちに東地区の一角酒場の人曰く被害が大きい地区が見えてきた。見ると確かに何人もの人が集まって砕けた家の壁や抉られた地面を補修している。その中に見知った顔を見かけたので近づいて声を掛ける。
「クレモンドさん、ルーク。無事でしたか!?」
「ん?その声はショウか?!おお、無事みたいだな!」
「良かった・・・てっきり〈灰色の森〉に飲み込まれてしまったのかと・・・!」
二人とも僕とヤミナの顔を見ると笑みを浮かべて優しく迎え入れてくれた。
「少し時間が掛かってしまいましたが無事帰ってこれましたよ」
「 !!」
「そうか。そこの小さい魔法使いもご主人に守ってもらったのか?」
あ、ヤミナの顔が真っ赤に染まってゆく。こういうところは素直でかわいらしいな。すぐに俯いてしまうけれど。
「クレモンドさん・・・この人が」
「ああ、こちらが私の話していた人物ショウだ」
向こうの瓦礫の山から近づいてきたのは肩当をつけた金髪の爽やかなイケメン。ちょっとまぶしいくらいだな。さっとスキル〈鑑定〉でイケメンを調べる。
名前 クレイ・イングレッド (25)
状態 健康
称号 コルキ騎士団員(体力上昇〈小〉)
装備 騎士団の制服一式
スキル 団結Ⅱ 剣術Ⅱ 機転Ⅲ 調査Ⅰ
クレイは僕の方をじっと見つめてくる。青い瞳が僕の身体を値踏みするように見る。なんだかいい雰囲気ではない気がするな。彼は僕のことをなんだか怪しんでるみたいだ。スキルの所為か?
「 !」
ヤミナが僕の前に出てきて両手を広げてクレイの事をにらみつける。僕の事を庇ってくれるのか、ヤミナ。パーティー冥利に尽きるぜ。
「・・・失礼。話に聞いていたのとは随分雰囲気が違っていたので」
「 」
かるく礼をするクレイにヤミナは顔をぷいっと背けていい印象を持ってないことをアピールしている。僕にとっては嬉しい事だけれども初対面ではあまりしないように後で言っておかないと。
「いえ、お気になさらず。それよりも被害の方は・・・」
「ええ、一時は〈巨人〉が現れてどうなるかと思いましたが何処かの誰かが退治してくれたお陰でこの程度で済みましたよ」
「ははは・・・そうですか。その何処かの誰かに感謝しないといけませんね」
なんだ?この騎士団員は?僕があの巨大な一つ目を倒したのがそんなに気に食わないのか?ってヤミナはそんなに睨まない。なんだか疑ってるようだけれどそこまで敵対しているようじゃなさそうだし。
「クレイさん、話してるところすみません。彼も〈灰色の森〉の調査で疲れてるようなので休ませてあげたいのですが」
「・・・すみません。余計な時間を取らせてしまって。またいつでも俺達のところへ来てください。お茶くらいは出しますよ」
「ええ・・・それでは。行きましょう、皆さん」
その場はルークの機転の利く一言で僕も騎士団のクレイも何事も無くその場を後にした。ううむ。初対面でいきなり高感度が下がってるな。僕は何もした記憶が無いのにな。また今度騎士団を訪ねてみよう。
「さて、改めてお帰りなさい、ショウさん。ヤミナさん」
「無事帰ってきてくれて私も嬉しいぞ」
「いえ。これも皆さんのアドバイスがあったからです。何も知らなかったら本当に帰って来れなかったかもしれません」
僕の帰還祝いをしようとクレモンドの提案で僕達は騎士団とわかれて宿屋「小鳥の囁き」に来た。
店の中の食堂では既に重力無視の髪と筋骨隆々の身体、それに似合わない愛らしいエプロンをつけた店主のバーンが大量の料理を用意して待っていた。その傍にはたぶん酒だろう。これまた大量の樽が置いてあった。
「わっはっはっは!ショウ、お前さんの帰りを待ってたぜ!あの〈灰色の森〉に行ったんだってな!ゆっくり食べて呑んで話を聞かせてくれよ!」
「いえ・・・特に話すようなことは・・・」
「なにを言っているんですか。あの〈灰色の森〉から出てくるなんて普通の冒険者じゃありえないですよ。むしろ誇りといってもいい業績ですよ」
「はぁ・・・そういうもんなんですかね?」
「そうだ!さあ!細かい事は後回しだ!まずは食べよう!そして呑もうじゃないか!」
クレモンドは誰よりも早くに席について既に片手にはミル(牛のような生き物。肉が旨い)の肉、もう片手には酒をもって頬張っている。
それをみてよだれを垂らすヤミナ。彼女の顔も既に肉を味わっているかのように綻んでいる。
「まだ早いよ、ヤミナ。さ、席について食べよう」
「 」
声を掛けるとヤミナはいそいそと椅子に腰掛けてた。そして両手を胸の前で合わせてそのまま数秒。軽く頭を下げた。〈灰色の森〉で僕が教え込んだ食事のマナーである。彼女は忠実に実行しているようだ。うんうん。とてもいいことだ。異世界にきてからこういう細やかな動作一つ一つが改めて大事なんだと実感している。
こう見えても僕はマナーは結構守ってきた方だと自負している。行列だって割り込んだ事はないし(その殆どが割り込みされて目当ての買いたいものが買えなかったけれど)、最低限の社会のルールは守ってきたはずだ。
そのお陰かは分からないけどこうして異世界という絶対に来れない様な所に来る事が出来たのかもしれない。神様には感謝しなくちゃな。
「さあ、僕も食べようかな・・・」
「そうですね。折角の料理も冷めてしまいます。・・・その前に」
ルークが周りを見渡す。それにあわせて店主のバーン、クレモンドが酒の入った杯を掲げる。
ヤミナも回りにあわせているようだ。
「ここにいるショウさんはあの悪名高い〈灰色の森〉から無事に生還した勇気ある冒険者の一人です。この名誉は風に乗り都のデルニーまで届く事でしょう。私達は彼の友人としてそれを誇りにこの杯を掲げます」
「「「我らの心の名誉に幸あれ」」」
全員で文句を言った後、杯をぶつけ合って一息に飲み干す人達。なるほど、こちらの乾杯はこうやってするのか。いろいろと勉強になるな。
僕とヤミナの生還祝いだという宴は楽しく行なわれた。クレモンドはかなりのザルだったらしくいくら呑んでもまったく顔が赤くならない。なぜか途中で入ってきた冒険者ギルドのマスターヴァンはなかなか弱いらしく、それに泣き上戸だったようで宿屋のバーンが言い放った親父ギャグにも「みかん・・・かわいそうに・・・であるっ!」と号泣していた。
ルークはというと済ました顔で酒をどんどん飲んでいた。意外と強いのかもしれない。そのあとはヤミナやバーンの奥さんフウさんと談笑交えてお酒を飲んでいた。
かくいう僕もお酒が結構美味しくどんどん呑めてしまうのでついつい調子に乗ってクレモンドと飲み比べなんかしちゃったりしてかなりよってしまった。ヤミナの方は、すみのほうで食事を口いっぱいに頬張って美味しそうに食べていたところまでは記憶している。そこから先は記憶に残念ながら無い。なぜだ。
宴が始まって早二時間。ギルドマスターのヴァンやクレモンド、そしてショウが記憶をなくすくらいに酔っ払ってしまっていた頃、ひとしきり話を終えたルークは宴の席の端に腰掛けている少女に目が止まる。彼女はこの世界でも一番身分の低い〈貧民〉だった。しかしそこをこの宴の主賓であるショウが助け、ルークの知恵で彼の奴隷となりこうして行動をともにしている。普通ならば〈貧民〉などという身分はそこらに転がっている石ころと同義に捉えられるものなのだがルークの友人はそういったことを気にしていない様子でむしろ彼女に好意さえ抱いているようだ。
奴隷と結婚なんてことはさほど珍しい事ではない。ルークはそういった家を幾つも見てきた。理由としては一番に逆らわない、という事がある。いくら夫人になったところで所詮は奴隷。主人の命令には逆らえないのだ。
しかしショウはその制約さえもなくして彼女に向き合っている。その行動にルークは非常に驚き、同時に尊敬の念さえも抱いた。彼の身の回りはおろか、いままで過ごしてきた人生の中で出会った人のなかでも彼のような行動をする人は居なかったのだから。おまけに彼は飾り立てない、謙虚な姿勢がある。ルークはそういったいきさつもあり彼を最上級の友として見ていた。
そんな友に好意を寄せているであろう(ばればれだが)ヤミナにルークは近づく。ルークの接近に顔をヤミナは顔を上げる。
「やあ、宴はどうかな?・・・初めてで色々と慣れない所もあるかもしれないが」
「 」
ヤミナは首を横に振って答える。しかしどこか表情は硬いままだ。その目はじっと自分の主人であるショウにむけられている。どうやら彼に構ってもらえないので寂しいらしい。とルークは推測してみる。
いままで〈灰色の森〉という危険地帯に彼と二人きり。奴隷ならばどこかで捨て駒として死んでもおかしくない状況でショウはヤミナを第一に考え行動したのだろう。その結果彼女も人を信頼して心を寄せているのかもしれない。
(ですがショウさんのことだ。彼女からの好意にはなかなか気が付かないんじゃないでしょうか)
ルークはショウの方をみてふっ、と笑みを零す。彼はどうも女性からの気持ちに無関心というか気が付きにくいようである。一番身近なヤミナがアピールをしているのにも関わらず。
(ここは一つ。親友として私が協力してあげなくては・・・ね)
「あー、ヤミナさん?こんなところで居ないで彼のところへ行ってきては?」
「 」
ヤミナは楽しく酒を飲み交わしているショウたちを見るがすぐに首を横に振って答える。ふむ、行きたいけど邪魔はしたくない、と考えているのだろうか。とルークは考える。
(それなら、ば)
「えーとですね。私もさっき聞いたばかりなんですがショウさんもヤミナさんが来ないから寂しいと言っていましたよ」
「 !!」
それを聞いた途端顔を真っ赤にさせてあたふたとするヤミナ。手に持った肉の串を落としても気が付かない。
確認してルークはヤミナの元を離れる。向かう先はヤミナの視線の先、ショウのところだった。
「すいません、ショウさん。ヤミナさんが何やら話があるそうですよ?」
「え?本当ですかー?すいません、お二方。僕の大事な人が呼んでるみたいですー」
「おうおう、そら呼ばれたら行かなきゃならねえぜ、少年!」
「がんがるッ!のであるッ!私のろうには・・・なるなっ!なのであるっ」
やたらハイテンションな二人に礼を言って(酔っていても礼節は欠かさないなぁとルークは感心した)ルークに呼ばれた先、ヤミナのところへと来るショウ。ヤミナの方はというと先程のルークの言葉がまだ残っているのか未だにショウの顔を見ずに俯いたままである。
「どうした?ヤミナー。飲み物が欲しいのかー?でも僕の持っているのはあげられないなー」
「 」
「んー?顔が見えないけど大丈夫かー?折角の可愛い顔なのにー」
台詞だけ聞くと酔っ払いに絡まれたか弱い女性っぽいがそこらへんはルークは受け流す。そういうスキルも持っていた。
「お二人とも。結構時間が経ってしまいました。ヤミナさんも眠そうです。そろそろ休ませてあげたほうが・・・」
「そうかー。ありがとう、ルーク。何だーヤミナー、眠たいならそういってくれればいいのにー。遠慮は要らないんだぜ」
「 !!」
ルークの言葉のままにショウは一人で納得してヤミナの手を引き寝泊りしている三階へと上がっていった。途中ですれ違ったバーンの奥さんフウはヤミナを見てサムズアップをしていた。(奥さんは身体は華奢だが結構肉食系だと後でルークは聞いた。)
「さて・・・私はここの人達ともう少し呑みますかね、こんなに旨い酒も久しぶりだ・・・あの時以来かな?」
二人を見送ったルークも杯片手に酔っ払いの道を歩み始めたのだった。
・・・おかしい。とても奇妙だ。何が奇妙ってさっきまで僕はバーンやクレモンドと一緒に楽しく宴をしていたはずだ。少なくとも記憶の最後にはそうある。だがなんだ、今はなぜ僕は自分の部屋に居るんだ?そこまでの記憶が欠落している。まさか・・・敵の攻撃か?いや、それにしてはおかしい。なぜ・・・
「なぜヤミナもいるのか・・・」
状況を整理しよう。場所は僕の泊まっている部屋。時間はすっかり夜も更けているときだ。そして目の前には顔を赤らめてもじもじとしているヤミナが一人。白いローブを着ているものの帽子は脱いでる。いかん、酒の所為かとても可愛く・・・いや、もともと可愛かったか。
「ってそうじゃなくて・・・えっと・・・ヤミナ?君が僕を連れてきてくれたのか?」
「 」
うわお、俯いたまま動かないよ。そして時折見せる上目使い。ぐぎぎ・・・こいつは強敵だぜ。
耳を澄ますと下のほうからは声がする。どうやら宴会はまだ続いているようだ。
「今からまた行くのもなんだし・・・それに眠たくなってきたな・・・」
ヤミナに一声掛けてから横になろうと思い席を立つ。ヤミナも僕の行動に気がついたのか席を立った。
「僕はもう寝るけれど・・・ヤミナはどうする?」
聞くと頷いた。ヤミナも寝るようだ。僕は部屋にあるクローゼットに来ている服-第Ⅶ師団特殊部隊〈ウロボロス〉装甲服を脱いでかける。そしてそのままベッドへダイブ。ふかふかのベッドが気持ちいい。ここ三日はずっと硬い地面だったからすぐに眠って仕舞いそうだ。
少しして布の擦れる音が背後から聞こえた。どうやらヤミナも寝るようだ。僕はベッドの端っこに寝ているので十分ヤミナの寝るスペースもある。ばっちりだ。
「 」
ヤミナの近づいてくる気配がしたので後ろを振り向く。そこには・・・あれだ。普段は上に薄いシャツを着ているのだがなぜだかこの時はその薄いシャツをもヤミナは脱いでいた。いうなれば白い肌が外界に露出していたのだ。ついでに言えば彼女は両手で自分の胸を隠していた。所謂手ブラというやつである。僕も本でしか見たことが無い悩殺ポーズを彼女がとっていることに思考が追いつかなかった。
「 」
恥ずかしげに下を向いているのが何ともいえない妖艶さを・・・ってそうじゃなくて。なんでだ?僕は何時の間にフラグを立てた?ってかどうすればいいんだ?
「・・・さ、寒くない?早く入ったら?」
平静を装ってヤミナをベッドに迎える。内心は大荒れだ。雷と風が荒れ狂ってる。いかん。まともに目を合わせることが出来ないぞ。さらにことも在ろうか彼女は僕と向かい合わせになっている。この状況で僕はどうしろと?
いや、ついにこの時が来たのか。僕もついに大人の階段を上るときが来たんですね!これでついに僕も堂々と大人を名乗る事が出来るんですね!
両手でヤミナを抱き寄せる。彼女も手を胸から離してこちらに手を回した。彼女の柔らかい感触が伝わる。髪の毛からはほのかにいい匂いがした・・・。
結論から言うと僕はいまだ子どもだ。
チキンで悪かったな。仕方ないんだよ。話(子どものときのこととか)をしていたらいつの間にか寝てしまったんだから。次は上手くやるさ。・・・たぶん。




