第一章 十九話
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「フハハハハッ!人間ドモ、一捻リヨ!」
コルキの町の東側に位置する「灰色の森」。ここで怪しげなフードの集団が呼び出してしまった巨大な化け物は僕達の事なんて目もくれずコルキの町へと進行している。さらに困った事にそいつの足元には視界一杯に黒い魔物が所狭しとひしめき合っている。
「まずいな。あっちには町があるのに・・・早くどうにかしないと」
というかあんな大軍勢を止められるのか?一人でやるとしても結構時間が掛かりそうだな。ここはひとまず事情を知っているフードの男に聞いた方が早そうだな。
「おいっ・・・おいってば!いい加減に目を覚ますんだっ!」
倒れて白目を剥いてしまっている男の頬を何度も叩く。真っ赤に腫れ上がってきたけれど今はそういうことを気にしている場合じゃあない。あの巨人に対する情報が欲しいからね。
「・・・あ、あああなたは・・・?」
「やっと気がついたか。よかった」
何度頬を叩いたか分からなくなるほど頬を叩いたところで男は目を覚ました。酷く混乱している様子だったが気にせずに質問をしよう。混乱が解けるまでこっちも待ってられないんでね。
「ああ、あいつは?あの化け物はどうなってしまったのですか?!」
「ん?あいつならでっかくなって向こうを歩いてるよ」
僕は後方を指差しながら男に簡単に事情を理解してもらう。巨人の姿を見た男はまたもや気を失いそうになったけれどもう一発頬にビンタを食らわせてなんとか意識を保ってもらった。
「さあ、教えてもらおうか。お前達はあいつを召喚したんだろ?なら元の世界へ還す方法も知ってるはずだ」
「し、しらない・・・何も」
「そんな事無いだろ?あんな呪文も唱えたんだ。なにか知ってるはずだと思うんだけど」
「しし、知らない!俺は何にも知らないんだ!」
困ったな。男の表情や状態を見るに嘘を言ってるようには見えないんだけど。ヤミナの方にもなにか召喚術について知らないか聞いてみるけど首を横に振るだけだった。ううむ。召喚術って言うのはかなり難しい術なのか?
だとしたら見るからに素人と思えるフードの男達が召喚に成功したのって・・・いや、これは成功といえるのか?男達はあの化け物を操れていないし。
「じゃあさ、どうやってあんな召喚術をしったの?普通はこんな事知らないと思うんだけど」
「仮面・・・そう、仮面の男に教えてもらったんだ」
仮面?なんだか胡散臭い奴の匂いがぷんぷんするぜ。仮面って言うのは変態か悪役って相場が決まってるからな。きっとそいつは悪い奴だ。たぶん。
「魔石を使った召喚術もこの館の事も全部そいつが教えてくれたんだ。わ、私の言うとおりやれば問題ないって」
「ふうん。それで誘いに乗ってこんな事になってしまった、と」
「俺達は、何も知らなかったんだ!だまされたんだ!」
「はいはい。後悔は後からいくらでもしてくれ」
これ以上男からは何も情報が手に入れられないと判断して男との会話を切る。
そのとき、ヤミナが僕の裾を引っ張ってきた。なにか言いたそうにしている。
「どうした?何かいい案でも思いついた?」
「 」
僕の言葉にうんうんとヤミナは頷いて手にした杖で地面に何やら描き始めた。字はまだあまり得意じゃないのか絵が多くなっているけど理解できないほどじゃないな。図を見るとどうやら僕の魔力で敵を殲滅できる!って書いてるみたいなんだけど・・・生憎と魔法のほうは力はあるけど制御は練習してないから、大規模な魔法となるとできないんだよな。
「・・・これは。・・・そうか、でもこれだと僕じゃなかなか難しいんだけども」
「 !」
「え?ヤミナが制御してくれる?大丈夫なのか?」
「 」
「・・・そうか、それならやってみるしかないね。無理はしないでくれよ」
自信たっぷりに首を立てに振るヤミナを信じて描いた作戦を実行するために立ち上がり刀を構える。刃に十分に魔力を纏わす。その魔力量に刃が激しい光を放つけど刃自体はなんとも無いようだ。後ろの男とヤミナは魔力にあてられたかどうか分からないけど立ってるのがやっとみたいだ。早めに終わらせないとな。
次に空いてる左手で巨大な魔力の塊を作る。こっちはそれほど難しくも無くすぐに作る事が出来た。
魔力の塊にヤミナが自身の魔力を注ぐ。ヤミナによるとこれにより僕の魔力に干渉できる、らしい。僕はまだ魔力操作なんかは全然出来ないから彼女がそれを補ってくれるという形をとるとのこと。しかし想像以上にきついのかヤミナの顔が苦痛に歪んでいる。他人の魔力って言うのは量が多くなると痛みを伴うものなのか?
「 !!」
そんなことを思っているうちにヤミナの方は準備が出来たみたいで僕の方へ頷いて合図をくれた。それを確認して魔力の塊を上空へ目掛けて思いっきり投げる。ヤミナも必死にコントロールを失わないように干渉しているようだ。少しして敵の軍勢の真ん中あたりに差し掛かる寸前に右手に持った刀を魔力の塊に向けて思いっきり振る。
「これで・・・どうだぁぁ!!」
刃から放たれた魔力の刃はヤミナがコントロールしている魔力の塊にぶつかる。
瞬間、何百何千もの大量の魔力の槍が敵の黒い軍勢目掛けて降り注いだ。上空は光り輝く光の槍で一杯になっていく。
地上ではあれ程蔓延っていた黒い魔物も光の槍で次々と消滅させられてゆく。
さすがはヤミナ!そう言おうと振り返ったときに目に飛び込んできたのは、彼女が膝から崩れる堕ちる瞬間だった。
まずい、僕の魔力に当てられたのかもしれない。あれだけ僕の濃い魔力を直に浴びたんだ。無事では済まないかもしれない。
「ヤミナ!!」
〈縮地〉を使って彼女との距離を一瞬で詰めて身体を受け止める。よかった、意識はまだあるみたいだ。呼吸や体にも異常は見られない。
「大丈夫か?!無理はするなって言ったのに・・・」
「 」
僕の問いかけにもヤミナは笑って答えるだけだった。その顔は何だか満ち足りた顔だった。
ここだけ書くと如何にも亡くなった感じだけど彼女はそんなことは無く、気を失ってしまった。
「安心してくれ・・・!今、敵は討つ!!」
僕もなんだか映画に出てくるような台詞を言って気分を高める。残すは一体の巨大な一つ目野郎だけ。ぼこぼこにしてやんよ!
「ヌゥゥゥ。今ノ魔法ハ貴様カ・・・」
「だとしたらどうなんだ?褒めてくれるのか?」
「ホザケ!!我ノ同胞ヲヨクモ!」
一つ目の巨人は怒りをあらわに、こちらにずんずんと近づいてくる。一歩一歩足が地面につくたびにぐらぐらとゆれる。
「同胞?僕らの町を襲っておいてよくもそんな事言えるな!」
「ヌカセ!我ノ怒リハ貴様ハ買ッタ!コノ拳デ沈メテクレル!」
「望むところだ!拳で語り合ってやるよ!」
言うが早し、刀は仕舞って巨人に向かって駈ける。巨人も腕に力を込めてこちらに向かって振り下ろしてくる。
「どぉぉぉぉらぁぁぁぁ!!」
「グオォォォォォ!!」
巨大な拳と小さな拳がぶつかり合った。ぶつかった衝撃で爆発音のような凄い音が響いてくる。地面には元の世界で言う琵琶湖ほどのクレーターが出来上がった。巨人の拳がそのまま僕を叩き潰す、何てことはありえなくて。
「グゥゥゥ!貴様ァァァァァァ!!」
巨人の右腕が粉々に吹き飛ばされた。巨人は痛みと怒りとで凄まじい唸り声を上げるけども僕にとってはただやかましい騒音にしか聞こえなかった。
「そんな雄叫び上げても無駄無駄ぁ!!必殺の拳、受けてみろぉ!」
〈縮地〉で一気に左腕を駆け上がり巨人の腕にもう一撃拳を叩き込む。もちろん全力で。
案の定一撃で巨人の頭は吹き飛んでしまった。
頭を失った巨人はふらふらと足元が覚束なくなっていたけれどやがて足元から光に包まれてすぐに完全に消えてしまった。
「ふっ・・・奴も満足しただろう。お前の拳、俺は忘れないぜ・・・」
着地してから一言。最高にかっこいい台詞を呟いた。台詞は風に乗って消えてしまったけれどそれで満足だ。誰かに聞かれたら恥ずかしいし。
「・・・っとと。ヤミナを迎えに行かないとな」
帰ったらゆっくり風呂にでも浸かって美味しい食事をしよう。そう心に決めて僕はいそいでヤミナの元に向かった。
コルキの町東側城門。
ここで魔物を倒していたクレイ・イングレッドは目の前の光景にあっけに取られていた。隣にいた魔法道具店店主にして魔法使いのクレモンド・ネイビーも同じだった。
目の前に居たあの〈巨人〉が今では跡形もなく消え去ろうとしているのだ。
〈巨人〉が襲ってきて絶体絶命かと思われたその時、なぜか〈巨人〉は後ろを振り向き声を上げて拳を打ち下ろした。
そこに何かあるのだろうか、と一瞬クレイは考えたが次の場面を見てその考えを放置せざるを得なくなった。
なんと、振り下ろした〈巨人〉の右腕が跡形もなく、粉々になって砕けたのだ。あまりの出来事に言葉を失うクレイ。
通常〈巨人〉と戦うには最低でも二個大隊ほどの軍隊やランクⅧ以上の冒険者の集団が必要となってくる。それでも尚ぎりぎり撃退できるかどうかというくらいなのだが、あの〈灰色の森〉付近ではその〈巨人〉の右腕を吹き飛ばしてしまうような何かがある、ということになる。
「もしや、帝国の新兵器・・・いや、それならこんなところで使うはずは無い。・・・なら一体何が」
いずれにしてもとてつもなく危険なものがあるに違いないとクレイは判断した。そうこうしているうちに〈巨人〉は凄まじい叫びをあげ、残った左手で何かに抵抗しようと足掻き始めた。
だがそれも虚しくそのすぐ後に〈巨人〉の頭部が突然消し飛んだ。
「なっ!・・・一体何が・・・!」
突然の〈巨人〉という脅威の消滅に困惑する騎士団、ギルドの面々。そんな中で魔法使いのクレモンドが小さく呟いた。
「ショウがやったのか・・・」
「何か・・・知っているんですか?あの〈巨人〉を倒したことと関係が?!」
「おお、おお。そんなにがっつくな。私が知っているのは心優しい良い奴だよ」
「でもその心優しい人はあの〈巨人〉を簡単に葬れる力を持っている、と」
「だが心優しいショウは力を悪用する事は無い」
「信用できませんね」
「私が保証する。それでどうか?」
一連のやり取りの後、クレイはふぅ、と息を吐いて肩をすくめる。
「・・・すみません。俺も気が立ってるみたいですね。あなたの言うとおり力を悪用するつもりならば、わざわざ町を守るような真似はしないと思いますし」
「そうか。理解ある騎士団で感謝するよ」
「ただし、何かあれば即刻俺達が捕らえますがね」
「ああ、しっかり言い聞かせておくよ。それよりも今はこの状況を喜ぼうじゃないか」
クレモンドの言葉にクレイは振り返る。そこには笑顔で互いに抱き合って喜びを分かちあう騎士団とギルド。物資を運んでいた商人達も手放しで喜んでいる。皆が笑顔で互いの生存を喜んでいる。今まで死の寸前に居たのだからそれも仕方が無いのかもしれない。
「そうですね。危機から救ってくれたんだ、お礼の一つでも言いたいですね」
「ああ、しかし彼はシャイだからな。それにそういうことには無欲なんだよ」
「ふふっ。つくづくその人物に逢ってみたくなりますよ・・・それでは俺はこれで。いろいろ処理もありますので」
「ああ」
人ごみの中へと消えてゆくクレイを見送りながらクレモンドは騎士団って言うのは頭の硬い奴だけじゃないんだな、と感心させられていた。
そんなことを考えていると背後からよく知った声が聞こえてきた。
「クレモンドさん!大丈夫でしたか?凄い戦闘だったようですけど」
「いえ、ルーク。幸いこちらは怪我人が数人だけだった。おそらくショウが上手くやったのだろう」
「そうですね。私もそう思います。あの〈巨人〉をいとも簡単に・・・」
「ふふ。欲しくなったのか?」
「まさか。自分の友をそんなに考えるなんて・・・確かにショウさんの力は凄まじいですが」
クレモンドの言葉に少し戸惑いの表情を見せる商人のルーク。そんな彼を見ながらクレモンドは、
「君の立場も大変だな。いつまでも父上の影響がついて回る。周りにも、自分にも」
「・・・ええ。しかしショウとはそれを抜きにして友として居たいと思っています」
ルークの言葉に満足げに頷くクレモンド。彼は単に魔法使いという事でなくルークの友としてアドバイスしたつもりだった。ルークもそれを汲んでくれたようでほっとしていた。
「さあ!こうしては居られませんね!ショウさんを迎える準備をしなくては」
「・・・その通りだ。私の優秀な弟子も帰ってくるだろうしな。ふふ、今夜は長くなるぞ」
二人は会話もそこそこ、この騒動を解決したショウに対してどういう祝いをしようか早速話し合いだした。だがルークはクレモンドの酒癖をしっていたのですこし不安でもあった。
一応巨人はかなりの強さを誇る魔物なんですよ。
でも主人公はもっと強かった。それを表現したかった。




