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第一章 十五話 黒幕の暗躍かと思ったら奴らの所為でなかなか出来ませんでした。

「くそっ!なんなんだあいつらは・・・!」


 コルキの西に広がる前人未到の地、灰色の森。何時からこの森が出来ていつから灰色になってしまったのかは誰一人として分かるものはいない。そんな森に一人、灰色のローブをまとった者が物音一つも立てずに移動していた。そのお陰か彼のことを知覚できる生物はひとつとしていない。森の中をすべるようにして移動する。目的はつい先程見つけた二人組の冒険者。フードを着た男は黒いコートを着ている冒険者に対して注意を向ける。




 突発的に、それこそ酒場で言うような一人の冗談に釣られて始まった計画はいつの間にか大きく膨らみ、今や悪ふざけで思い描いていた最悪のシナリオ通りに進んでいる。

 彼も初めは気が載らなかったのだが計画が進むにつれ胸の奥でくすぶっていた思いが徐々に抑えられなくなりついに参加を決めた。彼は自分の特技とも言える隠密スキルを使って憎き貴族の館から魔道器にはめ込んである魔石を回収していった。

 彼の参加により、彼らの目的は当初の計画よりも早く成就されようとしていた。

 

 しかし、計画は狂ってしまった。ことの発端は少し前のこの灰色の森の中、とある館で行われた秘密の会議の後の事。彼は同胞の言っていた事が気になり灰色の森の手前の湖へと来ていた。ここでは同胞の一人が闇の召喚術を使い災害級の魔物リヴァイアサンを召喚したところだった。実際に召喚が成功するかは半信半疑だったのだが何の間違いか成功してしまい、さらに運悪く災害級の魔物を召喚、その場にいた同胞達に動揺が走る。災害級の魔物は伝記や口伝でのみその存在が伝えられている存在。まともに戦おうとすれば国を挙げて戦わなければならない相手だと。

 そんな規格外の魔物を召喚してしまった。しかも自分達にはまともに戦う道具も無い。自分達の命は終わった。彼はそう確信したのだがリヴァイアサンは彼らには目もくれずに湖の奥へと引っ込んでしまった。


 これはリヴァイアサンを召喚するときに使った魔力が足りず、魔力補給の為に休んだだけなのだが彼らにそれを知るすべはない。しかし彼らは確信した。これで奴らに報復できると。

 それから同胞達は幾つもの実験を繰り返し、ついに計画は最終段階までに到達した。

 何回もの実験の成功で彼らは用心という言葉がすっかり抜けてしまっていた。そんなときにリヴァイアサンが倒された、という知らせ。男はどうにもこの言葉が引っかかりこの湖に来たのだった。


「湖が・・・ない?一体どうしたんだこれは・・・」


 彼が目にしたのはかつて湖だった場所。視界の中、いたるところで大きなクレーターのように地面に穴が開いている。湖はすっかり干上がっており知っているものでなければここが湖だとは到底考えれなくなっていた。


「ばかな・・・リヴァイアサンは災害級の魔物。簡単に倒されるはずが」


 クレーターや地面の荒れ具合から言ってここでは相当激しい戦闘が行われたに違いない。いち早くこの事態に気付くはずの自分達が気付かないなんて。なにかしらの魔法が使われたのか。だがこんな事をするのはもちろん決まっている。


「誰かが俺達の計画を邪魔しようとしている・・・のか」


 男はその場を去った後同胞にリヴァイアサンが倒されていたこと、そして誰かが計画を邪魔しようとしている事を伝えた。だが同胞達はそれを聞いても、リヴァイアサンが倒されたくらいどうという事はない。と相手にしなかった。


「くそっ!なぜだ?災害級の魔物を誰にも感ずかれることなく倒す者だぞっ!少しは警戒をするべきなのに」


 男は苦々しく呟く。いま同胞達の頭の中には復習という言葉だけが渦巻いているのだろう。事実、召喚も成功、魔石の回収も順調にすすんで予定よりも多くの魔石を手に入れている。同胞達はもはや計画は達成されたと思い込んでいるものも居た。そこに邪魔しているのかもしれない、という不確かな情報は入る隙が無いのだ。


「こうなったら俺が・・・やるしかない」


 誰かがこの計画を邪魔しようとしている。邪魔されては困るのだ。もしこれが露見すれば自分たちは死刑確定だろう。なにせ権力の塊である貴族に楯突こうとしているのだ。だから、


「邪魔される、訳にはいかないよな」


 男は決意を秘めて町へと戻っていった。

 まず初めに思いつくのは冒険者の存在だった。しかし今、この町にはランクⅧやⅨと言った一流冒険者はいない。しかし念のためだ。調べるだけ調べよう。男はそう思ってギルドの門をくぐる。

 ギルドは相変わらずのある種の緊張感に包まれていた。入ってきたものを値踏みするかのような視線が彼は嫌いだった。視線を無視して奥のカウンターへと進む。


(ったく。どいつもこいつも頭の中は金の事ばっかりか。くそがッ)


 いらいらもあるがそこは何とか抑えて受け付けの初老の男性に話を聞くも特に有益な情報は得られなかった。この時、初老の男性はショウが冒険者になった当日リヴァイアサンを倒す、という偉業の事をまだ知らなかった。このことを知っていたのはギルドマスターと受付のエリエッテのみであり、じきに話はギルド内に広まるのだが彼の運が悪かったという事だけ伝えておこう。


 ギルドではないとすると次に思い浮かぶのはこの町の騎士団だ。騎士団は定期的に街道や外に出てくる魔物の掃討作戦を行っており彼らがリヴァイアサンと接触する可能性は高かった。

 だが、ここで一つ彼には思うことがあった。騎士団は集団戦を主とする組織だがコルキの町には支配者の公爵ネル・ゴードがいる。彼は自分の私兵が守るから大丈夫だと言い、騎士団の数が本来なら一個大隊は必要なものなのだが逆らう事は出来ずに一個中隊ほどしか今はいない。

 たったそれだけの人数でリヴァイアサンを倒せるわけが無いしたとえ倒せたとしてもなにかしらの発表があるはずだ。よって騎士団の可能性も限りなく低くなる。


「となると・・・一体誰が・・・」


 騎士団にも居ないとなると一体誰があのリヴァイアサンを倒したのかが気にはなるのだがこれ以上調べていて誰かに勘付かれたら元も子もない。気にはなるがあくまでも今は計画の成就が大切だ。彼は一度引く事に決めた。個人か団体かは分からないがリヴァイアサンを倒すほどのものだ。今は分からなくてもすぐに分かるだろう。


 その時は彼が思っているよりも早く来た。幾日かが過ぎたとき。彼は計画の為にもう少し魔石を収集しようと貴族の暮らしている東の貴族区へと足を伸ばしていた。彼ほどの隠密スキルの使い手ならば自分は大丈夫、と安心している貴族の館に忍び込む事など朝飯まえだ。


「さて・・・魔石をいただきますかね」


 隠密スキルを発動させおそらくは貴族専用だろうと思われる門を潜り抜ける。門番がいるが正面から入っていく男には気が付かない。物音どころか気配さえ感じさせずに彼は館へと侵入する。ここからは実に簡単な仕事だ。悠々と歩いて宝物庫を見つけて魔道器から魔石を抜き取るだけの作業。なにも難しい事はない。貴族やこの家の使用人なんかは彼が廊下を堂々と歩いていても気にも掛けない。彼の気配、存在は今や道端に落ちているなんでもない石と同等になっている。

 初めは男もそんなスキルを獲得し、困惑した。周りからも馬鹿にされた。だが今はこのスキルを使い同胞の役に立っている。それが唯一の彼の誇りといってもよかった。

 廊下を歩きいよいよ宝物庫にも迫ってきた、とそのときふと外の景色に目が行く。なぜ今外を向いたのかは彼自身にも分からない。だがこの外を向いた事が彼にとっては幸運だった。

 彼が外に目を向けた瞬間、目に映ったのは高さが二十メートルはあろうかという大木が根ごと吹き飛ばされこちらに向かって飛んで来ている光景だった。


「ぐおっ!なんだ?」


 咄嗟にスキル〈ステップ〉を発動させて横へと跳ぶ。大木は彼が今さっきまでいたところを超えてその先の門に深々と突き刺さった。隣の門番は何が起きたか分からないまま気絶してしまっている。


「何があったんだ・・・!」


 男が改めて外に注意を向ける。そこには考えられないような光景が広がっていた。

庭の中央、二人の男が武器を出してにらみ合っていた。一人は水牛さえも一撃で両断できるほどの刃を持った斧を二本構えた赤い鎧を着た大男。

 もう一人は大の男二人分はあろうかという長さの刀を構えた黒いコートを着た男。

 武器がぶつかる度、二人が踏み込むたびに周りの景色が一変、規律が取れていた庭も瞬く間に崩壊してゆく。互いの武器を振るう速度はもはや男でも、一流の冒険者でも終えないほど速くなっていった。

 人外の行うような、一撃一撃が災害に匹敵するような戦いに男は見とれながらも一つの答えを導き出していた。


「あいつが・・・倒したのか」


 黒の裾が地面まで届くかと思うほど長い、ピーコートのようなつくりのコートを着た男の方に意識を集中して男は思う。赤い鎧の男はおそらくこの町の支配者ネル・ゴードの雇った護衛だったはず。そんな男がわざわざ自分達のことを追うはずが無い。するとしたらもう一人の男の方。


「見つけたぞっ・・・くそっ!」


 視線の先の二人が放つ爆風についに男は耐え切れなくなり後ろに吹き飛ばされる。すぐに姿勢を立て直すと男は一瞥もくれず全力で西の方へと走り去る。


「掴んだはいいが・・・あんなところに居れるかッ!」


 それから男は先程のコートの男の事を調べた。姿が分かっていると案外すんなり情報は集まるもので日没までにはある程度の情報が集まった。

 名前はショウ・キリシマ。年齢は二十ほどで冒険者としてはまだ日が浅いがランクⅦと異例の出世を果たしている。情報を集めてますます確信した。こいつが俺達の計画を邪魔していると。姿も名前も分かった。そして何よりあいつは俺達の計画の邪魔をしている。


「あんたに恨みは無いが死んでもらうぜ・・・俺達の計画のためだ」


 あのショウという男はおそらく計画の邪魔をしに灰色の森へと行くのだろう。そこで暗殺を決行する。男は決意の秘めた目で窓の外を見る。殺人は犯したことは無いが、不思議と恐怖は沸いてこない。逆に男の中には自身が満ち溢れていた。


「いくら強いといっても所詮は人間。どこかで隙が出来るはず・・・そのとき、その時だ」


 手にしたナイフを見つめる。俺の隠密スキルを見破れるものは居ない。隙を見て心臓にナイフを突き立てる。しかし、彼は知る由も無かったし想像も出来なかった。自分の想像し揺る限りの強さを描いても目的の人物、ショウがそれを軽く超えていってしまう事を。


 舞台は戻り、灰色の森。灰色のローブをまとった男は絶句していた。自分が暗殺しようと後をつけていた男、ショウはあろうことか灰色の森を正面きって進み、途中で無限かと思うほど出てくる魔物の群れを蹴散らしていた。


 この灰色の森には一定間隔で大量の魔物が沸いて出てくることを男たちは随分前に体験で知った。それから何度も試行錯誤を重ね、ついに魔物に見つからない方法を確立した。本来この森に入ろうとするならばそれが当たり前なのだ。何度も何度も灰色の森に入り魔物も出現時刻やパターンを見極める。そうしなければたとえ一流の冒険者や魔物の最上位に位置するドラゴンでさえも倒されてしまうような魔物の大群に襲われる。

 そんな悪魔の悪戯としか思えないような罠を目の前の男は正面突破している。それにさっきから莫大な魔力を消費した攻撃を繰り返しているもののまったく疲れる気配がない。むしろどんどん強くなっているようだ。


「・・・これは計画を早める必要があるな・・・」


 あのままではこの灰色の森のなかにある古ぼけた洋館を見つけるのも時間の問題だ。まともな戦闘力を持たない自分たちではまったく歯が立たないだろう。そう直感で悟った男は踵を変えて一本の道を歩む。

 計画を成就させるのは今しかない。今しか。


閲覧ありがとうございます。

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