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第一章 十四話 探検しようと思ったら熱烈な歓迎を受けました。

閲覧ありがとうございます。

コルキの西に位置する広大な森。端から見ると別段たいしたことは無い森のようだが一歩中に入るとその姿を一変させる。森を形成している全てのもの、土や根っこ、葉っぱに枝。それら全てが灰色なのである。さらに木々は等間隔で生えており方向感覚を失いがちだ。

 此処に出てくる魔物も特徴的で身体全てが灰色で出来ている「グレーリザードマン」や「灰色の魚」などが有名だ。いずれも好戦的な性格と敵を何処までも追いかける特性を持っており周辺の住民からは危険視されている。


「・・・だそうだ。この冒険記にはそれくらいしか書いてなかったから後は自分で確かめるしかないな」

「無理だけはしないでくださいね」


 灰色の森を目の前にちょっと驚いた。予想よりもずっと大きな森でどれだけ歩けば端っこにいけるのか分からない。調査にどれくらいかかるか分からない。ひょっとしてまったくの無駄足になるかもしれない。だけどすごくわくわくしている。これぞ冒険、ファンタジーだ。今まさに小説や漫画の主人公と同じ気持ちなんだ。という気持ちがあったのはどうやら僕だけだったようだ。隣のヤミナは顔が死人のようになってるしルークは若干青くなっている。


「大丈夫ですよ。なにがあろうともヤミナは守りますし絶対に死んだりしません」

「・・・ええ、そうでしたね。友人を信じないなんて私は何と愚かなのでしょう。許してくださいショウさん」

「お、大げさな・・・ルークの気持ちも分かりますよ。それに僕達は友ではなくて親友ですよ」


 僕の言葉にルークは涙を流して感動してくれていた。なんだか僕までも涙ぐみそうだ。このままいると何時までも出発できそうに無いので改めてルークにお礼を言ってその場を後、灰色の森へと一歩を踏み出した。




 歩き始めて早数時間。

 等間隔に生えている灰色の木に気分まで灰色になって気がした。今じゃまっすぐに歩いているのかもどうなのか分からなくなってくる。ヤミナは僕の腰に手を回して抱きついてくる形で進んでいる。とても素晴らしいシチュエーションだけれどこの状況じゃ楽しめる暇も無い。ずっと灰色のままじゃ精神も灰色になっていしまいそうだ。生えている草やつるを調べてみたけれどどれもコルキ周辺に自生している植物と種類は変わらない。なのにここだけなぜか全ての色彩が奪われているようだ。


「となると、クレモンドが言っていたようにここには何か魔力の流れの変化があるのか」


 魔力はこの世界を調律し正しい姿にするようなものだと聞いた。それが崩れてくるとどこかで綻びが生じる。それはたとえば天変地異だったり強力な魔物の出現だったり生態系の変化だったり。

 つまりここ灰色の森も何かしらの魔力の流れの変化を受けていることになる。もっとも専門家ではない僕にはどこがどれだけ影響を受けているのかはまったく分からないけれど。

 時々出てくる魔物はヤミナの魔法で一撃だった。やはりヤミナには魔法の才能があるのだろう。とても優秀な後衛になってくれている。現在ヤミナが使っている魔法は火の中級魔法と雷の中級魔法、それに光の中級魔法の三種類だ。中級と一口に言っても巨大な炎の槍を出すし、巨大な雷の剣で敵をまとめてなぎ払うし、光で敵を森ごと焼き尽くすといった具合に本当に中級魔法?と疑いたくなるような威力ばかりだった。


「本当にヤミナは強いな。これじゃ僕の出番無いんじゃないのか?」


 しかしヤミナは「そんなわけないわよ」とでも言いたげな表情で首を横に振る。よく観察すると少し息が切れているようだ。これは、あれか?


「まさか。魔力が足りなくなってるのか?」


 こくこく、と頷くヤミナ。そうだった。ヤミナの魔法の才能があまりに凄いんで肝心の魔力量に関してはまったく考えてなかった。魔力量は日々の訓練で培われるものなんだそうだ。ヤミナはまともに魔法の訓練なんてやったことが無いから才能はあっても魔力量がたりない。


「・・・それじゃ仕方ないな。ヤミナは少し休んでると良いよ。無理に敵を倒さなくてもいい」


 刀に手をやりヤミナに休むように声を掛ける。ヤミナは「私はまだ戦える」って顔をしてたけれど僕は酷使するつもりはないし、大事な戦力だ。休む事も大事だと伝えると渋々下がってくれた。


「よし。じゃあ進もうか」


 そこからはまさに快進撃だった。寄ってくる敵を斬っては捨て、斬っては捨て。猪突猛進、死屍累々の活躍・・・ではなかった。僕が戦闘準備の為に身体能力強化を使うとそれから一切敵が寄ってこなくなってしまった。おかしいな。身体能力強化にはゴールドスプレーと同じ効果があるなんて聞いてないけどな。

 お陰でさくさく進めたから良いとしよう。途中で無謀にも襲い掛かってきたレーベルベアーは一刀の元で切り伏せた。後に残るはレーベル茶の茶葉。ありがたく頂くとしよう。



「・・・おかしい」


 あれから休憩を挟みながら歩き続ける事半日。いやもっと経っているのかも知れない。どれくらい歩いたのか分からなくなって来たけれど一ついえるのは、


「もうとっくに夜のはずだ。なのになんで・・・」

 

 そらはこうも明るいのだろう。明るいとは言っても昼間のような明るさはない。空にはどんよりとした灰色が敷き詰められていて見ているだけでも憂鬱になってきそうだ。でも今はとっくに日も落ちているはずの時間。僕が見上げたのに釣られてヤミナも空を見上げ首をかしげている。この摩訶不思議な現象を説明するとしたら、魔力の流れ、という答えしかないのだろう。もしかしたら人為的に起こす事も出来るのかもしれないけれどここは人の手が殆ど入らない未開の地。その可能性は低いと見たほうが良いだろう。


「とりあえずもう少し歩いて野営をしよう」


 歩くスピードを少し上げる。なんだかこういうときは嫌な事が起こるもんだ。早く休める場所を探さないと。しかし現実はそうも簡単にいかないものだ。歩き始めて数分、さっきまで獣の声なんて一つもしなかったのに急に回りから唸る声が聞こえてくる。初めは遠くの方で聞こえていたけれど段々と近づいてきている。数も近づいてくるにしたがって増えているような。


「これはひょっとして・・・狙われてる?ヤミナ、十分に警」


 その先はいえなかった。ヤミナに声を掛けようと振り向いたとき、ヤミナの背後から灰色の影が襲い掛かってくるのが見えた。目標はおそらくヤミナ。彼女はまだ気が付いていない。

 咄嗟に刀を抜きヤミナの後ろの魔物を斬る。魔物は一瞬で光となって消えていった。しかしそれが合図となったのか四方八方から角の生えた狼のような魔物や全身灰色で目が紫で血走っているゴブリンなんかが襲い掛かってきた。戦術や戦略なんてあったものじゃない。ただ単に数による暴力。圧倒的な物量で責めてくる。


「走るぞ、ヤミナ!」


 身体能力強化をまとった身体でヤミナを小脇に抱え、スキルの〈縮地〉を使い魔物の群れから逃げる。

 だけど跳んでも跳んでも一向に魔物の群れからは逃れられない、むしろどんどん増えていってる?


「仕方ない!行くぞ、ヤミナしっかり掴まれ!」


 縮地を止めて一度地面に降り立つ。刀を抜いて周りを見わたす。狼や蝙蝠、熊なんかの動物型の魔物からゴブリンやオーガなんかの比較的人型に近い魔物達がこちらをよだれを垂らしながら見ている。


「残念だけど君達の夕飯にはなれそうにも無いね!」


 踏み込み、刀に魔力を込めて振る。一撃で木々は跡形もなく消し飛び、地が割れる。魔物は一瞬で消滅。目の前の元灰色の森は荒野同然の荒地となったがすぐに魔物で視界が一杯になる。

 道を空けないのなら空けさせるまで。魔物が迫るたびに刀をふるう。魔物の群れは一瞬で消えるが次々に新たな魔物が沸いて出てくる。いや、大量発生とかの非じゃないんですけど。

 四方八方から襲ってくる魔物を切り伏せながら進むけど斬っても斬っても、進んでも進んでも一向に魔物の群れは途切れない。一体どれくらいいるんだ?


「仕方ないな・・・ヤミナ、一旦降りてくれる?」


 僕の身体にしがみついていた魔法使いに声を掛ける。今までじっとしていたけれど僕の言葉に頷いて手を離して後ろに下がる。

 刀を鞘に仕舞い、腰を落として刀を構える。


「抜刀術--次元斬!」


 鞘から放たれた刃が空間を切り裂き、空間は魔物や木々、本来は触る事も出来ない不可侵の物体である魔力をも飲み込んでいく。あれだけいた魔物も僅か体感時間数秒の間にあっという間に一匹残らず消えてしまった。その隙に再びヤミナを抱えて走る。体感速度は軽く千キロを超える感じ。それでもなお僕やヤミナが吹き飛ばないのは何らかの魔力の影響があるのかもしれない。

 その後も敵が現れるたび空間を切り裂き全滅させていった。いやあ、便利だな。次元斬。

 本当は次元斬なんてスキルは無くてスキル〈斬光〉に無属性に変換した魔力を纏わせただけなんだけど、思惑通りの結果になって大満足。技を叫んじゃう時点で結構痛いけど誰も聞いてないから大丈夫だよね?


「しかし強すぎるな、これ。やめておくか」


 このまま行くとこの森事態が消滅しかねない。しかしそれで今の魔力の流れが改善しなかったらまったく意味が無いだろう。ここは大人しく敵を倒しながら進むしかない。幸いにも敵の数はかなり減ってきている。


「戦えそうか?ヤミナ」


 僕の言葉に頷いて答えを返すヤミナ。手には既に長さ一メートルほどの杖を構えている。


「魔力の方は大丈夫なのか?」


 こくこく、と頷く。どうやら魔力の方も大丈夫そうだ。これなら援護は任せても大丈夫そうだ。

 ヤミナに目で合図して前の集団に突っ込む。

 狼型の魔物が口を開け噛み付いてくるのを身体をずらしてかわすと同時に刀を叩き込む。左右から襲ってくるオークの棍棒を片手で受け止め、返す刀で両断する。後ろから来た魔物にはヤミナが炎の槍が突き刺さる。

 先程より小さくなっている気がしたけどどうやら魔力の節約のためらしい。ヤミナもヤミナで結構チートっぽい気がする。順応性とか。


 そんなこんなで魔物を蹴散らす事一時間あまり、ついに最後の一匹となったゴブリンに刀が深く突き刺さる。一度周りを見渡して確認する。

 うん、どうやら群れからは逃れられたようだ。というより全滅したのかな?


「どっちにしろ助かったな。しかし流石に疲れた。どこかで早く休もう」

「   」


 ヤミナも杖に身体を預けながら頷く。結構ヤミナにも助けられたな。しかしさすがはヤミナ。僕の一瞬のアイコンタクトに合わせるとは、只者ではないな。まあ、僕のパートナーなんだけど。

 そんなことを思いながら歩いていると正面に大きな、それこそ大の大人が十人は集まっても届かないであろうかと思うほどの太さの幹を持つ木が見えてきた。灰色なのが残念だけどだがはるか上空には沢山のたくましい枝が空を隠さんと思う限り伸びていてその先に生い茂る葉は木の生命力を現していた。


 「あそこなら流石に魔物も来ないだろう。今晩はあそこに決定だ。ちょっと行ってくる」


 言うが早し、天高くそびえる灰色の木のてっぺん目指してジャンプする。もちろん本当に頂点に行くのではない。行けるけど。目指すのは程よい高さにある太い枝。これくらいの大木ならちょっとやそっとの重さでは枝は折れないはずだ。たぶん。

 数十メートルは跳んだだろうか。ようやくお目当ての太い枝を見つけてそこに飛び乗る。かなりの太さを誇る枝らしく横になってもなおまだまだスペースがある。ひょっとしたら小さな宿屋の部屋くらいひろいんじゃないんだろうか。そして無限収納から市場で買ったロープを取り出し枝に結ぶ。しっかり結べたかどうかを確認してそれを伝って下まで降りる。


 降りた先ではヤミナが早くも目に涙を溜めていた。ろくに説明しないまま跳んだのだからてっきり見捨てられたのかと思ったのだろうか、そんな事は絶対にしないのに。

 しかしこのままではなんだか彼女に悪い。なのでヤミナの頭を撫でながら、


「ごめん。きちんと説明してなかったから。怖くなかった?」


 これは僕の中のテレビや小説、漫画で収集した知識を最大限に生かした結果生まれた台詞だ。もしもこの場に普段の精神状態の僕がいたならばきっと顔をしかめながら拳を握り締めていつでも殴りかかれるような体勢できっとこういうのだろう。


「うわぁ、ひくわー。中二乙」


 と言ったに違いない。だが生憎とここは異世界で彼女はぶっちゃけ僕の奴隷なのである。中二とかそんな事は関係ないはずなのだ。・・・きっと。

 無事ヤミナも回収してロープを使って大木の枝へと移動する。因みにロープは一本だととてもじゃないが上るに大変なのでテレビでみたサバイバル番組の知識を思い出しながら片足を入れて上り下りが出来る結び方を四苦八苦しながら再現した。結構上手く出来たと自負している。


 枝の上でさすがに火を焚く事は出来ないので「コッパー&コフィン」で買ってきた魔法のランプ(照明)をヤミナに使い方を教えてもらいながらつける。教えてもらって一瞬でランプが付いた事に関しては、ドヤ顔で教えてくれたヤミナが頬を膨らましてむくれてしまったと言う結末だけを残そう。

 ヤミナの機嫌を直すために無限収納から様々な食べ物を取り出して並べてゆく。中でもヤミナが目を光らせたのはミルの足の部分を香辛料などを使い香ばしく焼いたもの。今にもよだれが垂れてきそうな気配を見せて僕に訴えかけてくる。このまま何も言わずにヤミナの可愛い反応を楽しむのも良いけれど残念ながら僕はそこまで外道にはなれない。ので


「食べても構わないよ」


 とあっさりと許すのであった。だって可愛いんだもの。と口いっぱいにミルの肉を頬張るヤミナを見ながら思う。


「ほら、もっとゆっくり食べないと、肉は逃げないよ」

「  !  !」

「分かった、分かった。大丈夫、好きなだけ食べて良いんだら急がない。だいたい女子ががっつくなんて、それに肉に。確かに腹が減ってるとは思うけどいままだって散々食べてきたじゃ・・・って話聞いてる?」

「   」

「あっそう。話し聞くくらいの余裕は持っててよね・・・ま、別にいいか。さて、と。僕も食べようかな?ヤミナのおススメは?」


 下に魔物が群がっていようが関係ない。今はヤミナとの楽しい食事タイムなのだ。誰にも邪魔はさせん。そうおもって殺気を放っていたのが功を制したのか魔物はまったくといって良いほど近づいてこなくなった。

 

 慌ただしい食事を終え、後片付け(無限収納に放り込むだけ)を済ませてから寝転がって今日の出来事を思い出していると僕のすぐそば、手を伸ばさなくても届いてしまう距離にヤミナが近づいてきて僕と同じように横になった。

 やがてどちらからだろうか、互いの指と指が絡み合う。言葉はなくても目と目を見るだけで十分だった。

 時折手を動かして互いの存在を肌と肌で確かめあう。主人と奴隷じゃない。僕という存在とヤミナという存在。その二つが互いの存在を欲していた。情熱的に絡み付いてくるヤミナの手に応えるように指を絡める。肩を抱いて彼女を胸に引き寄せる。互いの鼓動を感じながら僕らは長い間抱き合っていた。

 どれくらい経ったのだろうか分からないけどいつの間にか僕らは深い眠りに落ちていった。最後に覚えているのはヤミナの幸せそうな顔。

 


レーベルベアー

 背中にレーベル茶の原料となる茶葉が生い茂っている珍しい熊。

 ただし非常に好戦的で時には徒党を組んで襲い掛かってくる。戦闘力もかなりのものでランクⅧ以上の冒険者でないと太刀打ちできない、といわれる。それゆえにレーベル茶は高級品とされまた一流冒険者の証とも言える。

主な生息地域 灰色の森 涙の砂漠


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