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第一章 十三話 男ばっかりかと思って最後にサービスがあります。

閲覧ありがとうございます。

太陽の光を浴びると白く光り輝く特殊な石「白碧石」を用いた城砦を築いているブレイズ王国の南端に位置する白真珠の町と呼ばれる、コルキ。ここは昔(といっても十年ほど前だけど)軍事基地として建てられた場所で町は当時の面影を残すように広い道路に碁盤の目のような規則正しく整備された区画がある。

 そのなかでも中央区と呼ばれる商人たちがひしめき合っている区画は毎日がお祭りかと思うほど賑わっている。僕はこの世界に来てまだ一週間もたっていないけれどこの中央区の喧騒が結構気に入っている。なんだか縁日に来たみたいで心が躍る。適当に店を冷やかしながら様々な商品を見るのはなかなか楽しい。

 もっとも、隣で僕の着ているコートの裾をがっしり掴んでいる少女は苦手な様子だけれども。反対側にいる商人のルークはかって知った場所のように人ごみの中を悠々と歩いて商品を手にとっては値引き交渉を簡単に成功させてゆく。


「干し肉に果物の瓶詰め、それにロープにナイフ・・・ああ、火打石もいりますね」

「はは。僕はまったく分からないんでルークに任せますよ。ヤミナもそれでいい?」

「   」


 僕の問いかけに相変わらず後ろで僕の裾を掴んでいるヤミナはこくこく、と頷いて返事をする。どうでもいいことだけどあれだけ帽子を深く被って前が見えるのだろうか。・・・まさか躓かない為の僕なのか?帽子は被っていて顔が綺麗に見えないけれどもそれでもちらりと見える細い顔の輪郭は僕の基準で言うとかなりの美人だ。こっちの人はどうかは分からないけれども。ヤミナは近くの露店が本を出しておりそれを穴が開くほど見つめていて店の人も困っていたので購入し嬉しそうにしていた。本は何処にでもある御伽噺の様な物みたいだったけれどヤミナは本が凄く好きな様子で宿屋でも暇があれば本を読んでいる。今は転んだりしたら大変なので僕の無限収納の中に預かっているけれど。


「しかし、ショウさんの冒険者鞄はほんとに物が入りますね。そんな凄い性能のものを一体何処で?」

「いや、たまたまこの市で見つけたんですよ。見た目はぼろいですけどびびっときまして」

「なるほど。流石はショウさん。目の付け所が違いますね。商人としての才能もあるんじゃないんですか?」


 いやいや、そんな才能はないですよ。あったら元の世界ではアルバイト漬けの生活じゃないはずだし。それにコートの中に仕舞っているポーチのような形の鞄。これはルークたちには一流の冒険者なら持っている見た目以上に沢山物が入る便利道具の冒険者鞄だと説明しているけれど本当はポーチの内部にスキル「無限収納」を発動させているだけだ。ま、沢山入れれることでは冒険者鞄とそう変わらないけれど一番の違いは生ものを鮮度を保ったまま保存ができる、という事だろう。このことは二日前に依頼で熱々の中華スープのようなものを運ばなくてはならないときに運よく発見した事でそれ以来、ポーチの中には新鮮な果物や調理済みの料理を市で見つけては無限収納に仕舞っている。さすがに鮮度を保つ、という事は冒険者鞄といえども出来ないそうなのでこのことも暫くは黙っている事にする。

 その事はしらないルークはもしもの事があったらいけない、とのことで保存食のミルという牛に似た動物の肉の燻製や何かと便利なロープ、清潔な布切れを幾つか等と手早く準備を済ませていく。

 僕は誰も立ち入らないような森に入って行って泊まりこみで調査、なんて元の世界で聞いたら卒倒ものの行為なんてしたことも無いので経験がある人物がいて助かる。・・・ルークはひょっとして経験者なのか?そう思って聞いてみると。


「そんな事はないですよ。ただ、私たちのような旅商人は何時何があるか分かりませんからこういう備えをするのは必要なんです」


 との事。こっちの世界の人たちはやはりというか強いな。精神的にも肉体的にも。依頼を受けて街中を見て回ったけれど凄く感じた。家を建てている人たちも畑で作業をしている人たちも家で裁縫をしている人たちも何だか活気が溢れていた。生きる気力というかなにかそんな力を感じた。西の方の歓楽区なんかは回ってないのでそっちの方は分からないけれど。


 そうこうしている内に荷物の方も殆ど準備し終えた。後で改めて確認するとして少し小腹がすいたな。ルークのお陰で今日は一日中準備に終われるかと思ったけど半日ですんだ。お礼も兼ねて何かおいしいものをご馳走しなくちゃ。



「ルーク。お陰で準備も速く終わりました。よろしければ一緒に食事でもどうですか?」

「おや、もう構わないのですか?ふむ、私も丁度小腹が空いていたんです。なにか良いところがあれば行きましょう」


 僕が知っているのはせいぜいフランスパンよりも硬く平たい掌ほどの大きさのパンに厚切りの肉を二枚のせ、キャベツのような野菜「キポール」を刻んだものをたっぷり盛って、その上から甘酸っぱいたれをたっぷりとかけたその名も「ハムさんど」が有名な屋台と先日アッシュに連れて行ってもらった(無理やり)東区にある店「リトルウィング」くらいか。屋台は流石にどうかと思ったので東区の料理屋「リトルウィング」に案内する事にした。

 ヤミナは嫌かも知れないけれどここは我慢してもらうしかないだろう。なに、もうあの人たちはこの町にはいないのだから大丈夫だろう。


 リトルウィングではなぜかギルドマスターのヴァン・フォルトがいて、こちらを見つけるとその大きな目に一杯の涙を流しながら感謝の言葉を叫んできた。店にも迷惑がかかるので彼には一旦落ち着いてもらって気にするな、という旨の言葉を伝えた。また泣いていたけれど流石にもう放っておいた。なんだってヴァンの机をみると既に空になった酒のビンが所狭しと置いていたから。酔っ払いにはろくな思い出が無い僕なので出来るだけ関わらないように席を遠く離れて所にとって食事をした。

 店名に似合わず合いもかわず中華料理が出てきたがとれも絶品で三人ともお腹も心も満足して店を後にした。その後は時間が空いたので僕は宿屋「小鳥の囁き」の裏庭を借りて武器の素振りや型の練習、ヤミナは魔法道具店「コッパー&コフィン」へと魔法の勉強に。ルークは用事があるとのことで北区の商人ギルドへと出向いていった。


 一人になって精神を落ち着けてから腰に差してある刀を抜く。大人二人分はある刃が日を受けて鈍く光る。

刀を構えたまま僕は身体の中心に意識を持っていく。中心部から魔力を徐々に身体全体へと渡らせ、無属性魔法の一つである「身体能力強化」のスキルを発動させる。魔力を身体全体に流すたびに力がわいてくるのが実感できる。練習初日はあまり上手には出来なかったけれど今なら能力を約十倍まで上昇させる事ができる。

 十倍まで引き上げても全然余裕なのはやはりというか僕のもっていた力の影響なのか。


 身体能力強化を維持したままで刀を構えて振るう。頭の中で刀を振るう姿、刀の持つ角度、刀の軌道をイメージしてより早く、より強く刀を振るう。今此処に姿見があったならば僕は自分の刀を持ち振るう姿に惚れるであろう、それくら完璧な素振りを行っていた。素振りの次は刀のスキルを試す。試すのはスキルレベルⅣになって獲得した「立待月たちまちつき」というスキル。鑑定を行ったところこれは所謂カウンター技として使えるようだった。早速石を上に放り投げてからスキルを使う。


「抜刀術--立待月」


 足を開いて腰を落とし手は刀を持っている左の腰のところへと置く。カウンター技は他のスキルと違ってどうやら発動すると基本的には動けなくなるらしい。その証拠に足を前に出そうとしても動かない。ま、動けてカウンターなら強すぎるし。

 と、そんな事を思っていると石が空から降ってきたようだ。はるか上空まで放ってしまった石は加速をして落ちてくる。その石が丁度僕の目の前に来た瞬間、頭の中に唐突に鮮明に石を斬るイメージが浮かぶ。

 堕ちている石を僕は刀を抜き去り真っ二つにする。身体はブレず刀だけが超高速で鞘から抜かれる。一定の範囲に入ってきた敵を斬るこのスキルは僕自身の能力もあってか石をあっという間に粉々に切り刻み地面に付く前には跡形もなくなっていた。


「まぁまぁ、かな?もう少し範囲を広げれたらいいんだけどそこは練習しかないかな」


 それから二時間ほど抜刀術の練習と色々な構えを練習した。構えに関しては殆ど全部といって良いくらい漫画やアニメからの知識で構えたけれど意外と上手くいって大満足だ。

 時間がたつほど刀を振っていたので気付いたときには汗だくになっていた。僕の着ているこのコートは魔力さえ補充すれば破れた所を直すのはもちろん服に付いた泥や汚れをも浄化してくれる機能があったので重宝している。また防御力もかなりあって生半可な力ではキズ一つ付かない。そんな便利機能付きのコートがあってもやはり生身の不快感は取れないので店主のバーンに言ってお風呂屋さんの場所を教えてもらった。


 「・・・ここか」


 中央区の北側、商人たちがひしめくこの場所にどん、と構えているのがお風呂屋さん。見た目は銭湯そのものでちょっとくたびれた建物に天に向かってそびえる煙突が印象的だ。

 中に入ると店構えとは打って変わり整えられた荷物置き場にぬくもりを感じる板張りの床。人の良さそうなおばさんが番台みたいなところに座っていた。


「ようこそお客さん。浴びてくかい?五十ドーラだ。入浴道具がいるなら一式百ドーラで貸してるよ」

「それじゃ、道具を借ります」

「男湯は向かって右側だよ。武器や貴重品の管理は自己責任だからね。それじゃあ、ごゆっくり」


 向かって右側、「男湯」と書かれたのれんをくぐると荷物置き場に休憩のためのものだろうか、椅子が何脚か見えた。三日ぶりの風呂に僕は胸をなでおろしながら服を脱ぐ。貴重品はもちろん服も無限収納の中に入れる。

 浴場は広く奥の方に人が浸かる大きな浴槽、手前の両側にも大きな木の桶にもお湯が注がれていた。

 みると注意書きがはっている。


「なになに・・・ここは入るところではありません、身体を流すためのお湯です。決して入らないように」


 成る程。まず手前のお湯を使って身体を流してその後奥の方の湯船に浸かるのか。

 そばに置いてあった小さ目の桶を手に取りお湯をすくう。うん、お湯加減は丁度だ。暑すぎでもなくぬるくも無い。身体にかけると程よい温度のお湯が身体を包み込む。足先からじわじわと温もってくる。身体を洗って浴槽に入る。あーっ。やっぱり日本人は風呂だよな。しみるわー。


「んっんー。一つ歌でも歌いたい気分だ」


 調子に乗って歌ったら後で怒られた。調子に乗ってすいませんでした。お風呂に入ってすっきりした後はヤミナを迎えに行く。お風呂屋さんから南下して少し東の方へと行くと魔法道具店「コッパー&コフィン」が見えてくる。相変わらず客は少なそうだったけど商売は大丈夫なんだろうか。


「や、クレモンド」

「ん?ショウか。ほれ、ヤミナ。今日の授業はこれで終わりだ。ほら、君のご主人様の到着だ」

「   !!」


 店に入るとカウンターのところで店主クレモンド・ネイビーとヤミナが向かい合って本を読んでいたけれどなぜかヤミナの方は顔が赤い。薄暗い店の中でもはっきりと分かるくらい赤かった。何かあったのだろうか。


「どうかしたのかヤミナ。顔が赤いようだけれど」

「    !!」

「うむ、それというのもな・・・」

「!!」


 何かを話さそうとするクレモンドの口を押さえようとするヤミナ。だがいかんせんクレモンドの口には背が届かない。すると次は視線で訴え始めた。今にもこぼれそうに成る程涙を溜めて訴える。端から見ればかわいらしいしぐさだけれど見られる側からすればこっちが悪い事をしてる、と思うほど保護欲と共に自己嫌悪に晒される瞳についにクレモンドも耐えられなくなって、


「わ、分かった、分かった。このことは誰にも言わない。神の名に誓って約束しよう」

「あの・・・一体何のことなんですか?」

「それは残念ながら私の口からはいえないな、それよりも明日から灰色の森に行くそうだが」


 ううむ、上手い事かわされてしまった様だ。ま、口ぶりからしてたいした事じゃないかも知れないし構わないかな?


「ええ、情報がまったく無いので不安なんですが」


 なにしろ聞けば聞くほど訳が分からなくなる森なのだ。黄金の蝙蝠や石の仮面が出てくる森には確かに行きたくないしな。


「ふむ。残念ながら私も詳しい事は知らないな。なにせあそこは魔物も通常とは違う種類が出ると聞く。気を付けるに越したことは無い。なにが起こるかは分からないからな」

「はい、そうします。さ、帰ろうかヤミナ」

「無事帰ってきたら土産話を聞かせてくれ。上手い酒を用意しておこう」

「それは頑張らないといけませんね。楽しみにしてますよ」


 夜。食事も済まして荷物の確認も抜かりなく終了した。外は日が完全に落ちて人々も家路についている頃合。僕は床に出した大量の準備物を順番にポーチの中へ放り込んでいく。ヤミナの方は部屋に備えられてたテーブルで好きな本を読んでいる・・・はずだった。


「あれ?ヤミナ・・・どうしたの?」

「     」


 何時もなら着替えを済ましてすぐに本を読み始め、読み終わるまで集中して話しかけても反応しないほどなのに今日はなぜか白いローブを脱がず本を読んでいてもきょろきょろして、本を置いて立ち上がったかと思えばすぐに座る。なんてことを繰り返していてなんだか落ち着かなかった。最後の方には本を置いて僕の前と机の前をぐるぐる回っていた。


「なにか忘れ物?今なら店も開いてるみたいだけど・・・」

「!  」


 僕が話しかけると顔を真っ赤にさせて首をぶんぶん、と横に振る。そしてまた机と僕の前をぐるぐると回る。


「大丈夫かい?何かあったのかい」


 僕が何を聞いてもヤミナは顔を真っ赤にさせて首を横にぶんぶんと振るだけ。おかしい。明らかに挙動不審だ。なにか悩みがあるのかもしれない。それも結構重大な悩みが。一人の人間として、またヤミナのパートナーとして悩みを聞いてやるのは当然の事だろう。ただしこのとき僕も普段見ないヤミナの行動と風呂上りの彼女からの香りに若干頭のネジが吹っ飛んでいたことを先に説明しなければならない。


「まあ、ヤミナ。落ち着いてここに座りなよ」

「  !!」


 ヤミナは「これが落ち着いていられるものですか?!」みたいな表情をしているけれどそこは黙殺して僕の前に座らせる。ヤミナは僕の顔を見たかと思ったらすぐに下を向いてしまった。


「いいか、ヤミナ。僕は君の事を信頼してるし大切なパートナーだと考えている。だから何か悩んでいるときや心配な事があるときは遠慮せずに言って欲しい。君は僕の大切な人だから」

「!!」


 ヤミナは「なんでそんな事を平気な顔でいえるのよ!」と言いたそうな顔をしていたけれど残念ながら僕は今超かっこいい台詞を言えた。と満足しているので彼女の訴えは届かない。

 ヤミナは暫く僕の顔を睨んでいたけれどやがてきびすを返してベッドに潜り込んでしまった。


「ちょっと?大丈夫なのか?・・・ま、あれだけ元気なら心配ないか」


 何だか僕も眠たくなってしまったのでベッドにもぐりこむ。この広いベッドならいくらやみながスペースを取ったとしてもまだまだ余裕がある。僕は何時もの定位置、つまりは端っこの方へと身体を寄せる。初めの方は地面に落ちてしまうこともあったけれど今ではベッドが揺れても、たとえ吹き飛ばされそうになったとしても落ちない自信がある。


「さて・・・おやすみ・・・ん?」


 ベッドの中に手を入れると何かやわらかな感触があった。何だこれは、それに凄く暖かい。そして手に絡み付いてくる。まさか何かの生物兵器なんじゃないだろうか。いや、それはないだろう。だいたいこの町でさして有名でもない僕を狙って何の得になるというんだろうか。とするとこの暖かな物体は。


「もしかして・・・ヤミナかい?」


 声を掛けると布団の上の方が縦に揺れた。そこにヤミナはいるのか。ってか近いな。構わないけど。

 この正体はヤミナの手だったのか。しかし何で手を握っているのだろう。何時の間にかそんなフラグを立ててしまったのか。恐るべきは、僕の才能か。いや、才能なんて無いけれど。

 しかしこうも女の子の手を握っているのはなんだか照れてくるな。ヤミナの方は力を緩める気がないのかずっと力が篭っている。こんなんじゃ僕の方から離して、なんて言えやしない。しかたがないので、手をつないだまま寝る事にした。ちょっぴり気恥ずかしいけれど、何だか嬉しかった。


因みにショウが本を読んだりできるのはスキルのお陰です。今まで働かなかったのは無意識にストッパーをかけていたからです(無理やり)

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