好きにしろ(仮)青春編
「此処か」
緑のブレザーを羽織った金髪つんつん頭の少年が『タマムコガネシティ東区第一魔法高等学校入学式』と書かれた看板の前に立っている。
「ああ、此処が俺達が通う事になる魔法高校だ」
後ろから同じ制服の黒髪短髪少年が歩み寄る。二人とも一見普通の学生だ――黒髪短髪少年の腰には刀が差してあるが。しかも両腰に一本ずつ。
「――ああ、大丈夫だ、ああ」
「如何したリーダー、何かおかしな点でもあるのか?」
「なあ剣人、学生が武装している点についてどう思う?」
「魔法高校には魔戦部と言う部活があり、その部では魔力武具を用いてルールを用いて試合――戦闘を行うと言う。別におかしくはあるまい」
黒髪少年――剣人は何でも無い様に、それこそ常識の様に語る。
「そうか……じゃあお前はその部に入るのか?」
「何を戯けた事を……俺にルールのある戦が出来るとでも?」
「何の為に武装してんだよお前は!? 部活しねえし出来ねえなら何で帯刀してんだよ!?」
「有事の為に決まっておろう」
ついに抑えきれなくなったリーダーの激しい突っ込みに対して剣人は何を言っているんだと言わんばかりの表情で返す。
「有事!? お前は学校生活で何が起きると思ってんだよ!?」
「もしかしたら、テロリストがやって来るかもしれんだろう? その際、俺の刀が二本あればリーダーも戦闘に参加できる」
「どんな確立だよ!? つーか起きねえよそんな事! お前漫画でも読み過ぎなんじゃないか!?」
「ニュースを見て、各地でテロ活動が起きているのを見れば誰でもそういう最悪の事態を想定すると思うが」
「そんな心配すんのは近くにそう言う連中が居るって噂が出てからにしろよ! ってか、そう言うのは教師に任せろ!」
リーダーは軽く息切れ気味に叫び終えると呼吸を整える。
「落ち着け、リーダー。早瀬飛風ともあろうものが、そんな人任せにするなどある訳が無かろう?」
「冷静に分析するな! 確かにそうだけど、だからって落ち着けって言うところ確実に違うだろ!?」
いい加減校門で激しい漫才が繰り広げられてるのに他の新入生達が不思議そうに見ている。その視線に気付き始めたリーダー――もとい飛風は剣人の襟首を掴むと。
「ああっくそ! 一先ず後だ、行くぞこの馬鹿野郎!」
「リーダーよ、一先ず落ち着け。ふむ、俺としたことが鎮静剤を忘れてしまった」
「俺は胃腸薬を忘れたよ! くっそ、こいつと同級生なんてもう完全にこれ罰ゲームだろ!?」
叫びながら校門を突き抜け桜舞う校庭の中を駆け抜ける。と、途中で足を止めて周囲を見渡す。
「落ち着いたか、リーダーよ?」
「てめえが言うな、とは言いたいが一先ず置いとくよ。そういや入学式ってどこいきゃ良いんだ? 俺、学校なんて高校が初めてでわかんねえ」
「校舎の入り口に行こう。そこに新入生への案内があるはずだ」
飛風は剣人の意見に頷くと歩き出す。
「そういやお前、普通に制服きてんのな。戦闘服以外着そうにねえのに」
「ん? ああ、意外と快適でこちらも助かる。動き易い、これならいざという時に遅れは取らんよ」
「聞いた俺がバカだった」
飛風は歩きながら剣人の台詞にそう返す。
「何より小物入れが多いのは素晴らしい。砥石を多くいれられる」
「てめえはそのポケットになにいれてんだ」
「無論、刀の整備道具に決まっているだろう?」
そう言って砥石のセットを見せる友人に飛風は眩暈を覚える。
「……授業中に磨くなよ?」
「ふ、心配無用だ。授業中に見つかるような下手は踏まんよ」
「おうりゃぁ!」
飛風は思いっきり振りかぶって剣人を殴りつける。剣人はそれをすれすれで回避。
「リーダー、殴る時は殺意でも込めてくれ。避け難い」
「手前は人の突っ込みに殺意もとめんのか!? っつか込めたいがそこまでいかねえよ!?」
「だが込め過ぎるのも問題だ。思わず反撃してしまうからな」
「お前の求める突っ込みはどんだけ繊細なんだよぉッ!?」
飛風はいい加減喉の渇きを覚えながら絶叫し、続けて裏拳を送るが剣人はそれを受け止める。軽い衝撃が生まれるがそれだけだ。
「ふむ、軽い。リーダーよ、攻撃としてぬるいぞ?」
「ただの突っ込みに何もとめてんだ手前は!?」
と、飛風はお望み通りの全力パンチを打とうとした所でその拳に手が添えられる。見れば、剣人が飛風の拳を止めていた。思わず飛風は剣人を睨み。
「何すんだよ?」
「俺としては別にそれは一切構わんがこんな所で全力で殴りかかってはただの喧嘩だろう? そんな事をすれば悪目立ちするし、教師達からも悪い意味で要注意人物と捉えられる。リーダーは一応地方からの留学生と言う扱いなのだ、今此処で問題を起こすのは如何なものかと思うぞ」
と、剣人は冷静に正論を説く。いや、此処までの経緯を見れば多分誰もが『お前が言うな』と言うだろうがその辺りは置いておこう。
「何より今のリーダーは丸腰だ、それでは満足に俺と戦えまい? 一先ずはその怒りを収めてくれないか? しかし、何故リーダーがそこまで怒っているのか、理由が分からん」
「やべぇ、こいつ半殺しにしてぇ……」
飛風はあらゆる感情を押し殺してそう呟くと拳を収めた。と言うか、飛風が丸腰だと言う点以外に気にするべきポイントがある様な気がするのだが。飛風は兎に角忘却を行う。そうでもしないとこの馬鹿を本気で殴り飛ばしそうだったから。
「ハァ……じゃあ、とっとと校舎の入り口やらに行こうぜ。何処だかわかんねえけど、他の連中についていけば良いんだよな?」
「概ねはな。それに雑談やらで時間を食いすぎた、少し速めに行った方が良いかも知れんぞ」
「手前が言うな……!」
飛風は万感の皮肉をこめて呟くと早足で剣人と肩を並べて歩き出す。
桜が舞う道を歩き、やがて複数の校舎に続く広場に出る。そこには多くの人が集まっていたが、飛風は何よりも思わずその校舎に目を奪われる。校舎の外見は西洋の屋敷を意識した作りとなっており、ぱっと見れば御伽噺に出てくるような魔法学校と呼べる様なデザインだ。
「でっけぇ……」
「東区第一魔法高校は新築したばかりの校舎らしく、そのときデザインを現在の様な西洋の屋敷風に改築したらしい」
「へぇ……なあ、俺らはあそこで勉強するのか?」
飛風は歩きながら目の前に聳える校舎を指差す。
「ああ、そうなる。後リーダーよ、あまり首を回さない方が良い。田舎者と見られて変なトラブルに巻き込まれるかも知れん。全く、厄介な話だとは思うが」
「お、おう」
言われた飛風は勤めて前だけを見るようにする。と、校舎の入り口付近で溜まっている集団を見かける。
「なあ、あれは何をやってんだ? 魔法学校の高校って義務教育とかで試験とかないって聞いたけど」
「ん? ああ、単純に一ヶ月近く久しぶりに会ったから、再会の祝いだろう。しかし、リーダーがそれを知っているとは驚きだ」
「流石に知ってたよ。だから編入に試験があるなんて聞いた時はびっくりした。てっきり、頼めばそのまま素通りできるものかと」
「学歴の無い人間を、しかも学校なぞ無い村からの留学生を入れるのに何もしないと言う訳には行かないだろう。所謂通過儀礼の様なものであり、確り勉学を修めていれば無いも同然のもの――もっとも、リーダーはそれさえなかった訳だが」
「ま、その時は十分過ぎるほど世話になったよ。お前に勉強を教えられる日が来るとは思ってなかったがな」
飛風はしみじみとそう言った。
「ふむ、そもそも教育機関さえない村で育ったリーダーと、生まれ自体は都会の俺だ。学力に差が出てもおかしくはあるまい」
「何でだろう、お前が言うと激しく殴りたくなる」
飛風は剣人の意見に妙に納得できなかった。そして、二人は校舎へと入っていく。
ども、やーです。
やっと出せたよ飛風! 作者の原点とも呼べる好きにしろ(仮)の男主人公! 彼は作者が十年も前に製作したキャラで皆のまとめ役、故にリーダー。
無論、いつかは連載する。彼らの物語は汗臭く泥臭いが個人的にはこの物語を書かねば私は死ねぬと思うほどだ。だが、今はしない。まだ終わっていないものがあるからね。
どうしても並行連載を望む声が多ければやるがね。
じゃ、神剣の舞手で会おう。