あやふや
短編です
すやすやと規則的な寝息を立てる彼女を起こしてしまわない様に、十分に気を付けつつ、彼女をベッドに寝かせた。
ボタンを押すと、ベッドが動き出し、機械に飲み込まれていく。
寝返りなどで動いてしまわない様に、少しだけ体を拘束したけれど、痛くない程度に抑えているから、彼女は良く寝ている。スキャンする間だけ、動かないでくれ、と切に願う。
機械が想像以上に大きな音を立てて動き出す。でも彼女は目を覚まさない。あの薬の効果は確かなようだ。
ゴウンゴウンと機械の音が響いた後、データが俺のPCに送られてくる。彼女の頭の先からつま先までのデータが、すべて、俺のパソコンに送られてきていた。
ようやくだ。これでようやく彼女のデータがすべてそろったんだ。
技術が進んだおかげで、CTとMRIを組み合わせたこの機会は、金さえ払えば一般人でも扱えるほど簡単で安全な代物になった。おかげで彼女の内臓まで丸見えだ。
手に入ったデータに欠損などがないかをしっかり確認し、俺はそのデータを3Dプリンターに送った。
本当は、彼女をそのまま標本か剝製にして、一生を共に過ごすつもりだったのだけれど、彼女は俺の好意をやんわりと拒否した。
俺は紳士だから、怒りのままに彼女を殺したりはしない。俺の好意に応えてくれない可能性だって織り込み済みだ。俺は様々な準備を整えて彼女に告白したんだ。うまくいかなくたって別に問題ない。
データを読み込んだ3Dプリンターが出力を始めた。
この作業には時間がかかるから、今のうちに彼女を家に送る。もちろん送り狼なんてことはしない。彼女のピンクでそろえた可愛い部屋の中の、可愛いベッドの上に寝かせて、鍵をかけた。
「さようなら、俺の愛しい人」
俺は彼女の家の鍵のスペアを家に帰って熱して溶かした。だってどこかに捨てて、誰かに悪用されたら大変じゃないか。
機械的な3Dプリンターの音が響く。帰ってくる頃には“彼女”の下半身が完成していた。徐々に“彼女”が姿を現していく。
次第にせり上がりながら“彼女”が完成していく様に見入ってしまって、時間の経過に気づかなかった。
外が明るくなってきた。徹夜の目に、白み始めた空の明るさが沁みてくる。ついに、俺は彼女を本当の意味で手に入れたんだ。一生を共に過ごしてくれる、そんな夢のような“彼女”を。
ピー・・・。
3Dプリンターが動きを止めた。
完成した“彼女”は、神のようだった。美しい。滑らかな肩の丸み、しなやかについた筋肉、ふっくらとしているが大きすぎない体に見合ったサイズ感の胸、程よい太さの太ももから膝、ふくらはぎにかけてのライン、少し幼さの残る少し丸みを帯びた顔・・・。
完璧だ・・・。全てが完璧だった。
俺はそっと“彼女”に近づいて、そっと触れてみた。プラスチックでできているはずなのに、柔らかい。まるで本当にそこに彼女がいるようだ。いや、いるんだ。俺の目の前に。“彼女”が。あぁ、なんて素晴らしい日だろう。今日を世界的に祝日にすべきだ。
窓から差し込む朝日が俺を祝福しているようだった。
——コレでずっと、一緒だね——
あぁ、そうだ、君に似合いそうな服を準備したんだ




