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第2話 『魔物調教師』

「あ、スライムだ」


「うん?」



街へと移動中、特に目立つわけでもない街道のど真ん中にソレはいた……

タロウ少年曰く、『すらいむ』……という生物らしいが、見た目はゼリーの様な軟体生物系か?

色はとりあえず緑で、何やらウニョウニョと蠢いている。


タロウ少年はそれを見て、おもむろに剣を鞘から抜いた。

ちなみに彼の鞘は背中に装備されており、そこから剣を片手で取り出してタロウ少年は両手持ちで構えたのだ。

そしてタロウ少年は、そのまま剣をスライムとやらに振り下ろす。



「~!?」



ブチュッ!と柔らかい物を斬ったような音が鳴り、スライムはいとも簡単に両断された。

そのまま、スライムとやらはプルプルとふたつに別れて震えている。

われはそれを見て、至極純粋な意見を述べる。



「……タロウ少年よ、このような無害そうな存在に対して、いきなり剣を振るうとはどのような恨みあっての所業か?」


「ただのスライム討伐にまさかの説教!?」

「コレ、一応人間に危害を加える魔物モンスターですよ!?」



危害……? このようにただプルプルしているだけの無害そうな生き物がか?

どう見ても、ただ地面を這っていただけではないのか?



「何と惨たらしい……まだ何の罪も犯してないというのに、このような仕打ちを」


「たかだか経験値1の魔物倒しただけなのに!!」


「タロウ少年よ! 世の中に死んで構わぬ軽い生命などは無いのだ!!」

「おのれ……! 我に本来の力があれば、こんな傷すぐに治してやれるものを!」



我は口惜しく唇を噛むも、両断されたスライムはただプルプルと震えていた。

すると我の体は突如輝き、両手から謎の光が発光される。

その光を浴び、スライムは別たれた体を再生させて再びひとつに戻った。

気が付けばスライムは、元の姿になってまたプルプルと震えている。



「おおっ、何故か元に戻ったぞ!? よき事だ……安心したぞ♪」


「何で!? 一体何の光ぃ!?」



タロウ少年は心底驚いていたが、我はとりあえず無視してスライムに触れてみる。

とてもプニプニしており、何か癖になりそうな触感だった。

そしてスライムはウゾウゾと地面を這いながら我の体に這い寄って来る。

我はその独特な感触を感じ、思わず呻き声をあげてしまった。



「あんっ! これ……! そのような……んっ! いかんぞ?」

「ああっ! 胸は……! 感じやすく!! んんっ!?」


「もはやエロゲーだよ!! 早速襲われてるじゃねぇか!?」



我は一瞬何かに達しそうになるも、何とかスライムを引き剥がした。

体がヌラヌラとして艶々しているが、果たして大丈夫だろうか?

とりあえず、スライムは何やら嬉しそうな感じで蠢いている。

我は何となくそんなスライムの感情を読み取り、その遺志を汲む事にした。



「ふむ、我と一緒に来たいのか? ならば共にこう……断る理由は無い」


「~~~♪」


「まさかの勧誘!? 駆け出しからそんなすぐに能力開花するか!?」




『おめでとう! アルは魔物調教師モンスターテイマーにクラスチェンジした!』



突然、何処かで聞いたような効果音が頭の中に流れ、我の視界に何やらメッセージウインドウが浮かび上がっていた。

それによると、我は『魔物調教師』という職業ジョブになれたようだ。

同時に新たな力が沸き上がるのを我は感じる……成る程、このように成長していくという訳か?



『~~♪』



スライムもプルプルと更に蠢き、全身で喜びを表現しているかのように見えた。

とにかく、これで新たな仲間が増えたわけだな!



「ふむ、折角仲間になったのだ……どうせならニックネームのひとつでもつけねばならぬな!」


「既に魔物調教師として自覚している!? さっきまで無職だったはずなのに!! てか駆け出しから直でクラスチェンジ出来るモンなの!?」



そうやって叫ぶタロウ少年を余所に、我は人生初のニックネームに悩んでいた。

これまでそんな事をする事は1度も無かったからな……



(しかし、ここは初めての名付け……どうせなら可愛いニックネームをつけてやらねば!)



そんなこんなで我は今まで蓄積した全ての知識を総動員し、スライムのニックネームを捻出する。

そしてスライムの姿を見て、我は一世一代のニックネームを思いついた。

我はその名を小さく呟く…



「……プリンちゃんだ」


「いや、どっちかっていうとゼリーじゃ……」


「プリンちゃんだ」


「いや、だからゼリ……」


「プリンちゃんだ!」


「………………」


「プリンちゃんだ!!」


「反論してないのに追求された!? どんだけ拘りあるの!?」



……とそんなバカなやり取りに反応してなのか、プリンちゃんは声を発せない体でありながらも、全身で喜びを表現する。

しかし、その後プリンちゃんは妙なエフェクトと共にその場から消えてしまった。

我は突然の事に思わず慌ててしまうも、すぐに目の前で答えは出される……



『スライムを魔物図鑑に登録しました』



そんな謎の声……と共にまたメッセージウインドウが開かれていた。

さっきのは女性的な声だったが、一体誰の声なのだろう?

今のはどうやらタロウ少年には聞こえていないようで、我にだけ理解出来る声のようだ。

つまり……これも職業の特性といった所か?



『スライム:スライム系 属性:水』

『世界で最も弱いモンスター、しかし食べた物は全ての自らの力とし、長い目で見てあげればとても強くなるかも?』



……と、どこぞの図鑑みたいな口調で説明される。

ふむ、とりあえずプリンちゃんはどこかに転送されたという事か?

ならば、我の意志で呼び出す事は可能……?



「よし、ならば改めて現れよ『プリンちゃん』!」



我はそれっぽく腕を前にかざして叫ぶと、突然何も無い空間から魔法陣が出現する。

するとそこから元気そうにプリンちゃんが召喚されるのだった。



「成る程、これは便利な能力のようだ」


「~♪」



プリンちゃんも全力で蠢いて喜びを表現している。

しかし、世界で最も弱いモンスターか……その内凶悪なモンスターに進化でもするのだろうか?



「一応気をつけてくださいよ? 魔物を召喚してる間は常にMPを消費しますんで……」


「む……? えむ、ぴ~……?」



確か『まじっくぽいんと』とかいう名称の略だったか?

主に特殊な技を使うのに必要な数値だと解釈出来そうだが……

しかし、そうなると確かに管理は必要か。

とはいえ、まずはどの位維持出来るのかも知っておかねばな。



「スライムは最弱級の魔物だし、そんなに維持費は高くないと思いますけど……」

「レベルの高い魔物を使役する場合はそれに応じた消費量を要求されるんで、そこは注意した方がいいですよ?」



「うむ、ならばまず限界を知る必要がある。それまでは、このまま前進だ!」



我はそう言って腕を前にかざす。

するとプリンちゃんはのそのそとゆっ……くり、地面を這い始めた。

我らもそれを追ってゆっ……くりと、進む。



「~~~!」


「………」


「……いや遅っ!! こんなペースじゃ今日中に街まで着きませんよ!?」



その様はまさに牛歩戦術……確かにこれでは時間がかかりすぎるようだな……



「ふむ、これは確かに問題か……ならばやむを得まい」

「プリンちゃん、無理をせずにこちらへ来るのだ……」


「~♪」



我がそう言って屈み、両手を開いて待つとプリンちゃんは嬉しそうにこちらへとにじり寄って来る。

そして我の身体を這ってよじ登って来た。

むぅ……この独特の感触は癖になりそうだな。

とりあえず我はプリンちゃんを胸元で抱き抱え、そのまま歩く事にする。

ちなみにサイズは我の乳房とほぼ同じ位だ……重さはそこそこあるな。

そんな我らを見て、タロウ少年はやや戸惑いながらも後頭部を掻いて息を吐いていた。

そして彼はそのまま先頭を進み、我らもその後を追う。

さて、街まではどれだけの距離があるのか?




………………………




「ゆけ! プリンちゃん」


「~!」



プリンちゃんは道中で出会った同族と戦う。

互いに蠢きながら、食うか食われるかの戦いを繰り広げているのだ。

勝負は一見互角だが、我がプリンちゃんを心の中で応援するとプリンちゃんの体は輝き、一気に優勢となる。

そしてそのまま、プリンちゃんは相手を取り込んで(補食して?)勝利した。



『プリンちゃんはLvが2に上がった!』



……と、またどこかで聞いた事のありそうな効果音と共に、プリンちゃんがレベルアップしたのを我はメッセージウインドウで確認する。

とはいえ、見た目からはほとんど変化が見られぬな。

気持ち大きくなったような気はするが……



「しかし許してくれ、か弱きスライムよ……これもプリンちゃんが成長する為に必要だった事、これからはプリンちゃんの一部として共に生きてくれ」



我はそう言って膝をつき、両手を重ねて天に祈る。

あのか弱きスライムに哀悼の意を示さねばならぬからな……

ちなみに後ろでタロウ少年は呆れていたが、我は気にしなかった。



「しかし、思ったより長く維持出来るようだな」


「……そりゃ、あんだけ膨大なMPありゃな」



タロウ少年は何やらボソッとした声で呟く。

ふむ、ならば我のMPとやらはプリンちゃんを維持する程度なら大分余裕があるわけだ。



「つーか、普通は戦闘時以外に召喚しないモンなんすけどね」


「そうなのか? それは、実に寂しいものだな……」



要はどこかもわからぬ場所に入れっぱなしで放置され、バトルの時だけ出されるタイプか。

そんなやり方で果たして魔物が真に懐いてくれるものなのだろうか?

どうせなら、連れ歩いてコミニュケーションを取った方が魔物としても嬉しかろうに……



「……とはいえ、呼び出したい時に呼べないのでは本末転倒か」

「では戻るのだ、プリンちゃん」



我がそう言って手を前にかざすと、魔方陣が現れてプリンちゃんを吸い込む。

そのまま魔方陣は消え去り、プリンちゃんはこの場からいなくなった。



「……ところで、プリンちゃんはどこで休んでいるのだ?」


「さ、さぁ? そんな事考えた事もないし」

「どっか、そういう専門の異空間みたいなのでもあるんじゃないんすか?」



何だ、少年は詳しく知らぬのか…

まぁ仕方あるまい、その内わかる事であろう。

流石にプリンちゃんは言葉を話せぬからな……意志疎通は出来るのだが。

後々会話の出来るタイプと仲間になった時にでも改めて聞いてみるとしよう。



「……ちなみに、街までは後どの位あるのだ?」


「このペースなら、後1時間位かな?」

「ここまで来たら魔物もそんなに出なくなるし、割とすぐに着くかもしれませんよ?」



成る程、流石の魔物も街までは襲わないか。

それともそういう設定なのか、はたまた習性なのかはわからないが。

……というか、ここまでスライムしか見てないのだが、他の魔物はこの辺にいるのだろうか?



「………」



我はキョロキョロと周りを見渡すも、特に何も見つからない。

たまにガサガサと野生の獣やら虫やらが見えるものの、こちらを襲って来るタイプではないようだ。

ああいった普通の動物と魔物は、明確に別物と分類されているわけか。

そうでなければ、人が食するであろう家畜の類いが無くなってしまうからな。



「…………タロウ少年」


「何すか?」



我はついその事を考えてしまい、そして感じてしまった。

今の我は……



「……何か、食べ物は持っているか?」


「はい? えらく急な話っすね……街まで我慢出来ないんすか?」



いや、まぁ我慢しようと思えば大丈夫だとは思うのだが。

我は自分の腹を抑えてやや項垂れる。

プリンちゃんを戻した辺りから、何故か急に空腹になってしまったのだ。

それも明らかに普通の空腹感ではなく、こう……ドッ!と急に押し寄せるような類いの。



「むぅ……まさか、召喚維持の反動か?」


「あ~そう言えば聞いた事あるかも」

「実例が少ないから詳しくはわかんないらしいんですけど、魔物調教師って何かやたら腹が減りやすいとかいう都市伝説的なのが……」



タロウ少年がそんな事を言った瞬間、我はその場で無造作に前のめりで倒れた。

どうやら、予想以上にプリンちゃんの召喚にはリスクがあるらしい……

しかし空腹とはな……神の肉体では感じる事も無かった機能だ。


やはり……今の我は、ただの人の子…………なの、だな。










『優しい神様の異世界転生』



第2話 『魔物調教師』




…To be continued

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