3.告白と旅の道連れ
結局のところ、フェリクスの強さについては驚きはしたものの深掘りはしなかった。
弱いより強いほうがいいからだ。
フェリクスが言いたいなら聞くが、疲れたような表情を見せながらも、それ以上を口に出すこともなかった。
そして、ガスパルならアルに言い含めた内容と同じことをフェリクスに言っていることも予想できる。
「口が軽いやつは命も軽い。余計なことをべらべら振りまくな。詮索もするな、自分がすべきことをしろ」
妙な迫力で、ガスパルのところでしている作業については、口外するなと言われてきた。
てっきり、フェリクスも同じような作業と修行をしていると思っていた。
道理で「同じ日に二人もいらん」と言われるはずだ。
ぬかるんでいた道も、太陽が中天に差しかかる頃には水がはけ、馬車は順調に進んでいく。
なんとか日が落ちる前には風見の丘に着きそうだ。
隣で騎乗して同行しているフェリクスに、今さらではあるが尋ねた。
「フェリクス、なんでここにいるの?」
「分かんねえ」
「なんで?」
「今日はおれがじいさんとこに行く番だったろ? 普通に行って狩りの準備しながら、お前が隣り村に薬草取りに行く話をしたら、ブレイドに荷物を括り付けられた」
ブレイドはガスパルの馬だ。
時折アルに鼻を寄せてくる。
頻繁に世話をしていたアルの匂いを嗅ぐと落ち着くようだ。
長めの栗色の立て髪は、陽光に当たると赤みがかって見える。
フェリクスにも懐いているが、たまに主導権争いをしているような雰囲気を出す。
フェリクスが状況を分かっていない、となると、アルはこの後の段取りをどうすべきなのかしばし考え込んだ。
三年は戻ってはならない自分と、なぜか送り出されたフェリクス。
前者と後者は別の人物からの指示だ。
その両者に意思の疎通があるのかは不明。
シスターレイナは、誰にも告げずに離れろと言ったが、それは何かを巻き込むことを恐れていたようにも思える。
あるいは、アルの無事を願ってのことのようにも。
シスターレイナは、アルに自分が心配していることを告げなかった。
だから、何を案じているのか、正確なところは分からない。
分からないものは仕方ない。
「風見の丘に着いたら、薪拾いが必要だね」
「おー、そうだな。風も強めだし、多めに拾ったほうがいいな」
フェリクスに状況を伝えるしかないと、二人きりになれる作業に誘うと、フェリクスは特に疑問も口に出さず、首肯した。
「じゃあ、おっさんたち。後は頼むぞ」
「任せとけ。お前らが帰ってくる頃には、寝床と食事の用意くらいは終わらせておく」
「馬の世話もしておくから安心しろ」
籠を背負ってフェリクスと丘から見える林に入ると、アルは薪を拾い、フェリクスを見上げた。
十四を超えたあたりから、めきめきと背が伸び、今はアルと拳ひとつ分ほど、背の差ができている。
黒皮に包まれ、細身ではあるが、均衡の取れたしなやかな筋肉で、軽やかに薪を集めている。
「で? なんか言いたいことあるんだろ?」
物心つく前から、隣にいた相手だ。
アルから話があることはお見通しらしい。
「実は三年は街へ帰る予定がないんだ」
しばしの沈黙。
「だから、ちょうどよかった。薬草が不足気味なのも本当だろうし、フェリクスが届けてくれないか?」
「な、んでだ!?」
「う、わっ」
薪を拾うのに適度に離れていた間を一瞬で詰められ、ガッと両肩を掴まれた。
「お、落ち着けって。そりゃ、フェリクスに渡すのが一番適任だからに決まってるだろ」
「ちがう!! その前だ! なんで帰らないんだ?」
「分からない」
「なんでだよ!」
「シスターが近々王都に帰るらしい。新しい司祭が赴任するから、早めに街を出ろって」
「意味分かんねえ!」
「ぼくも」
アルとて事情はさっぱり分かっていない。
ただ、シスターレイナの様子と、己の勘に従うことにしたのだ。
清々しいまでに情報を持たないアルを凝視し、フェリクスは掴んだ肩から力を抜き、がっくり項垂れた。
「あー、そういうとこだよな。分からなくても、お前は動くんだよな……」
口の中で何かをぶつぶつ呟いている。
逡巡する間もなかった。
「よし、おれも行くわ」
「え、それはまずくないか? シスターにも言ってないだろ」
「大丈夫だ。考えたら、じいさんは見越していたに違いねぇ。全く分からんが、そういうことだろ。見ろよ、これ」
フェリクスは腰に下げた袋を持ち上げた。
目立たないように同じ黒で作られている皮袋を。
中を開けると、砂金が入っていた。
「こんなもんをすぐに出せるなんぞ、それしか考えられねえよ」
そう断言されると、そうなのかもしれないと思う。
フェリクスに伝えると決めたときから、漠然とこう言い出すような気もしていた。
逆の立場なら、きっと自分もそうしただろうと思うから。
そして、何も言わずに出て行こうとしたアルを一切責めないのも、フェリクスらしい。
間に合ってよかったわ、と肩を軽く叩かれた。
「お前が行くなら、おれも行くさ」




