公園でランチタイム
ルイカの言う通り、”広めの公園”だった。この公園もあらゆるところが植物で飾られていて、色とりどりの花がとっても綺麗。こんなたくさんの花をどこで用意しているのだろうと少し気になる。
こんなたくさんの花を祭りの後はどうするのかというのが気になったけど、どうやら希望する人がもらえるみたい。使い道はそのまま飾ったりとか、お風呂に浮かべたりとか。部屋にちょっと飾りたいな、と思っているけどちょっと申し出るのに勇気がいる。
いくつもベンチが空いているから選ぶ余裕はあったのだけど、その中で二人座れる中で一番小さいベンチにした。少しでもたくさんの人が座れるといいなという気持ちからでのこと。これでいいのかと彼に確認するとわたしの意図をくみ取ってくれたのか、快諾してくれた。
「えへへ、仲良しさんだね」
膝にハンカチと箱を乗せて、二人並んで座る。その様子はきっと他の人から見ても仲のいい二人に見えるのだろうなと思って、あのおばあさんのこともあって嬉しくなる。恋人か、と聞かれたことじゃなくて仲がよさそうに見えた部分。ルイカがどう思っているのかはわからないけど、わたしは彼と仲良しだと思っている。自惚れだったら恥ずかしいな。……自惚れでもいっか。
「まあ、うん。そうかもな。食べなくていいのか」
あまり興味がなさそうにご飯が詰められた箱を俯いて見つめている。わたしの話を真剣に聞いていないように感じた。年上の余裕、なのかなあ。
「あ、そうだね。ルイカも食べよ?」
箱の封に手をかけながら彼にも勧める。紙の箱だからもうここからでもいい匂いが漂ってきた。あの屋台では作っていなさそうだったから、どこかで作ったものを持ってきていたはず。だから熱々ではないのだけど、それでもとってもいい匂いだ。お腹が空いてくる。
「分かってる」
金属製のフォークが付いていた。あとで返すことを想定した仕組みなのだけど、どうやら食器類はすべて主催側が負担しているようで、お店に直接返さなくても誰かしらスタッフさんに渡せばいいみたい。朝にソーチャさんに教えてもらった。
彼女の実家のパン屋さんも春祭りでパンを売っている。普段のパンとは少し違って、固く焼いて数日飾った後にスープなどに料理して食べるための、装飾に凝ったパン。大きいから一つで人家族分の朝ごはんになるって。
「おいしい! ね、おいしいね」
口にオーブンを使った白身魚の香草焼きを一口運んでみる。淡水魚の味がするような気がした。とは言っても海からある程度遠いこの街ではあまり海の魚は食べられなくて、身近なのは川や湖の魚だから大体のケースではこの”気”は当たる。
王族の人や貴族だった家の人たち、お金持ちといった裕福な家ではそこまで珍しくはなさそうだけど。入ってこないわけではなくて、ここまで凍らせて持ってくるのにお金がとってもかかるからその分値段が高いだけだから。
少しだけ塩がかかっていて、薄味だけどしっかりハーブの香りがついている。味付けが薄くても香りのおかげでそんなに気にならない。
他のメニューは発酵させる代わりに重曹を使ったパン、多分蒸している色とりどりの春野菜、シルバーベリーのコンポート。全体的に質素な感じだ。コンポートはシルバーベリーって渋いイメージがあるから、これも渋くないか心配になるけど、きっとあのおばあさんが売ってくれたのだから甘いはず。
「素朴って感じだな」
ころんとした野菜をすくいながらぼそっとルイカが言う。確かに、派手って感じはない日常の延長線上のようなメニューだ。もちろん、とっても丁寧な作りでおいしい。でもどこかお菓子だったりコーヒーだったり、はっきりした味を好むルイカにとってはあまり得意じゃないかもしれない。様子をちらりと見る。
「好きじゃない?」
「食べなれないだけ。意外にこっちの食事も普通だしな」
ルイカは小さく首を振る。確かに、嫌そうな感じには見えないけど。こっちの食事は多分、今わたしたちが住んでいる家の食事を指すのだと思う。どんな期待か不安か、そういうものを抱いていたのかな。
「どんなものをイメージしてたの?」
ふと気づくと次のひと口が止まっている。二人ともあまり食事が進んでいない気がするけど、このぽかぽかな空気でゆっくり食べるのも悪くないな。お昼からの英気を養うと思って。
「まあ、神殿だしお年寄りが好きそうなの、みたいな」
顎に手を当てて考える。お年寄りが好きそうなもの。あまりお家でそんな食事が出た記憶がない。職員さんが若いわたし達に気を遣って好きそうなメニューにしてくれているのかも。
「苦手なものがあったら言ってね。わたし食べるよ」
彼が野菜を食べるときは必要最低限、という言葉が似合う量しか食べていない気がする。そうだったら苦手かも。結構癖のある野菜がシンプルな味付けで用意されているから。ほろ苦くてわたしは好きな感じだ。
「苦手ってわけじゃないけど」
そう言うと彼は蒸し野菜を一つ口に運ぶ。そんなに楽しそうに見えない。その様子が小さい子みたいでちょっと可愛いと思ってしまった。
「でも空いててよかったね」
周りをぐるっと見渡す。あれだけ混んでいた通りと比べて、この公園はとても静かだ。もちろん人がいないわけじゃないけど、それでも創造よりはずっと少ない。空いていたベンチもなかなか埋まらなかった。
「もっと居ると思ったんだけどな」
野菜を飲み込んでルイカは言う。一年首都の様子を知っている彼にとっても予想外だったようだ。そういえば去年の春祭りは行ったのかな?
「何かのイベントと時間が被ったのかも。中央広場かな。メイン会場?」
同時に色々な場所でイベントが行われている。演劇とか、パフォーマンスとか、子供向けの体験型イベントとか。そのうちのどれか、人気なものと時間が被っているのかもしれない。
「そうかもな」
あまり興味がなさそうな顔。イベント情報をあまり仕入れていないから、二人とも全く分からない。ルイカが友達からもらった地図にも特に書いていなかった。
「行きたくない?」
わたしは賑やかなほど”人”を感じて嬉しくなるタイプだけど、彼は絶対にそうじゃない。とはいえ、実は魔術に関することなら人混みにも飛び込む人。この間も書店で配られていた講演会の整理券を手にいれようと頑張っていた。結局は手に入れられなかったみたいだけど。
「行きたくないというか、人混みにわざわざ行く必要もないだろ」
むーっとした顔だ。苦手な人からするとそれはもっともな理由だと思う。
「そうかなあ」
「行ってみたい?」
わたしがちょっと残念に思ったのが伝わったのか、彼から提案をしてくれた。嬉しい。
「うん、ちょっと見てみたいかも」
頷く。どこで何をしているのか分からないけど、それでもどれか一つは見てみたい。今のところはイベントごとにあまり参加していないから。
「じゃあ行くか」
それなら行くのは当然だと言いたげな表情。こうやってさりげなく気遣ってくれようとするのが彼の素敵なところだ。
「いいの?」
「いい」
もう一度改めて聞いてみる。肯定されたから、いっぱいの笑顔でお礼を言う。ルイカは一度ちらりとわたしのそんな顔を見て、すぐに手元に視線を移した。
……ベンチの足にチラシが貼りついている。俯いて拾ってみた。特に汚れがなく綺麗なそれは、どうやら劇のチラシみたい。そんなに遠くない場所で行われるようだから行ってみたいな。食べ終えた後に見せてみようと折りたたんで上着にしまった。