本来の姿へ
「このマウス、ケーブルが無いですね」エミは不思議そうに言った。
「そーだよ。Bluetoothといった通信でパソコンと繋がるんだ」月野先輩は取扱い説明書をエミに渡すと、鞄を抱えフロアから出て行った。
おかしいなぁ、取扱い説明書通りにやっているのになぁ
一向にマウスのカーソルが画面に表れない。かれこれ新しいマウスを受け取ってから2時間が経過している。エミは必死にマウスのボタンを押したり、パソコンの画面を切り替えたりしている。
わーこのままじゃ、今日は全然仕事しないまま終わっちゃうな と思っていた矢先に外出から月野が帰ってきた。
「さっき送ったメール、まだ返事きてないぞ」とエミに催促を促してきた。
「えっ、私、マウスに必死でメールをチェックしてなかったぁ」頭をかきながらエミはメールを開いた。
「マウスって、今日の午前に渡したマウスのことか?」
「はい、ずっと手こずっているのです」泣きそうな顔のエミ。
「どれどれ」マウスを掴みながら、熊野が首を傾げている。
「おい、電池は入れてるよな?」
「はい、付属の電池2本を入れました」エミは答えた。
「そーだよな。重さ的にも入っているよな」と言いながら、マウスの裏蓋を開く。
「これだ」と言いながら、電池を引き抜き、入れ直した。
「ほら、ランプがついたろ」熊野はマウスをエミに手渡した。
「キャーー、もしかして電池が反対向きに入っていたのね」エミは情けなくなった。
「パソコン画面にもカーソルが表示されました。これで完璧です」エミは熊野を見つめながら感謝を込め言った。
「おいおい、そんなに感謝されることじゃないよ」、「それにしても、今日一日これをやっていたのか?」
「はい、そーでーす。やっと、すっきりしました」エミは肩の荷が下りた感じである。
「そかそか、本来の山田さんに戻ったんだね」、「嬉しいような悲しいような気分だよ」と熊野はパソコンを開きながら穏やかな顔で言った。






