活躍の裏側で
エミの活躍ぶりは徐々に社内中に行きわたるようになってきていた。
ある日の昼食のことである。
「山田さんったら、ほんと営業の星だわぁ」と向かいに座る北島が言う。
「そうよね、経理部の方まで話が流れてきているわ、新人なのに受注ナンバーワンって聞いたわ」相変わらずブルガリを見せびらかすような仕草をした石田が言った。
(まったく、この女ったら、女の武器を使いまくっているのだわ)
(そこまでして、成績を伸ばしたいのかしら、不潔ねぇ)
エミの耳に次から次へと暗い陰湿なささやきが飛び込んでくる。
エミは思わず耳を塞ぎながら、席を立ち、まだ半分も食べていないカレーライスの乗ったトレーを持ち駆け出していた。
「いったいなんなのだ。私はただ会社のため、仕事として一生懸命やっているだけなのに。何も悪いことはしていない」エミは呟いていた。
「山田、祝杯をあげよう」帰り支度をしていたエミに課長の石川が話しかけてきた。
「えっ、祝杯ですか?」
「そうだよ、この前のABC商事からの受注はすごい額になるじゃないか、その活躍へのお祝いだよ」
「かんぱーい」先輩の月野も笑顔でビールジョッキを掲げている。
結局3人で居酒屋へ来たけど、なんとも落ち着かない雰囲気だ。
「山田くんの爪の垢を煎じて、営業マン全員に飲ませんといかんなぁ」赤い顔をした課長がニヤニヤしながら語っている。
(この姉ちゃん、お客にばかりサービスしちゃって、社内にも少しは頼むよ)
(なに、この声は・・・)エミは感じ取っていた。課長の本音だわ。
「ほんと、山田くんの活躍のおかげで私の鼻も高いというものだ」かなり酔っ払っている様子の課長は有頂天だ。
「いやいや、私なんてまだまだ駆け出しのひよっこですから」
エミが言うと、その直後に
(そりゃ、そうだろー、まだ数か月のキミがこんなに活躍できるなんて、不思議だよ)
(どんなにテクニシャンなのか、社内の男どもにもお披露目してくれ)
(また声が聞きえてきた。こっちは月野先輩の声だ)エミは心の声を聴いていた。
「ごめんなさい。私そろそろ」
「まだいいじゃないか」鼻の下を伸ばした課長が引き留めてくる。
「今夜は父に夕食を作る約束していたのを思い出したので、失礼します」
エミはそのまま席を立つと店の外へ飛び出して行った。
エミはそのまま走り続けた。気付いたら川の土手に立っていた。
「なんなのよ。みんなで寄ってたかって」、「もうこんな生活ヤダ」
エミはメガネを外した。こんな物があるからいけないのだとエミは思った。お父さんは科学が産み出した便利グッズと言っていたが、科学ってなんなのだろー。
気が付いたらメガネを踏みつけていた。バキバキと音を立て潰れていく。
次はイヤリングだ。耳から外すと手で固く握りしめ、科学の結集であるイヤリングを川へ投げ捨てた。
その場にしゃがみこみエミは考えにふける。
「なんでこうなっちゃったんだろー、宮崎の田舎にいたころには、決してこんなことはあり得なかったハズだ」
「都会へ出てきたのがいけなかったのか・・・」とシュールになっていく。