父の正体
「ただいまぁ」エミの声を聞き父親の大作が玄関へ飛んできた。
「なんだか元気が無いなぁ、つまらない会社じゃったのか?」
「いや、そーじゃないんだけど、私初日から大失敗しちゃったみたいなの・・・」
「そーか、そんなことがあったのか。わしに任せておきなしゃい」大作はニンマリと微笑んだ。
エミが入社してから早一週間が経った。
その日も疲れ切ったエミが帰宅すると、大作がメガネを掛け現れた。
「どうじゃ?会社にも慣れてきたか?」
「う、うん、とっても親切な人たちばかりで楽しく働いているよ」
じっとエミを見つめるメガネの大作。
「ふむふむ、同僚の女性との人間関係じゃな?」
「どーしたの?お父さん」(北島さんや石田さんとの食事の時間に戸惑いを感じている事はあるけど、なんでお父さんが・・・)
「そかそか、昼の時間が苦痛なのじゃな。おーーー、なんともゴージャスな」、「田舎育ちのお前には着いていけない世界じゃよな」
「え、だからお父さん、どーしたの?」(なんだか見透かされている感じ、気持ち悪いなぁ)
とエミは感じた。
「ほら、図星じゃろ? ジャーン、カラクリはこのメガネじゃ」
メガネを外しながら大作が自慢げに語りだした。「このメガネはわしの大発明品じゃ、もちろん世界に一つしかない。このメガネには画像処理の機能が内蔵されていて、目を向けた人物の微妙な表情の変化を瞬時に読み取り分析するのじゃ。まぁ人の心が読めると言うわけじゃよ」
「なんなのー、お父さん気でもおかしくなった?」口をポカンと開けたままのエミ。
「お前には内緒にしてきたけど、お父さんはその昔、科学者だったんじゃ。あのころは新聞、雑誌にも持てはやされ、一時は次期ノーベル賞候補として一目置かれたんじゃよ」
「そんなの初耳だよ」エミは困惑顔になっているが、どこか偉大な父親に関心した様子。
「お前は大自然の中で育ったばかりに、人との接し方が十分身についていない。特にこの都会に住んでいる人種とは馴染めないところが多々あると思うのじゃ。そこで、人とのコミュニケーションを円滑にするために役に立つメガネを開発したのじゃ。明日からこのメガネを掛けて出勤するのじゃ。いいね」エミは期待半分、不安半分の表情でメガネを受け取った。