表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄で始める異世界英雄譚~会社を辞めて異世界へ!銀髪エセ女神と運命をぶち壊す!  作者: 鷹雄アキル
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/88

第39話 第一章 エピローグ


 魔獣を討ち取ったあとの記憶は、断片的でぼんやりしている。


 覚えているのは、斬り伏せた瞬間の震えと、全身から力が抜けた感覚だけ。それ以外は、霞がかった夢のように曖昧だ。


 ——だが、一つだけ確かなことがある。


 俺たちは、生き延びた。


 後から聞いた話では、魔獣は首を落とした直後、巨体を保てず、塵のように崩れ去ったという。

 従えていた魔狼たちも、直後に動きを止め、その場で息絶えたらしい。


 カオリナ村に駐在していた領都騎士団は、アリーシアの指揮のもと、不眠不休で現場の処理にあたった。


 アリーシア自身も重傷を負っていたが、治療を受けたあとすぐに復帰し、最後まで指揮を取り続けたという。


 幸いにも、彼女の兵団からは一人の犠牲者も出なかった。

 あの激闘を思えば、それがどれほど奇跡的なことかが分かる。


 村の被害も、壊れた建物が数軒ほど。

 住民に直接の被害がなかったのは、まさに僥倖だった。


 その日のうちに、コリオリ村の一行とヨハンたちは、軽傷者を連れて村へと戻っていった。


 ——これで、本当にすべてが終わったのだろうか。


 少なくとも、今は終わったと信じたい。


▽▽▽


 さて、俺自身のことを言えば、魔獣を斬り伏せた直後、意識を失った。

 次に目を覚ましたのは、丸一日が過ぎた朝だった。

 

 ぼんやりと視界が開け、周囲を見回す。


 ベッドの横には、小さな体を折りたたむようにして、うつらうつらと眠るミリアの姿があった。


「ミリア……?」


 声をかけると、彼女は目をこすりながら顔を上げ——その瞬間、顔をくしゃくしゃに歪め、大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。


 それはもう、驚くほどの大泣きだった。


「えっ、どうしたの!?」


 慌てる俺に、ミリアは涙を拭う間もなく、嗚咽まじりに叫ぶ。


「居なくなっちゃうんじゃないかって……! 本当に……良かった……!」


 後から聞いた話だが、俺が倒れてから、ミリアはほとんど休まず、ずっと看病をしてくれていたらしい。


 やつれた顔立ちと、目の下の濃い隈。それだけで、どれだけ無理をしていたかが伝わってきた。


 申し訳なさと感謝がないまぜになって、思わずそっと手を伸ばす。

 肩に触れると、ミリアは涙を浮かべたまま、何度も小さく頷いた。


「ミリア……心配かけてごめん。そして、本当にありがとう」


 それしか言えなかったけれど、ミリアはまた、涙をこぼしながら、笑って頷いてくれた。



▽▽▽


 あれから二日。再び草原に立つ。


 魔獣の亡骸は処分され、広い野原はほぼ元の姿を取り戻していた。

 それでも、焼け焦げた地面や枯れた草木があちこちに残り、あの日の激闘を否応なく思い出させる。


 北の方角に目をやると、山々の稜線が薄い霧の向こうにぼんやりと続いていた。


 俺たちは、あの山を越えてここまで来た。

 振り返るたびに、その無謀さを今さらながら思い知る。


「お身体の具合はいかがですか? 白銀の救世主殿」


 凛とした声に振り返ると、アリーシア兵団長が立っていた。


 ……そう、「白銀の救世主」。

 あの日以来、俺にはそんな二つ名がついたらしい。


 正直、穴があったら入りたい。

 返事をしないと何度でも呼ばれそうだから、仕方なく苦笑いを浮かべて答える。


「もうすっかり……とはいきませんが、だいぶ良くなりました」

「そうですか……」


 アリーシアさんは俺の横に並び、遠くを見つめる。

 その横顔には、静かだが確かな決意が浮かんでいるように見えた。


 そのとき、乾いた風が二人の間を吹き抜ける。

 沈黙を破るように、彼女がぽつりとつぶやいた。


「……髪の色、戻りませんね。もとは黒髪だったんですよね?」


 不意を突かれて、思わず髪をかき上げる。


「ええ。それに、こんなに長くもなかったですし」

「でも、よく似合っていますよ」


 アリーシアが微笑むと、それだけで空気が少しやわらかくなったように感じた。

 どう返せばいいか分からず、鼓動が少しだけ速くなる。


 戦いの最中は気にも留めなかったが——

 この人は、本当に絵に描いたような美人だ。


 ただ美しいだけじゃない。

 騎士としての気高さが、その立ち姿に滲み出ている。


 今は甲冑を脱ぎ、領都軍の制服をまとっているが、それでも自然と目を引いた。

 

 ふと、彼女が一歩前に出る。

 そして、静かに片膝をついた。


「改めてお礼を言わせてください。救世主殿が来てくれなければ、今こうしてここに立っていることはできなかったでしょう。本当に、ありがとうございました」


 アリーシア兵団長は胸に手を当て、まっすぐ俺を見つめる。


「もし救世主様のお力になることがあれば、このアリーシア、いや、アリーシア兵団は全力でご助力させていただきます」


 その真摯な瞳に見入られ、思わず目をそらしそうになる。

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 俺は彼女に手を差し出し、アリーシアはしっかりとその手を握って立ち上がった。


「では、そろそろ出発します」

「アリーシアさんは王都へ?」

「ええ。今回の一連の経緯を報告しなければなりません。それも私の務めです」


 アリーシアさんは風にそよぐ髪を耳にかけ、微かに微笑んだ。


「コリオリ村の復興には、副隊長のジールを派遣します。彼は優秀ですから、きっとお役に立つでしょう」


「ありがとう。ジールさんには頼らせてもらいます。アリーシアさんも、どうかお気をつけて」


「もちろん。またいつかお会いしましょう」


 アリーシアさんが軽く会釈し、カオリナ村へ向かって歩き出す。

 その後ろ姿を見送りながら、俺はその先にある馬車へ目を向けた。


 馬車の手綱を握るジール副団長の横で、ミリアが大きく手を振りながら笑顔で叫んでいる。


「トオルさーん! 早く早く! みんな待ってますよー!」

 

 俺は精一杯声を張り上げて答える。


「今行く!」


 ふと、振り返る。

 山々の稜線——その先にあるコリオリ村を見つめた。


 本当なら、隣でともに勝利を喜んでいたはずの相棒が、今は——。


 ……ルーシャ、お前は今、どこに?


 魔獣を倒して目覚めてから、ルーシャの声は一度も聞こえない。

 あのふよふよ浮かぶ姿も、どこかに消えてしまった。

 

「一体どこで何をやっているんだ。勝手に連れてきて、何も言わずに消えるなんて……」


 思わず、ぼそりと愚痴がこぼれる。


「トオルさーん! 早くー!」


 再びミリアの声が響いた。


 俺は顔を上げる。


 彼女の笑顔を見つめながら、心の中で静かに呟いた。


 ——さあ、次の扉はどこへ続いている?


 焼け焦げた草を踏むたび、この世界に来た日からの記憶が、鮮やかに蘇る。


 それでも——吹き抜ける風が、新たな一歩を促すように、俺の背中を押していた。


 深く息を吸い込み、俺は仲間たちが待つ場所へ歩き出す。

 


**第一章 完**


――――――――――――――


お読みくださった皆さま、本当にありがとうございます。

ここまでが、第1章となります。


ぜひ、 ★評価とフォロー、ブクマをお願いします!

引き続き、第2章も応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ