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第21話 これから…


「これからトオル様はどうするんですか?」

 ミリアが小首をかしげながら尋ねてきた。


「そうだな……村の再建には俺じゃ役立たずだろうし、とりあえずルーシャに相談するかな」


 俺は後ろを振り返り、浮かんでいるルーシャを見た。

 しかし、ルーシャは何も言わない。ただ静かに漂っているだけで、俺と目を合わせようともしない。


 ——なんだ、どうした?


「ま、とにかく、さっきの戦いで剣も折れちゃったし。俺の役目はここまでかな」


 そう言いながら腰の剣に手を伸ばした。

 刃のほとんどが失われ、今では柄だけが残った無残な姿——。

 

 さっきの戦いで、かろうじて残っていた刀身も根元から完全に折れてしまったのだ。


 これまで何度も俺を救ってくれた相棒だった。捨てるなんて到底できるわけがない。壊れたまま、今も腰に引っ掛けて持ち歩いている。

 

 すると、キキがすっと立ち上がり、俺の腕を引っ張った。

 

「お、おい、なんだよ。どこか行くのか?」


 俺は腰をさすりながら立ち上がり、キキに引かれるままついていく。

 ミリアとルーシャも、心配そうに後を追ってきた。


「キキ! 一体どこに行くんだ?」


 呼びかけても、キキは振り向かず、ぐいぐいと俺の手を引く。

 

 やがて村のはずれ。鬱蒼とした木々の影から、崩れかけた小屋が姿を現した。


 風に舞う枯れ葉、湿った空気に染みつく静寂。時が止まったような場所だった。


 小屋は大きく傾き、苔むした屋根が鈍い光を帯びている。

 剥がれた木壁の隙間から、薄暗い内部がのぞいた。


「あれは……キキちゃんのおうちですね」


 ミリアがそっと囁くように教えてくれた。


「え? キキって、ジルばあさんと一緒に住んでるんじゃなかったのか?」


「ここは……去年まで、キキちゃんがお父さんと一緒に暮らしていた家なんです」

 ミリアはキキを気遣うように、そっと声を落とした。


「三年前に、キキちゃんとお父さんが王都からこの村に移り住んできて、この空き家を修理して暮らしていたんです」


「キキって、王都から来たのか……?」


「そうなんです。キキちゃんのお父さんとお母さんは、王都でも有名な冒険者だったそうです。でも、お母さんが病気で亡くなって……それがきっかけで、この村に引っ越してきたみたいです」


「そして去年、お父さんも亡くなった……」


 ミリアは頷き、さらに声を潜めて話を続けた。


「ジルばあさんが言うには、キキちゃんのお父さんは森の主を討伐しに行ったのではないかって。森に入る前に、戻れなかった場合はキキちゃんを頼むと、ジルばあさんに言い残していたそうです」


「……なるほどな」


 王都でも名を馳せた冒険者なら、この村が『生贄の村』と呼ばれていることや、魔獣が満月の夜に襲ってくることを知っていたはずだ。


 だからこそ、それを防ごうとしたのかもしれない。

 

 観測者であるルーシャなら何か知っているかもしれない。そう思い、俺は頭の中で彼女に問いかけた。


「キキの親父さんは、魔獣を倒すために森に入ったのか?」


『そうだと思う。彼は王都でも名のあるS級冒険者だったからね。魔獣を倒す実力はあったはずだよ』


「でも……帰ってこなかった。何があったのか、わかるか?」


『……わからない』


 ルーシャの声がかすかに震えた。


『私が観測できるのは森の浅い層までなの。魔獣がいたのは森の最奥──深部と呼ばれる、闇が支配する未知の領域だから……』


 彼女は拳をギュッと握りしめる。


『彼は村を守ろうとして、一人で森に入った。そして深部に到達した瞬間、私の視界から消えたの』


 その光景を思い出したのか、ルーシャは唇を噛みしめた。


『私だって助けたかった。できる限り結界を這わせて、彼を守ろうとした。でも彼は、深部に入る直前に──私のことなんて知らないはずなのに……「ありがとうございました」って』


 ルーシャの目に涙が滲む。


『彼も村を愛していた。守りたかったんだと思う。だから、私にとっても大切な子だった。でも……』


 声を詰まらせ、ルーシャはうつむいた。

 彼女の言葉に重なるように、ミリアがしんみりと語り出す。


「とても優しい方でした。それに、とても強くて……兄さんやザキさんも師匠と呼んで、森での狩りを教わっていたんです」


 ミリアは目を潤ませながら話を続ける。


「私たちが弱くて、頼りないから……。だから、一人で森に入ったんだと思います。もし、もっと私たちに力があれば……きっと……」


 きっと彼は、村を守るために一人で森に入ったんだろう。


 ルーシャが言っていた──『村を愛し、守ろうとした』人。そんな彼なら、この"生贄の村"の現状を何とかしたいと思ったに違いない。


 そんな空気をよそに、キキが家の入口の戸をガタガタと開ける。


 振り返った彼女は、「早く来て」と言いたげに、小さな手でチョイチョイと手招きした。

 そして、さっさと家の中に入っていく。


 その無邪気な仕草が、妙に可愛らしくて──さっきまでの沈んだ空気を、ふっと吹き飛ばしてしまう。


 俺たちは顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれる。


 ……キキには敵わないな。


 

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