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009 剣術

 俺は敵意は無いと示すつもりで首を横に振るが、身動ぎしただけで警戒されて、女性に後ずさりされる。

 明らかに助ける行動をしたつもりなんだが理解してもらえなかったか。

 ここは俺がこの場を去った方が収まるかな。

 と思ったところで、急に女性は苦しそうにうめき、膝をついてうずくまってしまった。


「ぶひっ!」

「くっ、敵を前にしてゴブリンにやられた傷が……武器に毒が塗られていたか」


 だから俺は敵じゃねーって。

 よく見ると女性の右足に少しだけ切り傷があった。

 出血はそれほどでもないが、傷口付近が紫色に変色している。

 毒を使うとは、ゴブリンは油断ならねーな。

 どうすべきかと思っていたら、女性はポーチから何やら液体の入った小瓶を取り出した。

 そして半分を傷口に振りかけ、残りを飲み干した。

 おそらく解毒用のポーションのようなものなのだろう。

 ゴブリンとの戦闘中では使用している隙が無かったのか、使うのが遅かったようで、ポーションの効果が現れる前に女性は気を失ってその場に倒れ伏してしまった。


「ぶひーっ!」


 呼びかけるも返事は無く、意識も混濁しているようだ。

 俺には助ける術なんてないから、女性の使った薬が効く事を祈るのみだ。

 さて、折角見つけた魔物だし、核になってる石だけは食っておこうかな。


 ゴブリンに近づき、その姿を見て若干躊躇してしまう。

 だって人型なんだもん……。

 異世界ものの小説なんかだと普通に人型のオークとか食ってるし、悪食があれば腹壊す心配も無いから食えない事は無いんだが、やっぱり元人間としてはちょっとねぇ。

 まぁ噛み殺しておいて今更か。

 俺はこの世界で生き抜く為にと腹をくくって、ゴブリンの胸部に食らいついた。

 ガリッという音がして、核となる石が砕けた。

 ステータスを確認したらスキルが増えていた。


 名前:217番

 種族:豚

 職業:養豚

 レベル:4

 生命力:28/28

 魔力:15/15

 腕力:35

 敏捷度:27

 スキルポイント:3

 魔法:土豚の術Lv2

 スキル:前世の記憶、言語翻訳、悪食Lv2、瞬歩Lv1、剣術Lv1(New)


 おや、レベルも上がってたか。

 魔物は獣に比べて経験値が多いって事だろうか?

 土豚の術もレベルが上がったし、魔物との戦闘中に使った魔法やスキルはレベルが上がりやすいのかも知れん。

 それにしても剣術か……四足歩行でどないしろっちゅうねん。

 いや待てよ。

 某漫画では口に刀を加えて闘ってたな。

 いける!……のか?

 試しにゴブリンが持ってた剣を咥えて振り回してみた。

 うーん、Lv1だと違いが分からんな。

 それに普段は剣をどこにしまっておくんだって話よ。

 人間とスムーズにコミュニケーションを取れるようになったら、収納しやすい専用の剣でも作ってもらうか。


 一匹の核石を砕いたらもう躊躇う事も無くなって、次々にゴブリンの胸部を噛み砕いていった。

 食糧として食うのはまだちょっと抵抗あるし、早めに女性をこの黒い靄の森から連れ出した方がいいと思い、核石以外は放置してその場を去る事にする。

 女性をなんとか背中に乗せて、俺は足早に森の外へと向かった。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 とりあえず魔物に出会う事無く森の外まで出る事は出来たので一安心。

 たぶんあの黒い靄があるところが魔物の生息域なのだろう。

 森の外周には普通の獣はいても、魔物のような雰囲気の生物はいなかった。

 それでもあの狼型の魔物の例もあるので、近くにいると魔物が森から出てくるかも知れない。

 俺は一先ず道らしきものがある方へ向かって歩き出した。


 道中、他の2匹のゴブリンから得たスキルを確認する。

 一つは短剣術Lv1。

 もう一つは大剣術Lv1。

 どないせーっちゅうねん。

 まぁ短剣ぐらいなら常に咥えておく事もできそうか。

 大剣は咥えて振り回したら顎外れそうだけどな。

 でもやっぱり魔物を倒すのが一番効率がいいと証明された。

 使えそうに無いスキルだとしても、自力でスキルを得るよりはるかに簡単に手に入る。

 悪食スキルをゲットした俺を褒めてやりたいぜ。

 さすが俺。


「う……ん……こ、ここは……?」


 おや、背中に乗せてた女性が意識を取り戻したようだ。

 俺に覆い被さるように乗ったままキョロキョロと辺りを見回し、自分が移動している事に気がついて目を見開く。


「ぶ、豚っ!?私を食うために巣に連れて行こうとしてるのか!?」


 しとらんわ!

 っておい、暴れんな!

 あーあ、ずり落ちちゃったよ。


「痛っ!く、食われてたまるか!」


 足がまだうまく動かないようで、這って俺から遠ざかろうとする女性。

 うーん、コミュニケーションが取れないって困るなぁ。

 せめて俺が相手の言葉が分かると伝えないとどうにもならない。

 俺は女性の前に回り込んだ。


「くそぉっ!逃げられないっ!!」


 俺は魔王か?

 手っ取り早く対話できるようにするために、俺は前足で地面に絵を描いた。

 豚が人を食うイラストを描いて、その絵に大きくバツを描く。


「豚が絵を!?それって私を食べないという事か?」


 俺が首肯すると女性は更に驚きを顕わにする。


「お前……言葉が分かるのか?」


 再度首を縦に振ると、女性はようやく警戒を解いてくれたようでその場に座り込んだ。


「人語を介する魔物——お前はひょっとして魔族か?」


 首を横に振る。

 YESとNOしか伝えられないのはもどかしいが、今は我慢だ。

 変に誤解されたままだと大変な事になるからな。


「魔族でないのか……。はっ!?もしや伝説の——」


 おい、おかしな方向に話を持ってくんじゃねぇよ。

 俺は全力で首を横に振る。


「いえ、分かっています。貴方様は正体を隠さなければならないのですね」


 絶対分かってねええええぇっ!!

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