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003 悪食

 周囲は鬱蒼と草木が生い茂り、少し薄暗いせいで遠くは見えない。

 一応馬車が走れるぐらいの道はあるが、人里までどれ程の距離があるのか分からなかった。

 そもそも、吾輩は豚であるが故に、人里に行ったらお肉になっちゃうんでした。

 てへ。


 さて、御者のおっさんのおかげで狼の魔物と一戦交えるという危険を侵すハメになった俺だが、代償として自由を手に入れる事が出来た訳だ。

 しかし、出荷直前で生き延びた代わりに、新たな危険と向き合う事になる。

 おっさんはこの森は魔物が出るような場所じゃないみたいな事言ってたが、俺にとっての天敵がいないという事にはならない。

 豚は野生化するとけっこう逞しく生きていくみたいだけど、ここは異世界。

 豚なんて一飲みにするような化物が存在しているんじゃなかろうか。

 ドラゴンとか出てきたら、その場で出荷ですわ。

 そもそも前世の世界だって、豚なんざ猫科の猛獣達に掛かれば据え膳以外の何者でもないしな。

 自由に生きるってのは、それなりに危険も伴うって事だ。

 なんか背筋が寒くなってきたわ……。


 ふと遠い目をした俺の頭の中に、例の声が鳴り響く。


『レベルが上がりました。スキルポイントを2獲得しました』


 おおっ!狼の魔物を倒した事でレベルが上がったのか!

 しかもスキルポイントを2もゲットしたとは、運が回って来た?

 冷たくなった背筋も暖かさを取り戻してきたぜ!

 さて、何のスキルを取得しようか?

 スキル一覧、カモン!


 鑑定     必要スキルポイント1

 豚牙トンガ     必要スキルポイント1

 火豚の術   必要スキルポイント2

 悪食あくじき     必要スキルポイント2


 なんか2つ増えてるな……。

 便利そうな鑑定あたりを取っておきたいところだが、今の状況を良く考えてみるとそうもいかない。

 自由と引き替えに失った衣食住を先ずは充実させたいところだ。

 あ、吾輩豚だから、衣は関係無かったわ。

 ずっと全裸だよ、恥ずかちぃ!……とか、遊んでる場合じゃねーよな。

 何故なら俺は今、猛烈に腹が減っているからだ!

 出荷直前まで餌が貰えてたから安心してたけど、前の世界と違って移動に時間がかかるから、移動中に飯を与えずに胃袋を空にして出荷する仕組みだったようだ。

 おかげで道中は何も食わせてもらえなかったので、現在とても空腹なのです。

 本来、睡眠薬でと畜場に着くまで寝ている筈だったんだもんな。

 道中豚の腹が減っても人間にはどうでも良かったって訳だ。

 とりあえず腹が減って動けなくなるのは拙い。

 そして、今俺の目の前には狼の肉が転がっている。

 これを食わない手は無いだろうな。

 しかし、息絶えた筈の狼の周りには変な瘴気みたいな黒い靄が残ってて、俺の食欲をこれでもかと削いでくれる。

 そもそも魔物って食べても平気なのか?

 毒とかありそうだし……。

 と言うわけで、このスキルを取得する事にした。


「『悪食あくじき』取得っ!」

『スキル悪食を取得しました』


 相変わらず美しい天の声が脳内に響き渡る。

 同時に口や胃袋が緊張するような違和感を感じた。


 豚は悪食みたいなイメージあるけど、養豚場では穀物を中心に配合したヘルシーな餌を貰ってたから、吾輩のお腹は結構デリケートなのよ。

 いきなりお肉食べて腹壊したくないし、魔物の肉なんて食えるのか怪しいし?

 でも悪食があれば何でも食える!……筈。

 俺は徐に狼の腹にかぶりついた。


「がふっ。んぐんぐ」


 んんっ!?美味いっ!!

 前世で食った牛肉より美味いぞ!

 先程掻き切った喉笛から、上手い具合に血抜きされてたのかな?

 犬肉は美味なんて話もあるし、悪食とか無くても食えたのかも知れないな。

 そんな考えを巡らせている中、俺の口は意思を切り離したかのように狼の肉を食らっていく。

 というか、いくら食べても全然腹いっぱいにならないんだけど?

 俺ってこんなに大食漢だっただろうか?

 明らかに豚舎に居た頃より食ってる気がするけど、これってまさか悪食のスキルのせい?

 ……いや、今は食う事に集中しよう。


 俺は一心不乱に狼肉を貪った。

 そして、腹部を食い尽くし、次いで胸側の肉にかぶりついた時、


「ぐがっ!?」


 ガキンっという音がして、何かを噛み砕いてしまった。

 体内に石があるとか、この狼不健康だな。

 とりあえず歯が折れなくてよかったけど、悪食の影響で歯も強化されてたのかね?

 まぁ悪食スキルもあるし、石も食えるだろうとバリボリとそのまま咀嚼する。


『スキル瞬歩を取得しました』


 んん?何故かスキルを取得した?

 おかしいな?スキルポイントは全部使ってしまった筈なんだが。

 一応ステータスを開いて確認してみると……、


 名前:217番

 種族:豚

 職業:養豚

 レベル:3

 生命力:18/18

 魔力:7/7

 腕力:22

 敏捷度:14

 スキルポイント:0

 魔法:土豚の術Lv1

 スキル:前世の記憶、言語翻訳、悪食Lv1、瞬歩Lv1


 何故かスキルが増えてるぅ!?

 スキルポイントを使ってないのにスキルが増えるってどういう事だ?

 神様のサービスか?

 ……う~ん。

 うんうんと頭を捻って考えてみる。

 さっき堅い石のようなものを食った時にスキルを取得したみたいだったな。

 魔物の核みたいなものがあって、そこにスキルが含まれていたと考えるのが妥当か?

 とすれば、無駄にスキルポイントを消費しなくてもスキルを取得出来るって事だな。

 獲物を食うだけで強くなれるって、これ最早チートじゃね?

 ひょっとしたら悪食の効果かも知れない。

 俺はちょっとわくわくしながら、狼の魔物を骨も残さず美味しくたいらげてしまった。

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