012 名付け
冒険者ギルド1階にて俺を従魔登録してもらう事に。
「それでお名前はどうされますか?」
受付嬢の問いに女冒険者カレンは真面目な顔で答える。
「『お豚様』で」
なんでやねん。
それ名前じゃなくて種族やろ。
俺は全力で首を振ってそうじゃないアピールをする。
「カレンさん、どうやら気に入ってないようですけど……」
「む……ではいかが致しましょう?」
俺に聞かれても答えれないんだが、お豚様にされるのはちょっとなぁ。
「ぶひ」
「では『ブヒ』で」
おい待て。
今のは何か伝わらないかな〜?と思ってちょっと鳴いてみただけだ。
案の定何も伝わらなかった訳だが。
それにしてもカレン、名付け適当すぎね?
もうちょっとちゃんと考えてよ……。
俺は助けを求めるように受付嬢の方を見る。
「カレンさん、豚さん困ってるじゃないですか。ちゃんと可愛い名前付けましょうよ」
別に可愛くなくていいんですけど。
それなりにちゃんとした名前なら。
まぁ『ブヒ』でも現在の名前である『217番』よりマシだがな。
ただの出荷番号だし……。
それにしても、カレンって実は結構ポンk……個性的だよな。
本来ならかなり綺麗であろう長い赤髪は、ゴブリンとの戦闘で乱れたままだし。
せっかくの整った顔立ちも、泥と血で汚れていて、まぁ冒険者らしいっちゃらしいんだが。
それにしてはギルマスと話している時は妙に言葉遣いが丁寧だった。
受付嬢と話している時はわざと冒険者らしく粗野に振る舞っているようにも見える。
かと思えば、名前の付け方が超適当だったりと、つかみ所が無さすぎだ。
まぁギルマスからの信頼は得ているようなので、悪い人ではないのだろう。
でも、もうちょっと俺の名前はちゃんと考えて欲しい。
「では『ポーク』で」
あらやだ、美味しそうな名前……それって豚肉って意味ですよね?
食う気満々なの?
せめて『ピッグ』にしてくれ。
「『ポーク』ちゃんですか。私は『ミート』ちゃんでもいいと思いますけど」
受付嬢、お前もか……。
出荷される前に逃げた方がいいかな?
「じゃあ『ポーク』ちゃんで従魔登録しておきますね」
「頼む」
結局ポークで決定してしまった。
いや、ただの名前だ。
気にしすぎるのは良くないな。
そして受付嬢が紙に何やら記述していく。
その記述が終わったとたん、俺の中で何かが変化した。
「ぶひっ!?」
思わず声を上げてしまったが、カレン達は特に気にした様子はなかった。
しかし俺は身体の内側から感じる魔力が増えている気がして、動揺してしまった。
ステータスを確認してみると、
名前:ポーク
種族:豚
職業:カレンの従魔
レベル:8
生命力:78/78
魔力:125/125
腕力:85
敏捷度:127
スキルポイント:3
魔法:土豚の術Lv2
スキル:前世の記憶、言語翻訳、悪食Lv2、瞬歩Lv1、剣術Lv1、短剣術Lv1、大剣術Lv1
なんか一気にレベル上がってる!?
ゴブリンがいた西の森から出て以降は何の戦闘もしてない筈だが……。
まさか名付けされた事でステータスが変化したのか?
前世のラノベでそんなギミックの物語があった気がする。
でもレベル8ってどれぐらいの強さなのか、比較対象が無いから全然分からないな。
あ、そういえば取得可能なスキルの中に『鑑定』ってあったっけ。
使い方次第ではチート級スキルと名高い鑑定様か。
でも今は戦闘の手数の方を増やしておきたいんだよなぁ。
いや、先のゴブリンのように毒を使うような奴もいるかも知れない。
敵の情報が何も無いってのも不安だな……。
とりあえず今取得出来そうなスキルを確認してみる事にした。
鑑定 必要スキルポイント1
豚牙 必要スキルポイント1
火豚の術 必要スキルポイント2
水豚の術 必要スキルポイント2
立体機豚 必要スキルポイント3
豚鋼 必要スキルポイント3
おお、色々増えてるな。
欲しかった水豚の術もあるじゃないか。
でも必要スキルポイント3のスキルもなんか魅力的だ。
そりゃポイント多く消費するスキルの方がいいスキルに決まってるよな。
でもいろんな事が出来た方が戦略の幅も広がるし、ちょっと悩みどころだ。
俺のステータス表示は俺にしか見えていないようで、カレンも受付嬢もステータスボードに視線を寄越す事は無かった。
なので俺が取得出来るスキルを眺めて悩んでいると、
「ポーク様、お腹が空いてるのですね。すぐに食事に行きましょう」
確かにお腹は空いてるんだけどね……。