011 ギルマス
冒険者ギルドの2階、応接室のような場所で俺とカレンはギルマスを待っていた。
俺はサイズ的にソファーに座れないので、カレンの座るソファーの横で伏せている。
なんか悪食のお陰か、一回り身体が大きくなった気がするんだよな。
程なくして応接室の扉が開き、一人の男が入室して来た。
冒険者ギルドのギルドマスターだ。
大柄で筋肉質、カレンと見比べるとどっちが冒険者だよってぐらいゴツい男。
まぁ荒くれ者の冒険者達を纏めるにはこういう人がトップにいないとダメなんだろうな。
「待たせたなカレン。報告を聞こうか……って、何だそいつは?」
俺を見て困惑するギルマス。
受付の人、ギルマスに俺の事言ってねーな?
悪戯か、報告するまでも無いと思ったか、説明が面倒だからカレンに丸投げしたか。
丸投げしたが正解な気がするわ。
豚に乗って来たとか、どう説明するっちゅーねん。
「この方については後程説明します」
「なんだよ、もったいぶる程の事なのか?」
もったいぶる程の事じゃないよ。
俺、ただの豚だし。
向かい合ったソファーにギルマスが座ると、カレンは西の森でゴブリンに遭遇して戦闘になった事を話した。
それを聞くギルマスは強面をさらに顰める。
「毒を使うゴブリンか。確実に上位種がいるだろうな。しかも広範囲に瘴気が広がってるってことは、こりゃ集落が出来てるかも知れん」
「私程度では奥まで調査出来ませんでしたが、かなり拙い状況だと思います」
「分かった、直ぐに上位の冒険者に調査を依頼しよう」
ゴブリンについての報告を終えると、ギルマスは少しだけ緊張を緩めた。
「すまなかったな。今回の調査依頼は完全にギルド側のミスだ。瘴気の規模的にCランク相当の依頼だからな。詫びとしてランク査定と報酬は上乗せしとくわ」
「ありがとうございます」
「さて、じゃあその豚について聞かせてもらおうか」
「豚ではありません、お豚様です」
ギルマスの豚発言を速攻で訂正するカレン。
豚でいいのに……。
「お、おう……。で、そのお豚様は何なんだ?」
「この方は私の命の恩人です。突然森に現れ、ゴブリンにやられそうな所を助けていただきました。そして毒で倒れてしまった私をここまで運んでくれたのです」
「マジか?すげぇ利口なんだな」
「言葉も理解している事から、この方は恐らく七天のお一人なのではないかと」
「おいおい、いくらなんでも七天は言い過ぎじゃねーか?そんなすげぇ豚——じゃなくてお豚様には見えねぇぞ」
何だよ七天って?
明らかにカレンの勘違いだし、ギルマスの言ってる事の方が正しいぞ。
にも拘わらず、カレンは俺をヨイショし続ける。
「お豚様は凄いですよ。あっという間にゴブリン2匹を倒しましたし、何やら魔法のようなものも使っていたと思います」
「うーむ、俄には信じがたいが……とりあえず、言葉を理解してるってのは本当か?」
ギルマスが俺に訪ねてくるので、俺は分かりやすく首を縦に振る。
「頷いてるように見えるな……。お豚様は七天なのか?」
違うっつーの。
大きく左右に首を振る。
「一応こちらの問いかけにリアクションはするが、解ってやってるのかどうかは怪しいな。七天って事も否定してるぞ?」
「お豚様は訳あって正体をお隠しになっているのです。おそらく鑑定しても低いステータスに隠蔽されている事でしょう」
何の訳もありませんけど?
っていうか勝手に設定足すな!
低いステータスは素なんだよ!
「ぶひぶひ!」
俺は抗議の声を上げるが、
「分かっています。お腹が空いたのですね」
分かってねぇ!!
でもお腹は空いた!!
「お前ら、絶対意思疎通出来てねーだろ……」
鋭いなギルマス、その通りだ。
「ではギルマス、お豚様の事はくれぐれも内密に」
「あ、あぁ……。まぁ言っても誰も信じねーと思うしな」
そしてカレンは応接室を出て行こうと立ち上がる。
「ちょっと待て」
俺もそれに続こうとしたのだが、ギルマスがカレンを呼び止めた。
「何か?」
何やら不穏な気配が……。
「お豚様じゃ可哀想だから、ちゃんと名前付けてやれ」
全然不穏じゃなかった。