第34話 妖精さんへの贈り物は(2)
「くるみさんって明日は暇ですか?」
その日の夕食時、早速碧は計画を実行に移していた。
「午後なら予定はないけど……どうして?」
碧の問いかけを訝しむように、淡いラベンダーをしたエプロンの裾をふわりとひるがえし、くるみはキッチンの中を行ったり来たりしている。
明日は土曜日だ。要するに契約外のお誘いなわけだから、その反応も無理はない。
「実はクリスマスの贈り物を一緒に選んで欲しいんです」
「贈り物?」
「はい。くるみさんと同い年の女の子なんですけど、最近会ったばかりで好みが分からないといいますか」
突然の申し出に、くるみが不可解そうに首を傾げる。
「どうしてそれを私に?」
「だって聞ける人が……」
「あ、なるほど。私の他に女の子の友達がいないのね?」
そう言ってくるみは沫雪のようにくすくすと笑った。
碧の作戦はつまるところ、彼女を友人への贈り物という体でショッピングに連れ出し、欲しそうなものを見つけたらくるみに買って渡す、というものだった。これなら人の好意に控えめな彼女の本当に欲しいものをあげられると思ったのだ。
女の子の友達がいない、と不名誉な思い込みをされていることに眉をひそめるが、そもそもほとんど事実なので訂正のしようがないし、いると見栄をはったところで「じゃあその子に頼めば」と言われてしまえば計画自体が破綻してしまう。架空の女友達とお出かけする可哀想な人にはなりたくない。
二人で外で隣にいたら見られた時に面倒だが、背に腹はかえられないというやつだ。
「私もつばめちゃん……えっと、お友達との予定も未確定だったし。空いてなくはないけど、でも……」
が、その目論見はすぐに崩れ落ちた。
彼女の口から意外な人物の名前が出てきたので、思わず尋ねる言葉が口を衝いて出てしまったからだ。
「つばめちゃん? それってまさか隣のクラスのあのグリズリーのつばめさん?」
「知り合いだったの? ちょっとグリズリーが何の事かは知らないけど……」
彼女に戸惑うように聞き返されてから、己の失策に気づく。
そうだ、女友達がいないって話だったのに。
「知り合いって言うか……無理やり知り合いにさせられた人?」
言い訳も虚しく、坩堝にはまっていくようだ。
「それなら流行り物に詳しいつばめちゃんに頼んだ方がよかったんじゃないかしら。私は物を見る目はあると思うけれど、それが女子高生の好みに当てはまるかどうかはまた別問題ですし」
「まあ確かにどう見たってくるみさんって常人じゃないからなあ」
「もう。せっかく角煮の味見あげようと思ったのに。そんなこと言う人はお預けです」
「ごめん! 角煮ください! いります!」
「まったく。ほら、熱いからちゃんとふぅふぅするのよ?」
「うわー美味そう……じゃなくて!」
平和な家族のような会話に絆されたが、今の目的はそれじゃないことを思い出す。
角煮の小皿を渡してくる華奢な手を止めるように握ると、くるみはびくっと肩を振るわせたものの、碧はそんなのお構いなしに迫った。
「兎にも角にもくるみさんじゃなきゃ駄目なんです!」
「な、なんでそんなに必死なの」
「つばめさんはまだ知り合ったばかりでろくに話したことがないというか、二人きりになるには覚悟が必要というか……それに、僕にとってはくるみさんが一番仲良いし」
言い訳を重ねてくる碧に、くるみは何故か渋い表情をした。
碧は掴んでいた手を離してから固唾を呑んで見守っていたが、なんだかんだ心優しくって根が甘い彼女はやがて考え直してくれたらしい。若干照れたようにふいっと明後日の方を向いてから、横髪をくるりと指に巻きつけぼそっと呟いた。
「……ちょっとだけ、なんだからね」




