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第255話 兄と妹(3)



 そのクラスメイトの子にはそれとなく——本当にそれとなく、気にしてもらわないようにごまかしを並べて千萩を追いかけたのだが、早々すぐには見つからなかった。


 お土産売り場にもいない。パンダのとこに戻ってもいない。LINEを送っても見ない。


 千萩もさすがにもうそんな歳じゃないので一瞬ためらったのだが、念の為に迷子として来ていないかスタッフに訊いても、やはり居なかった。


 ベルリン動物園は世界でも規模が最大級なだけあって、土地面積もかなり広い。


 なので、この手段はこちらがはぐれる危険はあるが、途中からは手分けをして三人であちこち探しにいくことに。


 ——あの子と、いったい何があったんだ?


 一人で千萩を探しながらも、やはりリフレインするのはさっきの光景だ。


 不思議なのは、ただの喧嘩ではなさそうだ、というところ。


 むこうから何か嫌なことを言ってきたりしたなら、鉢あわせた瞬間千萩だけでなく、相手の表情にも多少は出るものだ。


 気まずさとか怒りとか申し訳なさとか後悔とか、そういう類のものが。


 だけど、相手の子は何も知らなそう。ということは、千萩が何かを遠慮しているとか、勝手に嫌な気持ちを抱いているとか、そういうカテゴリーの拗れとなる。


 なら悪いのはあんな言動を取った千萩のほうになるが、そこは本人に事情を聞かないまま叱るわけにはいかないだろう。


 だけど、いない。千萩はなかなか見つからない。


 トナカイの前、見た。レッサーパンダの前、見た。


 頂天を通りこした太陽が、ちょっとずつ地上へと落ちてくる。


 早く探さなければ……と焦りを抱いて、歩くスピードを早めた瞬間、それは見つかった。


「千萩ちゃん?」


 見慣れた亜麻色の髪の少女が、ベンチの一角でうずくまる少女に、歩み寄るシーンを。


 木々の間にひっそり広がる、お弁当などを好きに持ち寄れる広場だ。ピクニックにぴったりな丸太のガーデンテーブルがいくつも並び、お昼時なのもあり、席は半分近くが埋まっている。


 そこの真ん中あたりで、千萩は椅子に腰かけながら、何をするでもなく一人でぼーっとしていた。食事をするまわりの幸せな家族からは、明らかに浮いている。


「……お姉ちゃん」


「ごめんね。探すのが遅くなっちゃって」


 一歩早く見つけてくれたらしいくるみは、しずしずと淑やかに、妹へ近づいた。


「隣、座ってもいい?」


「いい……でも、千萩が勝手にいなくなったせいで、お姉ちゃんが」


「千萩ちゃんって髪きれいよね。ちょっとさわってみてもいい?」


「え?」


 離れたところで兄妹はそれぞれ同時に、口をぽかんと開けた。


 勿論、なぜ急に髪の話になったのか分からないからだ。


「え。かみって……髪の毛のこと?」


 不思議がる千萩とは裏腹に、くるみはほわんと目を細めると、両掌をあわせた。


「ええ。ふわふわしていて可愛いなって、前から思ってたの」


「そ。そうかなあ。お姉ちゃんなら、いいけど……」


「本当? ありがとう」


 褒められてまんざらでもなさそうな千萩が照れつつ許可を出すや否や、くるみはいつものおっとりとした——それでいて真意のうかがえない微笑みで、鞄のポーチから白銀のシンプルなデザインをした折りたたみのコームと、髪留めを取り出す。


 なんだか話が妙な方角を目指し始めたので、出ていくタイミングをすっかり失ってしまった碧。とりあえず、父親には〈千萩見つかった〉とだけ連絡をいれることに。


 そのまま、柱の影から様子をうかがっていると、くるみは櫛で、千萩の生まれつきくせづいた髪を、優しく梳いていた。


 絡まりがほどけると、今度はゆびさきを器用に動かし、千萩の髪を二つにまとめて捩って、とどめにくるりと巻きつけている。


 華麗な手捌きは、あっという間に、猫耳のシルエットをしたお団子のヘアスタイルを完成させていた。


 アスファルトに落ちる影は、中学生の女の子というより、この動物園にもいる可愛いサーバルキャットのようだ。


「はい、できあがりです。鏡、見てごらん?」


 持ち運びのハンドミラーを手渡された千萩は、鏡をのぞきこんで仰天する。


「え。なにこれすごい」


「他のも試してみてもいい?」


「うん!」


 千萩の目は、ほんのすこしばかり、輝きを取り戻したようだった。


 くるみは猫耳を解くと、こんどはハーフアップの要領で、上半分の髪だけを束に分けた。それらをポニーテールにして、残りの髪はリボンの形になるように巻きつけ整えていく。


 たとえば晴れの日にとびきりのお洒落をしたような女の子が、そこにはいた。


「ほら、今度はリボンにしてみたわ。……うん、すごく可愛い!」


「……すごい。千萩じゃないみたい」


 ふふふ、とくるみは白い喉をかすかに鳴らす。


 それから席を立つと、対話しやすくするためだろう。テーブルを挟んだ向かいあわせのほうのベンチへ、スカートの裾を押さえながら座った。


「女の子はお洒落次第で、自分のことをちょっと好きになれるものだから。千萩ちゃんはどう? 自分のこと、好き?」


 碧はぱちくりと瞬きをした。


 ——そうか。それで……


 碧は、納得やら兄としての至らなさやらで、ひざを打つ思いだった。


 ヘアアレンジはくるみの優しさと気遣いだった、とやっと気がついたから。


 もし碧が考えなしに出ていって、そのまま訳も聞かずに千萩を連れて帰ろうとすれば、彼女は今も落ちこんだままだっただろう。折角の動物園の思い出が、嫌な感情に上塗りされたままだったかもしれない。


「千萩は……」


 好きも嫌いも言わず、妹は黙りこくってしまう。


 碧は、ひとつ息を落とすと柱から出た。


 そのまま、すぐ近くのテーブルへ行くと椅子をがたりと引いて座り、頬杖をつく。


 千萩の真後ろになるので彼女からは見えず、くるみからだけ見えるポジション。


 くるみがすぐにこちらに気づいたのが目線で分かったが、碧から何も言い出さないからか、彼女からもとくにアクションをおこすことなく、千萩の言葉を待っている。


 やがてひとときの沈黙ののち、千萩がぽつりと口を開いた。


「さっきの子、同じクラスの子なんだけど……」


「うん」


「千萩が一番仲がいいって思う、アンナちゃんって子の、友達なの」


 雨どいを伝った雫がぽたりぽたりと落ちるようなペースで、千萩は言葉を出す。


「でも……千萩にとっての一番の友達にとって、千萩は一番じゃないの」


 千萩の瞳が、寂しさに塗りつぶされる。


「二番とか、三番なの。さっきの子のほうが、たぶんずっと仲がよくて……そういうの、分かっちゃうから、誰かを友達って思うのが……こわい」


 震えながら、絞り出すように言い切って、それから千萩はくるみを見上げる。


「……お姉ちゃんは、学校のいろんなひとたちに好かれてるんだって聞いた。それが……羨ましいな」


 それから間髪いれずに続ける。


「でも千萩……『羨ましいな』って思っちゃう自分が、嫌。いいなって思うってことは、そのひとの努力を見てないってことだから。お兄ちゃんはたくさん外国語を勉強した。お姉ちゃんだって、人から好かれる努力をしているから、好かれてるんだよね?」


 まるで自分の努力が基準に届いていないかのような口ぶりで、気持ちを話した千萩は、そのままくるみに答えを求める。


 聴き終えたくるみは、そっと凪いだ瞳をした。


 それから首を振るわけでもなく、ただ頷く。


「……うん。人のためじゃなくて自分のためだけど、努力をしてるとは、自信を持って言えると思う」


「——そっか。そうだよね」


 意見を曲げて謙遜するような、相談者に寄りそう回答ではないものの、それで正しいのだと、碧も思う。


 もしそうしていれば、もしそれが優しさで塗り固めた嘘と分かった時——千萩は、余計に傷ついていただろうから。


「だけど一つだけ訂正させてね。私は別にいろんな人に好かれてなんか、ないってこと」


「え……?」


「私を嫌いな人はいる。私が気づいているところにも、気づいていないところにも、たぶんたくさん。だって『皆が好きだから嫌い』って考えを持つ人もいるから。私がどんな好かれる振る舞いをしようと、その人がそういう主義を持ち続ける限り、どうにか出来るものでもない。だから、どうにかしようとは、私は思わないの」


 それは彼氏である碧こそ知っている事だが、千萩はそれが思いも寄らなかったようで、うまく言葉が出ないように、ただ傾聴に徹している。


 普通なら他人にはあまり知られたくないであろう話を、まるで千萩がいち早く立ち直るためのただのピースにしか思っていないように、くるみは平淡と語り続ける。


「だから嫌われることを、私は何とも思っていない。そういう人もいるんだって、それだけ思うようにしてるの」


「……本当に? 嫌じゃないの?」


「勿論、私も人間だから全く平気っては言わないけれどね。自分が今日の自分になるまで至った道は、自分が一番知っているはずだから。私が私を肯定していれば、それでいいかなって」


 と、穏やかに笑う。


 それは、くるみが驚くほどの努力家であるからこそ、言える台詞だ。


 毎日の勤勉な積み重ねが、高みに至った知識と教養が、自己肯定の裏打ちになって、ようやく初めて、自信は築きあがるものだから。


「話を戻すとね」


 くるみは言った。


「自分で自分を認めているからって、友人関係の問題にまで納得いく訳じゃないのは事実かもしれない。さっき言ったように、他者の抱く主義の全てまでは、どうしようもできない」


「じゃあ、どうすれば……」


「千萩ちゃんの思っていること、お友達に伝えてみたりはした?」


「う……ううん」

「私のことだけどね、どうしても自分の気持ちをはっきりと伝えたい人がいて……いろいろ考えて、本気で伝えて分かってもらえたことがあったから。言わなきゃ伝わらないことってあるでしょう?」


 実の母と対話し、打ち解けたときの話だろう、ということはすぐ分かる。


 だが、ふるふると。


 千萩は青ざめた表情で、首を振る。


「むりだよ……怖いもん」


 うつむいて、目許にダークブラウンの前髪を垂らした。


 二、三度開きかけた、重たげな口から、思いが放たれる。


「……ほんとうは、なりたかったの」


 碧は千萩の後ろで、神妙に腕を組んで座ったまま、彼女の言葉に耳を澄ませる。


 だってまさか次の千萩の言葉が、自分に突き刺さるなんて、思いもよらないから。


「ほんとうは……千萩も、お兄ちゃんみたいに」


 その言葉を、碧はすぐにかみくだけなかった。


「日本の高校にかよって、明るく振る舞って友達いっぱいつくって、人見知りを直して、遠くに行っちゃうお兄ちゃんを見送りたかった」


 ——!!


 ぶん殴られたような衝撃を覚えた。


 それから感情が表へ洩れないようにすぐ、口を一文字に結ぶ。


〈千萩もお兄ちゃんみたいに〉


 自分が聞いてもよかった話なのかも分からないのに、聞いてしまった。たぶん、千萩も兄には内緒にするつもりだったのだろう。それは本当に悪いと思う。


 けれど、妹によって言い放たれたそれは、耳にこびりついて離れない。


 なんだろう、このやるせなさは。


 だって——だって。


 まさか自分が行きたいからじゃなくて……兄のために柏ヶ丘高校を、志望したとでも言うのだろうか?


 碧はてっきりというか、ごく当たり前に——千萩がただ、日本の女子高生になりたいから同じ高校に行きたいと思っているのだと。それ以上でも以下でもないと、そう思っていた。


 それが妹の選んだ道なら、兄として全力で、応援しようと思った。


 ここ一年、オンラインで妹の勉強を見てやった記憶がぶわりと、かけ巡っていく。


 高校の授業に着いていけるように、日本語のきちんとした学び直しやら、今の学校でいい成績を修めるための勉強をあれだけがんばっていたのも、もしかしてそのために?


 兄の肩の震えどころか、まだ存在にすら気づいていない千萩は、泣き言をぼやく。


「……でも千萩にはむりだよぉ。お兄ちゃんみたくなんか、なりたくてもなれないもん」


 ただひとえに兄に心配をかけさせず、大丈夫だと言って送り出すために?


 ——僕みたく、なるために?


 心に雨雲が立ちこめる。


 かっと灼かれたように体が熱くなる。


 わなわなと葛藤があふれ、巡り、一つの答えへと結実し————


「うん。……なれないな。千萩には、僕にはなれない」


 気づけば、碧はがたりと椅子を揺らし、立ち上がっていた。


 くるみと千萩が、叩かれたようにこちらを見た。


 妹のダークブラウンの瞳は、驚きと狼狽と、それから今まさにぐらぐらと昂りつつある別の巨大な感情に、上書きされていた。


 そんなの知ったことかと、碧は言い放つ。


「がんばってもなれない。人間は、他の人にはなれない」


 かっと、頬を逆上の赤に染めた千萩も、椅子を蹴るようにして立ち上がる。


「何で……なんでそういうこと言うの!」


「それが事実だからだよ」


「っ。いやだ嫌だ。違う違うちがう」


「違わない」


「お兄ちゃんなんかっ————」


「僕も千萩にはなれない。なりたくてもなれないんだ」


「!!」


 憤怒をたぎらせた千萩は、水を打たれたように、静まり返った。


 さすがに視線が集まりそうだったから、ボリュームを絞って、碧はささやくように言う。


「僕は僕にしかなれない。千萩も、千萩にしかなれない」


「……」


「できることは、自分史上最高の自分を目指すことだけだと、僕は思うな」


「……」


「言ってること、分かるか」


「……うん」


 落ち着きを取り戻したかわりに、しおしおと萎んでしまった。


 どうしても聞き逃せず、衝動に突き動かされるように訂正にかかってしまったが——自分の言ったことは、それなりの正論のつもりだ。


 他人を目標にするのはいい。だけど、目標としたその人の存在のばかり気を取られて、自分の本当にしたいことが迷子になってしまうくらいなら、そんなの目標にしないほうがましだ。


 勿論——兄が妹の壁になるなど、あってはいけないことだ。


 そうなれば、碧は、自分が許せない。妹の道を狭めた自分を許せない。


 だから千萩のその考えを捨ててもらえるなら、妹を哀しませることになっても、その結果嫌われたとしても、構わなかった。彼女がこれから長い人生を生きるうえで、考えかたの間違いを今のうちに一つ正せるなら、それでいい。


 だけど——


「ご。ごめんなさい」


 思いのほか、千萩はへこんでいた。


 ちょっときっぱり言いすぎたな……と自戒した碧は、やっぱり厳しくなりきれなかった。


 とりあえず、折角のリボンの髪を崩さないようにぽんぽんとなでてやる。


「千萩はがんばってるよ。こっちでいう国語の勉強だって、よくやってると思う。あとはそうだなー……あ、絵を描くのがわりと上手だよな。それがきっかけで出来た友達だってたくさんいるだろ? むこうから話しかけてきて……みたいなさ」


「うん」


「僕は何か目を惹くような、そういう得意がないから、自分から話しかけて、当たって砕けるしかなかったよ。千萩にはまだまだ誇れるものがある。たとえば我が妹ながら可愛いってこと。つまり友達ふやすにあたって大事な第一印象は、ばっちりってわけだ。なんだかんだ人は見た目も大事だからな」


「……ぅん」


 妹はもじもじと、スニーカーのつまさき同士をくっつけた。


 それを見て、もう大丈夫そうだと思った碧は、さきほどからずっと気になっていたことを言うことに。


「そもそもの話だけどさ。目標にするにしても、もっと他にいるだろ。僕なんか自分勝手だし、あんま計画しないで動くから、後からあーでもないこーでもないって行き当たりばったりになるタイプだ。メモしないで薬局に来て、何買うか忘れるみたいな。いいのか? なりたいのがこんなやつで」


「……やだ」


「うん。兄は傷つきました」


 妹はようやく笑ってくれた。


 涙目に、ふやけたような笑みを浮かべて、それからおずおず尋ねる。


「……あの子と、仲直り出来るかな」


「たぶんむこうは喧嘩したとすら思ってないんじゃないかな。何のこっちゃってかんじだったし。友達の二番目とか三番目とか、そういうのも千萩の考えすぎだと思う」


 人間関係で何かあった時、半分近くは気のせい……杞憂だったりするものだ。


 次会った時に話してみれば、相手は何も気にしてなかったり、そもそもこっちの心労に気づいてすらなかったりで、案外何ともなかったりする。


 難しくないのだ、人との関わりなんて皆が想像しているよりほど。


 だから〈為せばなる〉のスタンスでもっとどっしり構えていればいいのに、友達とのあれこれで一喜一憂して、そのことに気づいていない人は結構多い。


「仲のいいアンナちゃんって子だって、一番の友達に一番って思われてないかもしれない。千萩が二番目に仲よしだって思う子から、千萩は一番に思われているかもしれない。つまりは、友達に順位をつけて考えるのもよくないよなって話だ。だから、次にすべきことは分かるな?」


「……明日、ちゃんとあやまりにいく」


「そう。偉いぞ。じゃあ父さんのとこに戻るか」


 お昼がまだだったので、お腹もぺこぺこだ。


 動物も、一日じゃ回りきれないほどに沢山いる。午後はまだ見ていないレッサーパンダとかにも会いに行く予定なのだ。いつまでもここで足踏みなんかしてられない。


 父から〈お土産売り場で待ってる〉と連絡があったので、先導してそちらへ行こうとしたのだが——振り返れば、なぜか千萩だけ着いてこようとしていなかった。


 まだ話が終わっていないかのように、スカートの裾を抓んでそこに立ったまま、こちらを見据えていた。


「どうかしたか?」


「あの……高校のことなんだけど……」


 千萩の表情は、曇りが晴れたように明るい、とまでは言い切れないが、さきほどの憂いはなく、代わりに小さな決意が宿ったようなものだった。


 だから今度は兄として、身構えることなく、等身大で妹の話を聞くことができる。


「……お兄ちゃんのためじゃないから。千萩がそうしたいから、するの。一番は千萩のためだからね。だからその……応援してくれると、うれしい」


「うん。もちろん。応援する」


 見守っていたくるみも優しく笑いかける。


「私も勉強のお手伝いとかでも、力になれることはするから。遠慮なく言ってね」


「よかったな千萩。くるみさんが味方になれば一騎当千の百人力だぞ」


「千なのか百なのかわからないよ……でもお姉ちゃんも、お兄ちゃんも、ありがと」


「いいえ」


「動物園……また来ようね」


「それを言うのはあと三時間さきでいいぞ。閉園ぎりぎりまでいるんだからな」


 そこらを歩いている家族もカップルも、幸せな休日そのものの笑みだ。このベルリン動物園で、すでにたくさんの思い出をつくってきたに違いない。


 今からでも遅くないと、碧と千萩とくるみの三人は、今日を心に残る一日にするために、父の待つほうへ歩きだした。


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