一生養うのもそれはそれで良い
若菜のリュックを目の前にし、紗里は部屋の温度を上げに上げていた。
(どっどっどっ……どうすれば……⁉ 別に下着ぐらいどうってこと無いと言いたいけれど若菜の下着なのよ⁉ ああもうそんなことを考える自分が気持ち悪い!)
早く戻らねば、若菜の身体が冷えてしまう。そして風邪を引いてしまえば、勉強にも支障が出るし、愛娘を預けてくれている若菜の両親にも顔向けできない。もし風邪を引いてしまったのなら、菓子折りを持って頭を下げに行き、責任を持って若菜を一生養わなければならない。それならそれで良いなと、そんなふざけたことを考える自分の頭を叩く紗里である。
(開けるわよ? 開けるわね! 若菜‼)
目を瞑り、若菜のリュックを開けて中を漁る。
「ううぅ……」
肌触りでも判るが、肌触りで見つけたとなればそれはそれで気持ち悪い。ということで、紗里は眼鏡を外し、ボヤけた視界で若菜のリュックを漁る。
(あっあああ……、一泊分だけで安心したわ。着替えが一日分だけでよかった……)
なんとか着替えを取り出した紗里は、一瞬にして浴室前まで戻り、なにごとも無かったかのように若菜に渡す。
「これで大丈夫?」
そっと隙間から若菜に着替えを渡す。
「わっ、早い。紗里ちゃんありがとう!」
ふわりと、湿気った空気に混じってなにやら良い香りが漂った。
そしてまた一瞬にしてリビングへと戻る紗里であった。




