軌道修正
何故紗里が自分に嫌われると思っているのか。理由はよく分からないがそれだけは無いと、自然と口から言葉が出ていた。
「私が紗里ちゃんを嫌うはずがないよ⁉ 逆はあるかもしれないけど!」
「それこそ無いわよ。これからもずっと、私は若菜を嫌いになれない」
「じゃあなにも心配しなくていいじゃん」
「ふふっ……、それなら安心かな」
力無く、安心しているとは言い切れない表情で紗里は笑う。
嫌うはずが無い。その言葉が本当だとしても、紗里の思う『好き』を伝えたならどうなるか。その『好き』に向き合い、受け入れてくれるのならそれが一番。しかし、その可能性よりも、受け入れられない可能性を考えてしまう。どうしても、ポジティブに捉えることができない。
受け入れられなくても、若菜なら仲良くしてくれる可能性もある。でも、嫌われていないだけで、距離は空いてしまう。
もしかして、嫌われるかもしれない。でも、嫌いになるはずがない、その言葉の責任を取ろうとした若菜を苦しめてしまうかもしれない。
「うん、安心した」
時間をかけて心を落ち着かせて、最後にそう自分に言い聞かせた。
「もう大丈夫! ごめんなさいね、勉強時間を奪ってしまって」
そして気持ちを切り替えるため、努めて明るくする。
「うん……、大丈夫ならよかった」
どこか釈然としないが、紗里がそう笑うのなら、これ以上突っ込めない。もういつも通りの紗里なのだから、頑張っていつも通りになったのだから。わざわざそれを崩すことはできない。
「さて、勉強ね。そのために、今日は泊まるのだから」




