アレらより無害
「ごちそうさまでした。さて、紗里ちゃん、聞かせてもらおうではないか」
「うっ……」
そそくさと食器を持って離れる紗里。そのまま食器を洗おうかと思ったが、水に浸けるだけにして戻ることにした。
若菜のジトっとした目に見つめられ、やや気圧され気味だ。
若菜には責めるつもりは無いのだが、なんかいつもより弱っている紗里を見て楽しくなってきた。でも楽しくなってきただけで、話は紗里がなぜテーブルに額を打ち付けるという謎動きについてだ。
「もしかして体調悪い?」
「そうじゃないのよ」
「ならいいんだけど……紗里ちゃんらしくないよ。いや、違うな。うーん……紗里ちゃんってなんやかんやで結構面白いからなあ……」
「ちょっと待ってどういうこと?」
「ん? いや別に、なんか面白い部分もあるよなーって」
「くっ、詳しく! 待って言わないで! え、でも待って⁉」
「ちょいちょいちょい、紗里ちゃん⁉」
「はっ、私はなにを!」
(待って持って待って持って待って持って待って持って! 待って! 若菜に気づかれている⁉ どういうことなの? え、じゃあ今の私の心の中も読まれてる⁉ そんなはず……だって外には出さないように――今は出してしまったわ! でも自覚があるということは普段は隠せているということで、引かれる……⁉ 若菜に引かれたらどうしよう……!)
紗里の頭の中に、目を合わせてくれない若菜の顔が浮かんだ。
『えっ……紗里ちゃんって、そんな人だったんだ……。なんかちょっとショック……。勉強? うん、ありがとうありがとう。あっ、私が特待生取るためだもんね……。うん、我ま――頑張るよ、それまで』
「紗里ちゃん⁉ なんて泣いてるの⁉」
「若菜ぁ……」
自然と涙が溢れてきた。なにがあっても心の内を見せまいと、凛としてきた紗里であったが、これからのこと、若菜との繋がりが無くなると考えると限界だった。
もう取り繕うことなどできず、今はこの胸の不安を流し出すことしかできない。
しかし、主に涼香のせいで、美人って変な奴しかいねえなという思想になっている若菜は、紗里がどんなに変なことをしようとなんとも思わないし、仮に変であっても、圧倒的に涼香や菜々美よりも無害だ。むしろ紗里のことを可愛いと少し思うに留まるだけ。
「えぇ……」
ただ、いきなり涙を流してしまった先輩に困っているだけであった。




