美味しいという感想が一番嬉しい
激しく額を打ち付けた紗里を見て、腰を浮かしかけた若菜だったが、紗里はすぐさま起き上がる。
「そう言ってもらえて嬉しいわ」
微笑んでそう言い、まるでなにごとも無かったかのように食事を再開する。
そのあまりにも自然な雰囲気に、若菜はさっきまで自分は幻覚を見ていたのかと錯覚する。
「若菜? どうしたの?」
「え?」
「あなた、疲れているのね」
「うーん、そうなのかな……?」
紗里は誤魔化すため、若菜が見たものは幻覚だと、勉強のしすぎで疲れているのだと言う。
若菜も若菜で、紗里がそう言うのだからそうだろうと納得した――訳ではなく。
(紗里ちゃん、疲れているのかな……? うん、触れない方が良いのかも)
その場の空気を読んでいた。
「そうなのかも」
「だからいっぱい食べて、これからの勉強に備えなさい」
「うん! ご飯が美味しいから頑張れるよ‼」
若菜が満面の笑みでそう言うと、再びテーブルに額を打ち付ける紗里である。
「ごめんツッコませて‼ 紗里ちゃんどうしたの⁉」
さすがに二回目はスルーできるはずもなく、腰を浮かした若菜がツッコむ。
「若菜、食事中よ。まずは食べないと」
「えぇ……」
誤魔化すのが無理だと悟るや否や、紗里は時間稼ぎを始める。
(どうしようどうしようどうしようどうしよう。味がしない、どうしようどうしようどうしよう。どうやって誤魔化せば、若菜、そんな目で見ないで、あああ……だって嬉しすぎるのが駄目なの。若菜に美味しいと言ってもらえて正気を保っていられる訳ないじゃないの‼)
「分かったけど……ちゃんと正直に話してね」
ジトっとした目で紗里を見て、味噌汁のひと口。
「うん、美味しい」
三度テーブルに額を打ち付ける紗里であった。
「なんで⁉」




