止められるのは自分自身
「それじゃあ、私はご飯を作るから、若菜は私が言った範囲まで勉強をしていて」
「分かった」
(本当は若菜と一緒にご飯を作りたいのよ⁉ でもそれはできないのよ! この合宿の目的は、若菜の学力向上なのだから! 許して、そして、もう一度チャンスが欲しい。今度は合宿じゃなくて、ただのお泊まり会として若菜を呼びたいわ。あああああああ! 駄目! 想像したら、もう……‼)
「頑張ってね」
そう言って、紗里はキッチンに引っ込む。
若菜が頑張って勉強をしているのだ。自分も頑張って、若菜の胃袋を掴めるように頑張らなくてはならない。美味しいと唸る料理を。
(まずはお米から。若菜が食べる……若菜が食べる……若菜が食べる⁉ 今更ながら、若菜に手料理を振る舞うのよね? 待って、待って持って美味しいって――言ってくれるわよね? 若菜なら、不味くても美味しいって笑顔を見せて……)
一人考え込みすぎて顔を暗くする紗里である。しかしすぐに気を取り直し手を動かす。
(でも一番嫌なのは、私が怪我をして若菜に心配をかけるのことよ。多分、あの子は悲しんでくれるのよ。そういう子)
炊飯器のボタンを押して、次は野菜を切る。トンテキと一緒に盛るキャベツと、味噌汁に入れる根菜類など。残っている物を入れる、別に特別でもないただの味噌汁だ。
リズミカルに心地の良い音を立てる。わざと立てる。そしてハッとして手を止める紗里。
(なにをやっているの! 若菜の集中力を削ぐことをしちゃ駄目じゃない‼ これも集中力を保つ練習……駄目駄目‼ 正当化しては駄目‼ でっでも! 匂いは仕方ないわよね? ね?)
真剣に勉強をしている若菜の背中を見ながら、よくそんなことを考えられるなと、自分でも思うが止めてくれる者は誰もいない。




