できれば苦労しない
別に暑くもないし寒くもない、丁度良い温度のスーパーの中、若菜と紗里は二人で相談しながら食材を見ていた。
「どうしよう……」
「迷うよね。紗里ちゃんの好きな食べ物ってなに?」
「なんでも好きなのよね……」
(ごめんなさい、つまらない舌よね……)
「若菜の好きな食べ物は?」
「ガツって食べれるものだね」
「ガツっと……。揚げ物とか、お肉とか?」
「そうそう、元運動部だからね」
「なるほど、じゃあお肉ね」
そう決めて、精肉売り場へと向かう。
(ここは国産、いえ、国産黒毛和牛の出番ね。高いけれど、若菜のためなら痛くもないわ! 待って、若菜はガツッとしたものが好き……、それは口に入れたら溶ける国産黒毛和牛ではなくて、噛みごたえ抜群、旨味溢れる外国産のお肉の方がいいんじゃない? 更に待って、若菜は牛肉が良いの? 豚肉? それとも鶏? 鶏ムネや鶏ササミ? ストイックね……!)
「好きなお肉は?」
「豚肉!」
「豚肉ね、じゃあトンテキにでもする?」
「する!」
(あああああああ! 若菜の笑顔! 笑顔が眩しい! 良かった、お腹いっぱい食べて!)
「分かったわ」
とりあえずトンテキ用の豚肉をカゴに入れる。
その後はキャベツ、卵、カップスープやヨーグルトなどなど――手っ取り早く食材をカゴに入れてレジへ向かう。
「私も出すよ」
そう言って財布を取り出す若菜を手で制する。
「良いのよ、気にしないで」
「いや良くないよ。勉強教えてもらって、泊めてもらって、ご飯作ってもらうんだよ? 良くないよ?」
「ど真ん中ストレートの正論だけれど……若菜は頑張っているでしょ? あと金銭的に高校生はお金無いでしょ、若菜はアルバイトしていないし」
「持たせてくれました」
「……なるほど」
(お父様とお母様からそれ用で貰っているのね。それなら出してもらわないと若菜にもご両親にも悪いわね)
「なら、半分お願い」
「うん!」
買った食材は、今日と明日の分。割り勘すれば丁度良い。
会計を済まして、肉用の氷を貰ってスーパーを出る。
「私が持つよ」
「いいわよ。袋二つ、そこまで重くないし」
「ダメ、紗里ちゃんは楽して」
さっきから若菜は荷物は自分が持つと言っている。紗里にとってはこの程度、持っていないと同義なのだが、紗里の事情を知っている若菜はそれを嫌がる。
「じゃあ、一つだけ持ってもらおうかな」
「本当は二つがいいんだけど……」
「楽のしすぎも、私は駄目なのよ」
渋々袋一つを持つ若菜。
「ありがとうね、心配してくれて」
その頭を優しく撫でたい紗里である。ただ、そう思って撫でることができれば苦労はしない。




