全てを込めたお義父さん
『おっけーだったよ』
若菜からそう返信が来たのは、掃除が終わって瞑想をしている最中だった。
(良かった、ここまでして来られなかったら数日は横になっていたわ)
『気をつけてね』
そう返信をして、紗里はまた目を閉じる。
(若菜が泊まりに来るということは、これはお泊まり会……、お泊まり会、なんて響きなの? これでは持たないわ。違う、目的を思い出すのよ! これは合宿、勉強合宿よ! だから別におかしなことではないし、若菜の受験のための合宿、勉強よ。勉強漬けよ!)
紗里と若菜の二人だけで、合宿と言えるのかどうか分からないが、そう考えなければ緊張でおかしくなりそうだ。
「瞑想は駄目! 緊張してきた!」
無心になれないし、なんなら考えすぎておかしくなりそうで、とりあえず声を出してみるがそれはそれで恥ずかしい。
紗里はモゾモゾと、カーペットの上でのたうち回る。考えないようにしているが、どうしても意識は若菜に向いてしまい、僅かに響く足音が若菜のものだと判ると、身だしなみを整え、なにごとも無かったかのように振る舞う。
程なくしてインターホンが鳴らされ、紗里が鍵を開けて若菜を迎える。
「おかえりなさい」
「おじゃましまーす。はい、紗里ちゃん。お世話になります」
全身全霊で全ての勇気を振り絞り発した「おかえりなさい」はスルーされ、若菜から最初は持っていなかった紙袋を渡される。
「別に気を使わなくてもいいのに」
とりあえずそう言いながら受け取り、平静を装う。
中は洋菓子店の焼き菓子の詰め合わせだった。
「お父さんが急いで買いに行ってねー、紗里ちゃんに教えてもらうんだからちゃんとしろって」
「そう、お義父さんが」
(お父さんとお義父さんって、意味と字は違うのに音は同じで良かったわ)
「ありがとう。なら、期待に応えてみっちり勉強しましょうか」
「うん! 頑張る!」
改めて、しっかりと教えなければならないと気を引きしめる。
「でもその前に、夕食を買いましょう」
そのために、まずは腹を満たす必要がある。




