秋の勉強会にて 菜々美とここね 5
菜々美とここねが目を覚ました頃には、もう日は傾いている。なぜ昼寝は、一時間少ししか取っていなくてもスッキリするのか。
「菜々美ちゃん、朝だよ」
「ゔぇ……?」
同じ布団で寝て、同じ布団で目覚める。まるで同棲ではないかと、そう思ったここねは世界の理をねじ曲げようとする。
ガッツリ日は傾いているのにこれは朝だと言い張る。それに二人は同棲している設定を貫く。
「……………………………………あとごふん」
「今日は一緒にお出かけする予定だよ?」
「ゔぇ……?」
今の菜々美の脳の処理速度では、なんかもうよく分からない状態だ。違うような気もするが、ここねの言う通りだとも思う。
「昨日の作り置きのご飯あるから、早く食べよ?」
「……………………トムヤムクン?」
「それは一昨日だよ?」
「ゔぇ……?」
そう言われるとそんな気がする。一昨日はここねお手製のトムヤムクンを食べて火を吹いた記憶が生まれる。
「昨日は豚の柚子胡椒ステーキだよ」
「…………朝からステーキ?」
「菜々美ちゃんが食べたいって言ったんだよ?」
「ゔぇ……?」
別に朝から食べることは容易だが、どうも記憶が定着しない。そうだと思うのだが、ピッタリと記憶のピースがハマらない感じだ。
「今日は冬服買いに行って、ケーキ食べる予定だよ?」
「そうね、そうだったわ」
それは記憶している。忘れるはずがない。この前学校で約束した覚えがある。
「学校……?」
「菜々美ちゃん、どうしたの?」
「待って……、頭が……、追いつかない」
「菜々美ちゃんとわたしは一緒に住んでいるんだよ?」
「なんて幸せな未来なの……」
ここねの言葉に返した菜々美は、ようやく起き上がる。
頬を膨らませている可愛いここねを抱きしめて頑張って考える。
今抱きしているここねは本物だ、そしてここはここねの部屋。勉強道具もある。
「生きてる……」
「もー、世界の理をねじ曲げようと思ってたのにー」
「物騒なこと言うのね」
ぴょこぴょこと、サイドテールを揺らし、ここねがベッドから降りて勉強の準備を始める。
「あともうちょっと、勉強頑張ろ?」
「そうね」
菜々美もここねの前に座り、軽くストレッチする。
ここねと共に過ごす、そんな幸せな未来を想像して、それを手に入れたいと望む。
そのためにはとりあえず勉強を頑張って大学に合格しなければならない。躓く訳にはいかないのだ。
「頑張りましょうか」
「うん!」
自分達の速度で歩くために。




