秋の勉強会にて 若菜と紗里 5
なにも言い返せない紗里は、はむはむとフルーツサンドを頬張る。
若菜も特に追撃せず、あむあむと食べている。
とりあえず一つ食べ終えた頃に、紗里は慎重に口を開いた。
「本当に、大丈夫なのよ? むしろ若菜の方がしんどくないかしら?」
「うーん……、やっぱしんどいっちゃしんどい。紗里ちゃんとだから頑張れてるんだけどね。なんせこんなに勉強したの初めてだからさ」
(私とだから……頑張れてる……? なっ、なんてことを……! 待って、待って待って、顔が……ふにゃける……。駄目、ああ、うっ嬉しい……)
「なるほど。確かに、習慣づいてないと難しいわよね」
(危ない! そ、そうよね、今までずっと部活を一生懸命頑張っていたものね、偉いわよ。はあ――そうね、今まで頑張ってくれていたけれど、来月まで持つかどうか。無理をして、直前にパンクなんてしたら今までの努力が無駄になる……)
「慣れないんだよね……」
「それなら、少しペースを変えましょう」
「えっ、そんなことできるの⁉」
「……………………」
「なんで目逸らすの?」
(できると思う⁉ できるわよ‼ 週末は若菜が泊まってくれれば! 移動時間削減! 丸一日使って休憩を多めに挟みながら勉強! 若菜が自主的に勉強している時間に私を付ける、効率化よ! でも……言えたら苦労しないわよ‼)
「なるほど! 紗里ちゃんの家に泊まればいいんだ!」
「え⁉」
(いきなりどうして⁉ もしかして若菜、私の心を読めるようになった⁉ 待って、それだと私の気持ちがダダ漏れじゃない。でも、それでもそう言ってくれるということは……もしかして……………………あっ、スマホ……涼香ちゃんのお母さんね…………)
紗里も自分のスマホを確認する。
『文化祭のお礼よ』とだけ、連絡が来ていた。
ちなみに若菜も紗里も、涼香の母からメッセージを受け取ったが、送り主は涼香である。
「そうね、泊まれば勉強時間はいい感じになるわ」
「いいの?」
「もちろんよ、着替えは無いけど」
「取ってくる!」
「ええ、気をつけて」
「うん‼」
そう言って、すぐさま準備をして家に帰る若菜である。
「………………え? 今日、すぐ?」
半ば放心状態の紗里は怒涛の展開についていけなかった。




