秋の勉強会にて 菜々美とここね 3
今日はなぜか、ここが夢の世界であることを菜々美は自覚していた。いつもならそんなこと分からないし、起きれば夢の内容なんて忘れてしまう。
「嫌よ! 忘れたくない!」
「菜々美ちゃんこっち見てー」
「でゅうぇっへへ……」
残念でだらしなのない表情を浮かべてここねを見る菜々美。ここは夢の中、誰も見ていないのである。こうして白昼堂々ここねを抱きしめても問題無い。誰も見ていないから。
「菜々美ちゃん――」
そうやって、デレデレとここねを抱きしめる菜々美の背後から、注射針の様な細く鋭い声がした。
「なにやってるの?」
「こっ――こここっ、ここね⁉」
「菜々美ちゃん、わたしだけ見て」
そう言って夢の中のここねが菜々美の首に腕を回してくる。
「菜々美ちゃん、わたしを見て?」
すぐ側ではここねの甘い声、背後ではここねの凍てつく声。つまり――。
「ここねが二人⁉」
ここは夢の中、なんでもありだ。それこそここねが二人いてもおかしくない。だって夢だから。
「菜々美ちゃん、ちゅうしよ?」
「菜々美ちゃんから離れて?」
眼前には頬を染めたここね、その背後に光の無い瞳のここねがいた。
「離れて」
ここねがここねの首根っこを掴んで菜々美から引き離す。そして引き離すと、今までここねがいた場所にここねが滑り込む。
「いくら私でも今は許さないから」
「こっ、ここね⁉」
「菜々美ちゃん、これは夢だもんね? なにをしてもいいよね?」
そう囁きながら、菜々美の髪の毛を耳にかけて顎に手を添える。
「あっあああああ……」
そこで――菜々美はこのここねが本物のここねだということに気づいた。理由がある訳ではない。ただ、そう直感したのだ。なんで夢の中にここねが入ってきたのかは分からないけれど。
「ね?」
「あああああああああああああっ! ああああああああああああああああああああああああああああ‼」
「きゃー」
そして菜々美は爆発、爆風に乗るここねであった。




