秋の勉強会にて 若菜と紗里 3
勉強の休憩がてら、紗里は若菜に一つの疑問をぶつけた。
「若菜って、その場の雰囲気でそれっぽいことを言えるじゃない?」
「え? うん、まあ。身に付いたね」
「それってどんな感じなの?」
「ええー、どんなのって聞かれても……、えぇ……」
腕を組んでうんうん唸る若菜。勉強中よりも考え込んでいる様子だった。
雰囲気に合わせてそれっぽいことを言えるだけで、どうやっているかと聞かれても、なんとなくとしか言えない。
「この場の雰囲気でなにか……、それっぽいこと……?」
紗里も、自分で聞いてこれは難しいなと改める。
「その場の流れが大事で……、ふざけた場面でしかないような……」
「そうよね、ごめんなさい。変なことを聞いて」
「いや、大丈夫大丈夫」
若菜が笑いながら応える。
(若菜好き好きの雰囲気を出せば、若菜が気づいてくれると思ったのだけれど、難しいわね。あと恥ずかしいわ。徐々に距離が開いていく関係……考えただけで倒れそう……)
そこでふと、紗里は思った。
「あまり雰囲気に流されては駄目よ?」
「急にどうしたの?」
「いえ、思っただけ。大学生ってそこら辺――妙ね……」
「急にどうしたの?」
「……なんでも無いわ」
急に考え込んだ紗里の雰囲気に若菜は少し黙る。それっぽいことを言えるだけで、別に言わなくてもいい場面では言わない。今はその場面だ。
真剣な表情の紗里を見つめる。
(やっぱ美人だなー……、美人は涼香で見慣れてるけど。紗里ちゃんも他の美人とは違うよなー)
眼鏡を取れば美人――という展開は良くある。でも紗里は、眼鏡をかけていても美人だ。それも超絶美人。
(まつげ長い……、髪綺麗……、お肌綺麗……。なんだろう、自信なくしそう。いや別に自分で自分のこと可愛いとか思ってないけど。涼香にはそんなこと思わないのに……、紗里ちゃんが完璧すぎるから……? それだ! だって涼香って涼香だもん)
(え、ちょっと、待って、どうして若菜に見つめられているの? 恥ずかしいわ、変な顔していないかしら? ああもう、頬が緩みそう、にやけてしまいそう。うぅ……可愛い……。駄目よ、こんな時は涼香ちゃんのことを考え――他の子のことを考えるのは良くないわ‼ こんな機会無いのよ! 若菜に見つめられる機会なんて殆ど無いのよ!)
二人見つめ合う、謎の時間が生まれるのだった。




