秋の勉強会にて 若菜と紗里 2
いつも通り紗里の家で勉強を見てもらう。
どんなに難しい問題も必ず紗里が解説してくれる。それも無料で。同級生や、進学校に行った中学の友達が、塾に行っているという話を聞く度、若菜も紗里にお金を払った方がいいんじゃないかという気持ちになる。
「お金払った方がいいよね……?」
「お金?」
「あっ。まあ、うん。多分有名な塾よりも良いと思うからさ」
若菜の言葉に紗里の脳はフル回転を始める。
(若菜の言いたいことの意味は解るわよ。でもね、私は若菜だから教えているのよ。他の誰でも、どれだけ大金を積まれても教えないわ。というのは言い過ぎだけれど、若菜だから教えているのよ。でもそれを言うのは無理よ! なんて返すのが正解なの? いえ、正解じゃなく、若菜に気を使わせないかつ、私の気持ちが伝わりつつ伝わらないラインを――)
若菜だから教えるのよ――と言っても、若菜は紗里の気持ちに気づかないだろうが、もしかしてがある。
でも、そのもしかしてに気づいてもらわなければ、この関係は進展しないのも事実だ。
(こうなれば……言うしかない! だって、若菜は成長しているのよ! 私も成長しないと駄目じゃないの!)
「若菜だから教えてるのよ」
「やったー」
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魂が抜けないように、口を固く閉じる紗里であった。




