ゲーム部にて 5
「私のことはいいから早く行け‼」
「なっ……⁉」
「うわぁ……」
しかし千春は逃げなかった。
友を捨てて逃げるなんてできない――という理由ではなく、涼香も足を止めた。
「そのセリフ、私も言ってみたいわ!」
「だと思った」
「おいおいおい、私の犠牲を無駄にする気か? 早く行け!」
「悔しいわ‼」
「えぇ……」
地面を叩く涼香であった。
そして、そんなことをしていると追いつかれるのは必然である。
『王子!』
「この文字、どこを向いていても見えるではないの」
地面を見ていた涼香が顔を上げる。
声はしなかったが、テキストとして現れた文字を見て、三人は顔を見合わせる。
「あたし関係ですか」
鎧姿の男が、息を切らしている。その意気を切らしているのも、仕草とテキストだけ。『ゼーハーゼーハー』と文字と仕草で見るのはなんか面白かった。
「涼音ちゃん、なんか頑張って」
「お姉ちゃん見ているわ」
「誰がお姉ちゃんですか」
そう言いつつも、涼音は鎧姿に話しかける。
「どうも」
『王子、どこへ行っておられたのですか。』
「あたしが聞きたいよ」
『早く帰らなければおやつの時間が過ぎてしまいます、』
「そんな幼稚園児じゃないんだから……」
『他の者も待っています。さっ、早く城へ帰りましょう』
それっきり、鎧姿はなにも喋らない。一応名前は『兵士』らしい。
「見事に会話が噛み合っていたわね」
「律儀だなぁ」
「なんかまあ一応……。それよりも、選択肢出てきましたよ」
涼音の前には『はい』『いいえ』の文字が現れている。一応涼香と千春も認識できているが、自分達の前には出ていない。涼音だけに現れている選択肢だ。
「行くしかないな」
「私達も連れて行ってくれるのかしら」
「怖いこと言わないでくださいよ……」
『はい』を選びかけていた涼音の動きが止まる。もし、この選択肢で涼音だけ城へ戻ってしまうのなら、絶対に選ばない。できるか分からないが、今ここで馬車を奪うために戦う。
「その時は設定からゲームを辞められるから、それを選べばいいよ」
なんやかんやで二人のことを解っている千春がそう助言する。
「……分かりました」
「瞬間移動なら掴まらないと一緒に行けないわよ」
そう言って、涼香は涼音と千春と手を繋ぐ。その手を涼音は離さないように力を込めて握る。
「じゃあ、選びますよ」
涼音が『はい』を選択肢する。
『それでは、馬車に乗ってください』
そうして、再び景色が変わった。




